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嵯峨直樹『みずからの火』を読んだ  ~シーツの上でまたたいている、ほか



嵯峨直樹さんの『みずからの火』を読んだ。2018年5月、第三歌集。角川書店。

嵯峨さんは「未来」会員。2004年に短歌研究新人賞受賞。
話したことはないけど、歌集の批評会で一度お会いしたことがある。

帯が二枚ついている。帯の短歌が一行の縦書きになっているのはひとつの特徴と言っていいでしょう。歌集の帯の短歌って、何行かにまたがったり横書きになったりするものだ。だけどここでは縦の一行書きになっている。

カバーをはずしても真っ赤だ。約200ページで、1ページ1首。







水映すテレビの光あおあおとシーツの上でまたたいている/嵯峨直樹『みずからの火』
→夜の、灯りのついていない部屋のテレビを想像した。テレビにひかる水面がうつっていて、部屋のシーツを照らし出している。
見ている人が誰もいないような、うつろな印象を受けた。そもそもなんの番組なのかもわからない。真夜中にNHKが風景を映しながらクラシック流してたりするけど。

人の気配がうすくて、しずかで、暗くて、なのに官能的。というのがこの歌集の全体的な印象だったんだけど、これはそういう歌。



薄い影街に落としてこの夕べ鳥が水紋のように散らばる/嵯峨直樹『みずからの火』
→影もあるし動いてもいるんだけど、鳥に生命の感じがない。「水紋のように」の効果なのだろう。それっきりのしずかな水面を予感する。



もの事の過ぎ去るちから レシートが繁茂しっぱなし夜のキッチン/嵯峨直樹『みずからの火』



くらぐらと水落ちてゆく 側溝に赦されてあるような黒い水/嵯峨直樹『みずからの火』



しっとりと感情帯びて内がわへ腐りはじめる黄薔薇も家具も/嵯峨直樹『みずからの火』

→家具が腐るというのが印象的だ。「内がわへ」腐るとはなんだろう。野菜を切ったら中が腐れてたということがあるが、そんなふうなのか。いやもっと深い意味のありそうな「内がわ」だなあ。「感情帯びて」ってことは、感情によって腐るのか。

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ/塚本邦雄

を思い出す。これは「感情」がどんなものなのかはっきりしている。

いや、「黄薔薇も家具も」だから

海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も/塚本邦雄

こっちか。
塚本邦雄を二首ひっぱりだしてみたけど、嵯峨さんの歌は腐らせる原因のものがはっきりしていない。「しっとりと感情帯びて」と、ごく抽象的に描かれている。
あとはやっぱり「内がわ」だよな。凭りかかられるのは、外側の力だから。



濃霧ひとりオリジン弁当に入りきてなすの辛みそ炒め弁当と言う/嵯峨直樹『みずからの火』
→という歌は、以前「未来」で読んだときにツイートしたことがある。この歌集の帯の五首にも選ばれていた。
二句以下の俗っぽさをおもしろがった記憶があるが、そこは逆で「濃霧ひとり」がいいのだろう。濃霧がみんなのみこんでしまう。



多摩川にこまやかな雪降りしきる景色は誰の永遠(とわ)の予感か/嵯峨直樹『みずからの火』



琥珀色の水滴の膜ふるわせて夜の市バスの窓のきらめき/嵯峨直樹『みずからの火』


歌集タイトルとはうらはらに、水を思わせる歌が多い。
そういうのも有りといえば有りか。これで水っぽいタイトルだったらどうだろう。



暗闇の結び目として球体の林檎数個がほどけずにある/嵯峨直樹『みずからの火』



冥界の側に開いてしまう百合飾られている真昼の小部屋/嵯峨直樹『みずからの火』

→冥界というのは暗くて果てしないもので「真昼の小部屋」はそれと対照的な場所なのだろう。
「側」といえばさっきは「内がわへ腐りはじめる黄薔薇」だった。いいですね、「側(がわ)」。



美しい橋はかの夏永遠に壊されている飛沫あげつつ/嵯峨直樹『みずからの火』



いいと思ったのはそういう歌でした。「体系」っていう言葉がよく出てくるんだけど、それはわからないんだよなあ。

この本おわり。
んじゃまた。




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noteのほうでは、ブログでは読めない内容の記事をたくさんアップしています。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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