FC2ブログ

「未来」2018年9月号を読む【前編】  ~青は愛より青し、ほか


「未来」2018年9月号。

未来9月号は800号で「800号記念特別号?」となっている。
何が特別かというと、巻頭にさまざまな人から寄せられたコメントが載っている。それから巻末に90ページくらい「八〇〇号記念未来歌集」の前半が載っている。これは自選10首とエッセイ。
この記事では前編として通常のページを扱い、次回後編として特集の未来歌集のページを扱う。




でも、ぼくは謝らないぞ 乾電池入りの味噌汁ごくりと飲んで/秋月祐一「愛について」
→「噌」は口に曾を書くほうなんだけど、この字がでない。
前半は幼稚な決意だが、後半は妙なのみものが出てくる。そんな具の味噌汁は絶対にない。なにをあらわす乾電池なんだろう。機械を動かすのが電池だけど、ほんとにすごい機械は乾電池で動いたりはしないし、前半の意地っ張りな様子はむしろ人間くさい。
ともかく異様さに打たれて丸つけた。



「はしっこ」と辞書を引いたらすみっことはしっぽが現れて尾を振る/やすたけまり「はしっこすみっこ」
→辞書で単語の意味を調べると、同じ意味の言葉がでてくる。「はしっぽ」って言わないなあ。
「しっぽ」が「尾」を導いて、かわいい動物があらわれたかのようだ。



ゆうぐれに元交際相手と呼ばれてる名前の中の〈美〉という文字よ/鈴木美紀子「てふてふ」
→「元交際相手」って普段の会話では使わない言葉だ。ニュースの、それも良くない事件の報道で出てきそうな言葉だ。夕方のニュースなのだろう。被害者か加害者かわからないがテロップの名前に目がいくのはわかる。〈美〉は作者の名前にも含まれている。色違いのブルゾンの歌を思い出す。

容疑者にかぶされているブルゾンの色違いならたぶん、持ってる/鈴木美紀子



どうしても外国製のクッキーの袋があかず中で砕ける/戸田響子
→「あるある」でありながら「外国製」「中で砕ける」にはふくみが感じられる。そこに何かを読み取ろうとすれば読み取れる。



お父さんお元気ですかいい響きこんな便りを父の日ほしい/藤島優作



絶望と不安を夜半に腑分けせりクエルトコロガスコシモネエナ/白川黴太「黒南風がGoogle Mapsに溜まる」

→魚を箸でほぐしてるようなイメージで読んだけど、「腑分け」って解剖のことだったな。そうなるとちょっと変わってくるな。
自分の心を探っているのだろう。そのなかでべつの声も聞こえてくる。



一つの雲が産まれて消えて行くまでを静かに眺めている母子像/三浦将崇



しゃべらない客と覚えているのだろう黙したままで髪を切りゆく/森緑



吊革の珊瑚のごとくそよぐ夜をそつと乗りゆく窓の深くへ/漆原涼「Blue」

→「珊瑚のごとく」で電車が海の中みたいになっている。「窓の深くへ」は電車をどこからどう乗ったのか、なにをどこから見てるのかよくわからなくなるが、上の句のイメージと響き合っているようだ。



赤ちゃんは抱っこ大好き石ならばこんなに長く抱けない重さ/中田美喜
→石を長く抱いている人が思い浮かんで「うっっ」てなる。抱っこが大好きで抱っこされたがっている石とかあるのかと考えてしまった。



赤ちゃんがどこかで泣いてソファソファソ揚がり続けるフライドポテト/秋山生糸



早送りで見ているような俊敏さ三十代のジャイアント馬場/ 橋泰源



夏祭りはだか電球りんご飴フェイスブックの向こうからの声/八木清子



自分の心臓の音まちがいなく隣のベッドから聞こえているとても遅い濁った/沼谷香澄

→隣にもベッドがある、ベッドが並んでいるということは、病院かなあ。となりの誰かに自分の心臓があるということは、自分は何者なのか。幽体離脱しているのか。その心臓の音もなんだかおかしいと。定型もぐにゃぐにゃだし、どうなってるのか不安な一首。



キン肉マンの肉だけ漢字であることの正しさにより押しひらく夏

怒りという外階段をくっつけて一日は我の中に立ちおり
/竹中優子

→どちらの歌も「いかにも秀歌です」みたいなたたずまいの下の句をもっている。ほかの歌もそういう感じで、名歌秀歌の一部をつかったと思われる。キン肉マンとか外階段にはこれという名歌はないわけで、その配合に面白さがある。



おざなりな腕立て伏せの真ん中に電話、地面のほうの菊地か/西藤定
→ざっくり感が出ていてよかった。「真ん中に電話」はずいぶん略しているし「地面のほうの菊地か」もおもしろい。池のほうの「菊池」もいて、そっちと区別してるのだろう。



青は愛より青しと夢に聞くマルク・シャガールといふ薔薇のあり/真篠未成「海へゆく舟」
→青、愛、夢。それはシャガールの世界……とうっとりしていると最後にスッと薔薇になるわけです。



言うようにも言わないようにも聞こえて信号が点滅をする速度で/唯織明



「狂うほど寂しい」というメールにも返信をせず酷暑日の過ぐ/詩穂

→しつこい人からの暑苦しいメールということか。メールと気候……プライベートな閉じたものと、多くの人に影響するもの。こうした組み合わせが歌を立体的にする。



ま裸にうち棄てられし人形を照らさむとする春の満月/桜木由香



ここまで。つぎは続きの「八〇〇号記念未来歌集」をやる。




▼▼▼

【こっちもおすすめ】
noteのほうでは、ブログでは読めない内容の記事をたくさんアップしています。




2018年8月のオレの短歌とその余談/連作の歌のつなぎ方
https://t.co/A139XJ2pSk

「短歌研究」2018年9月号・短歌研究新人賞のことを思うぞんぶんに書く【1】
https://t.co/9LDZrsWmr0

【2】
https://t.co/lcoeLM1kt6

【3】
https://t.co/f993MV2JHS

【4】選考座談会・前編
https://note.mu/mk7911/n/ncbc826b3e18a

【5】選考座談会・後編

https://note.mu/mk7911/n/n44d84c9e74f6
2018年の短歌研究新人賞の自分のことについて、思うぞんぶんに書き尽くしました。また、選考座談会で言われたことへの応答。




などなど、
500円ですべての記事(約100記事)が読めます。よろしければどうぞ。






スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR