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松井多絵子『厚着の王さま』を読む  ~冬海の皺をうたいし女あり、ほか



前回の松井多絵子さんの第一歌集『えくぼ』につづいて、今回は第二歌集『厚着の王さま』。2011年。短歌研究社。

「裸の王さま」の「裸」をひっくり返して「厚着」って言ってるんでしょう。このような「ひっくり返す」やり方のことは第一歌集『えくぼ』の感想のときに書いたけど、180度の回転じゃなくてもっと微妙なずらし方にオレは魅力を感じることが多いですね。



冬海の皺をうたいし女あり皺のなきまま夭折したり

海みれば祖国をおもう男あり我には異国をおもわせる海
/松井多絵子『厚着の王さま』

→という歌が39ページにならんでいました。中城ふみ子と寺山修司なのはあきらかですが、一度確認しておきましょう。

冬の皺よせゐる海よ今少し生きて己れの無惨を見むか/中城ふみ子
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや/寺山修司


松井さんの一首目は「皺」を繰り返して海の皺を顔の皺にしています。二首目は「祖国」に「異国」で返していて、つまりこれがさっき書いた180度の回転です。
この作者なりのリスペクトがあっての歌なのでしょうが、あまりそれを感じさせない歌になっています。



終戦の年に生まれたいもうとはいま癌細胞と戦っている/松井多絵子『厚着の王さま』
→さっきの「皺」「国」と同様に、ここでは「戦」を繰り返しています。さっきの二首は「もしかしておちょくってる?? いやまさか」ととまどいながら読みましたが、癌という深刻な状況にあっても物の見方が変わりません。……ってことは、おちょくってないんです。

ん? 言い方おかしいですか。
つまり「皺」「国」「戦」のくりかえしみたいなのは「うまいこと言ってる」んですよ。うまいこと言ってる場合なのかと。で、どうやら、状況にかかわらずいつでもうまいこと言う人なんだろうなと。
この「うまいこと」っていうのは、歌の良さと常につながっているわけではなくて、邪魔になる場合もあります。



買ったけど使わなかったその杖をわれに渡して消えたいもうと/松井多絵子『厚着の王さま』
→物を通して哀しみがあらわれています。
さっきの「戦」のリフレインみたいなのが無いほうがずっといい。本当っぽい。



テレビには試合の前の選手たち皆が自分を信じているらし/松井多絵子『厚着の王さま』
→たしかにそういうふうに気持ちや集中力を高めている様子はありますね。よく観察しているし、下の句の言い回しから面白さがにじんでいます。



気がついたときは重症なんですとテレビの医師はわれを見て言う/松井多絵子『厚着の王さま』



いたような、いなかったようなひと卑弥呼、マンガの卑弥呼の眸は大きい/松井多絵子『厚着の王さま』

→直接本人をうつした絵も写真も残っていないのに、ある程度の外見がさだまっている歴史上の人物・架空の人物っていますね。漫画やなんかでイメージが固まっていくのかもしれません。
漫画の重要キャラだから目が小さく描かれることはない、ということもあるんでしょう。



以上です。この本おわり。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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