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小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』  ~泣いたら強いんですよ、ほか

歌集読む211



小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』
書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズ48。2019年4月。

よくわからない絵の表紙だ。パーの人と、その影のようなグーの人がいる。グーの人は胴体も指で出来ているように見える。じゃんけんならばパーの人が勝ちだけど、二人とも手前にあるどんぶりやコップを見ているようだ。
どんぶりは五つで、コップ四つで瓶一本。それにしては箸の本数が多い。それらが床にじかに置かれているのもよくわからないし、じゃんけんの二人はこれらの容器に何を見出だしたというのだろうか。

裏表紙はもっとわからない絵だ。
この黒いのはさっきのグーになってる影の人だろうか。なぜかぐにゃぐにゃになって窓のような場所にはさまっている。窓の向こうへいくところなのか、それともこっちへくるところなのか。そもそも窓なのかどうか。ビルがあって屋根が映っているようにみれば窓だ。



父の切る爪がぱちんと飛んできた箱根の5区の坂の途中で
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→一緒にテレビで駅伝を見ていると考えてみた。そうは言ってないけど。ランナー目線にも見えるところが面白味。



目を閉じて片足でゆらゆらしてるあいだに孤独がすごい集まる
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→そういうことしてると不安定になってくる。それは体勢もそうだけど気持ちにも響いている。孤独が集まるというのがいい。

結句に「すごい」をつけるのがこの人の手癖なのか、8ページ、28ページ、44ページ、46ページ、79ページにも見られる。



柔道の受け身練習目を閉じて音だけ聞いていたら海です
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→あーたしかにそんなふうに聞こえるかもしれない。バタンバタンと受け身をとる音が、だんだん波の音になる。
「海です」は、海にいるみたいに思えてきますという意味もとれるけど、周囲が海になっていましたということだったら楽しい。



目を覚ますたびに神社の境内にいます彼女の膝で眠ると
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→目を閉じる歌が続いたが、こんどは目を開けたら場所がかわっている歌だ。なぜ神社の境内なのか。彼女は霊的な存在である、とでも、いうのだろうか……。



たまに頬に生ハムのっけてみたくなることもあるでしょ人間だもの
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→これも体が横になってるっぽい歌だ。
奇妙な欲望を、奇妙に説得しようとしてくる。「人間」という括りのでかさ。



甥っ子に五十メートル何秒と聞かれた喪服ばかりの部屋で
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→喪服ばかりの部屋と言われて、甥っ子の質問が生き生きした内容だと気づく。少しでもより速く走ることに甥っ子は熱中しているのだろう。



嘘をつきすぎると神から警告の意味でこけしが代引きで来る
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→閻魔様に舌を抜かれると昔は言われていた。代引きってところがいい。都市伝説みたい。っていうか分かりづらいよ神様。



ささやかな抵抗としてえいえいおう利き手ではない方でやってる
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→これも意味が伝わりにくい歌。この場合は伝わらなくていいわけだ。
オレもやろうかなと思った。



ママチャリでロードバイクを抜き返す泣いたら強いんですよわたしは
/小坂井大輔『平和園へ帰ろうよ』

→なんの競争なんだ。こんな条件のレース競技があると思えないし、道路で同じ方向に走っていた二人がなんとなく競争しはじめちゃったのかと思った。それなのにむちゃくちゃ必死で泣いて漕いでいる。なんの涙なんだ。
「抜き返す」ってなかなか短歌で見かけない言葉だ。デッドヒートですよ。
「強いんですよわたしは」って口調からすると、いい年した大人同士と思われる。



おいでおいでの動きキモいと妹に言われる即刻猫ブーム去れ
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→山川藍さんの『いらっしゃい』に出てきそうで絶対に出てこない、兄の目線の猫の歌。



蛇を首にかけた写真があるといい母は自分の部屋に戻った
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→これから蛇を首にかけた写真をもった母が戻ってくるわけだけど、それを待つ変な間の途中で歌がおわるという切り口。母は見せたそうだけど、こちらは見なくてもよさそう。その温度差が、切り口から感じられた。



限界になるまで行きたくない歯医者 うどん やさしい うどん さみしい
/小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』

→虫歯によって食べれるものが制限されてくる。うどんそのものは変化しないが、それを食べる気持ちは変化する。一字あけと形容詞で表現されている。



おもしろかった歌はそういう感じでした。

「神様」が軽い感じで出てくるのがなんか嫌でした。いや、おもしろくて取り上げた神様の歌もあるけども。




この本おわり。
んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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