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川野里子『歓待』  ~混濁の母、ほか

歌集読む 206

川野里子『歓待』
砂子屋書房。2019年4月。第六歌集。

前回につづいて川野里子さんの歌集を見ていきます。
「現代三十六歌仙」というシリーズの一冊。このあいだ「令和三十六歌仙」というシリーズの歌集の一冊をとりあげたけど、そういう歌集のシリーズはいっぱいありすぎてよくわからない。



ひと匙を食べて目瞑りふた匙を呑みて苦しむ命見てをり
/川野里子『歓待』

宇宙から見れば今死ぬ吾の手が今死ぬ母の手を握りをり
/川野里子『歓待』

母の母その母の母あつまりてさやさやと愛づ老衰の母
/川野里子『歓待』

ここまで、冒頭の「Place to be」という連作から引いた。この一連は今年の短歌研究賞に選ばれていて、高く評価された連作といえる。
第五歌集の最後のところで徘徊している歌を引いたけど、その母が亡くなった一連。
ところどころに詞書がある。断片的な言葉だ。〈宇宙から~〉の歌には「もう帰ろう」、〈母の母~〉の歌には「また 会おうな」とある。母の言葉なのだろう。ぽつりぽつりとしている。



ヘラクレスオホカブト闇を動きをり大きな虫は大き怯えに
/川野里子『歓待』



「絆」とは何だったのか人間の繋がりをけふ「共謀」と呼ぶ
/川野里子『歓待』

→そういえば最近、社長が社員たちを「家族」と言ってる会見を見たな……と思っていたら、次に丸をつけたのはこんな歌だった。
笑ふことなきままお笑ひみてをりぬ松本人志あはく汚るる
/川野里子『歓待』





帰宅せし闇に微かに震へつつウヅラの卵を抱く冷蔵庫
/川野里子『歓待』

→こうしてみると冷蔵庫が親鳥みたいだ。暗かったり震えたりしていて、厳しい環境であるかのようだ。
さまざまな家電製品について詠んだこの連作のタイトルが「家電ツァ」。音楽用語のカデンツァにひっかけている。



一匹、二匹、三匹、家族はさぐりあひまたたきてをり停電の闇
/川野里子『歓待』



青空のひとところわづか震へをりプールの水面に蟻は溺るる
/川野里子『歓待』





知床の岬の歌かところどころ虫喰ふやうに老人歌ふ

「はまなすが咲く頃」「はまなすが咲く頃」そこから先のあらぬ知床

酸素マスクの中に歌われ知床の岬は深き霧の中なり
/川野里子『歓待』





スリッパ、窓、便器、吸ひ飲み もろともに漂流してをり混濁の母と
/川野里子『歓待』

最後にまた母の歌を引く。歌集の冒頭の一連で母の死が歌われるが、末尾のほうに生きている母の歌がある。
病室の物が四つ並んでいるが、順序や選択にまとまりがなく、これが混濁を表現しているものと見た。どこへ辿り着く漂流なのか、すでに読者は知っている。

最後の状況が繰り返し出てきて、つらいものがありました。
この本おわり。



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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