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松井多絵子『えくぼ』を読む  ~孤独とは砂漠のこと、ほか



松井多絵子さんの歌集『えくぼ』を読んだ。「未来」の大島史洋さんの欄に所属している方。2008年の第一歌集。短歌研究社。

えくぼの「く」が小文字になっているのが特徴。この「く」がえくぼなのかな。




どうしたらいいのだろうというような砂丘斜面のわれの足あと/松井多絵子『えくぼ』



「孤独とは砂漠のことだと思います」サハラより日本へ葉書一枚/松井多絵子『えくぼ』

→砂漠で孤独を感じ、それがひとつの境地に達したのだろう。一枚の葉書が、人から人へと送られる。



明日の陽は西より昇ると書き出して書きさしのままの我の自由詩/松井多絵子『えくぼ』
→アニメの天才バカボンの歌詞みたいだ。センスのなさに好感をもった。今あるものを正反対にしたところで自由にはならない。自由に表現するむずかしさがあらわれている。この詩は完成しないだろう。



縄をもて自ら命を断ちし人いたであろうか縄文時代/松井多絵子『えくぼ』



子供らの蹴りあう球が中世の聖堂に当たり我に飛び来る/松井多絵子『えくぼ』

→これはおもしろいなあ。
未来ある者と、遠い過去と、自分。ひとつの球が時間のなかを動きまわっている。



閉店か、「ビューティ吉野」は幾度もわたしの髪と心を変えた/松井多絵子『えくぼ』
→閉店していてもおかしくなさそうな古めかしい名前がいい。営業してないけど、店をたたんだのかどうかは確定できない状態かな。
髪とともに心が変わったということで、そのときそのときの心も思い出されることだろう。



昼すぎのドラマの女も腰掛けて窓を流れる雨を見ている/松井多絵子『えくぼ』
→「も」ってことは、自分もそうしているのかな。ドラマとこちらが同じことをしているというのはおもしろい。こちらは演技ではないけれど。



表面を見つめていればその裏が見えると言いぬ職退きし父/松井多絵子『えくぼ』
→深い言葉だ。「見つめて」が大事なところなのだろう。結句からすると、これは「父」が仕事のなかで培ったものなのだろうか。






前半で出したものを後半で裏返すやり方の歌がだんだん増えてくる。
鍵括弧二つでできている歌が何度も出てくる。風変わりなようだが、これも要は最初に言ったことをつぎの人がひっくり返すというパターンの歌だ。

「○×の世界がイヤになってきた」「わたしの世界は△□」

「そのうちに何とかなるさ」「そのうちに冬が来てそして、いつまでも冬」


などの歌。中心がぼやけたまま「ひっくり返す」「逆手にとる」という方法ばかりが前にでている。こういうのは短所というか問題点として見ました。



中東は地球の癌だと言いしことありし男が胃癌になりぬ

勝ち組は応援しない私が優勝セールは初日の朝に

このパターンの歌がつづくといやになる。
ひどい発言をする男だとしても、胃癌をこういうふうに言われると抵抗感がある。
「癌」をくりかえし、「勝」をくりかえしている。多用されるとよくない。



「作者の主観による機知で勝負しようとしているところがありますから、そこが読者にうまく納得されて共感を得れば成功作となり、逆に、作者の独り善がりでからまわりに終われば失敗作ということになる」
という大島史洋さんの跋文があるけど、これにつきる。
この本おわり。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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