「うたつかい」2017年春号を読む  ~愛くらいしかこめられていない、ほか


「うたつかい」。2017年春号。170人もの歌人が参加しているとのこと。 #ut17sqr


化学工場の近くに住んでいる 薬品臭が濃くなれば春/犬飼あき「自己紹介」



落雷のあとに誰かが泣いていたそれはわたしのはずがなかった/萩森美帆




愛くらいしかこめられていないから花束はすぐしおれてしまう/価格未定「男と女と謎の触手」

→愛のもろさを突いて鋭い歌。



月からの使いを待つのをやめた日に姫が人魚に書いた手紙座/絹更ミハル「星月夜」
→かぐや姫だと思ったら人魚姫も出てきて、手紙に焦点がうごいたと思ったら最後の一字で星になる。揺さぶりがある。
かぐや姫にどんな心境の変化があったのか、かぐや姫と人魚姫が知り合っていたらどんな手紙が書かれていたのか、そしてどんな星座なのか。イメージのふくらむ歌。




弁当箱の角の丸みを帯びたのが洗っても洗っても洗ってもこわい/小祝日魚子「きみはランチ」
→短歌はふだん気づかない感情をおしえてくれる。弁当箱の丸みにある怖さもおしえてくれる。
洗いながら、角の丸みに何度も触れたのだろう。何度こすっても丸い。こわいけれどそれをまた使うのだろう。



父自分の誕生日覚えていて八十三と云ふ享年八十三/SAKURAKO「父」
→「八十三と云ふ」までは自分の誕生日を覚えていた「父」。しっかりしてる方なんだなあと思って読みすすむと、「享年八十三」で突然亡くなってしまい、衝撃がある。



霧雨が朝から止まず飲み物がホットでもだめアイスでもだめ/たた「腕立て伏せ」



いくたびも乗り損なった観覧車に乗ったことある気がしはじめる/道券はな「ような気がする」

→認識がエラーを起こす瞬間をとらえて、さりげない怖さがある。ぐるぐる回る観覧車であることが、なにか意味ありげだ。普通の乗り物だとただの遅刻の歌になる。



うす暗い写真のなかでぶれながらほほえんでいることだけわかる/原平和「春風」



煉獄の(煉獄なんて行ったことないから想像するしかないけれど)パフェ/木曜何某「無無無題」

→わりと普通に読めたけどよく見ると字が余っている。
同じく行ったことなくても、天国や地獄ならいくらか想像しやすい。そのパフェおいしいのかなあ。
「パフェ」がオチみたいになってるけど、何がきても想像しづらい。
ダンテ読んでないんだよなあ。読んだような気はしてたけど。



そして君が傷つくことのないように僕は点滅し始めたのだ/Y川「祈らない」
→ちょっと笹井さんっぽい?
例えば信号の青が点滅するのは、他の信号に変わろうとしている時だ。人が点滅するのは、その存在が消えかけているようで、これは別れの場面なのかと思う。
点滅するから普通の人間じゃないようだが、「君が傷つくことのないように」という動機があり、そのためにあたたかみのある歌になっている。



つづいてはテーマ詠「お店」から。

ジャイアンの空き地の空の色だった文房具屋の青いクレパス/貝澤駿一
→「ジャイアンの空き地」がよかった。ドラえもんの空き地でものび太の空き地でもみんなの空き地でもない。ジャイアンがリサイタルをして、ジャイアンが中心となって野球する空き地。空き地にいるときのジャイアンが一番生き生きしてるんじゃないか。

この歌は青という色に向かっていく。空き地と空の色というのは、あんまりむすびつかない。そんなにジャイアンが空き地で空を見てたっけ? と思う。でも、少しくらい元の作品からはみ出る部分があってもドラえもん短歌としてはおもしろいのかなと。



カレー屋でカレーを頼まないというボケでウケる。という走馬灯。/空日一
→うたつかいはアイウエオ順に作品が載る。ちかごろはオレのひとつ前がこの方だ。

前にも、走馬灯に一発ギャグがあればいいっていう歌を取り上げたことがあるけど、オレはこういう歌が好きなんだな。笑えることを思い出して死ねたらそのほうがいい。それも、人生においてあまり重要じゃない笑いで。

君の見る走馬燈の中にわたくしの一発ギャグがあれば良いのだ/川島結佳子「あれば良いのだ」
短歌研究 2016年2月号


いや、でも、こういうボケでウケたのって思い出したいかなあ。はずかしくていやな走馬灯という意味で言ってるような気もしてきた。二つついてる「。」を見ていて。



賢治さんご愛顧のほど山猫軒web storeへはリンクをクリック/河野瑶
→「注文の多い料理店」がウェブストアになるっていう発想がおもしろい。クリックしてもクリックしてもなかなかたどり着けないだろうなあ。クリックのたびに何かを了承させられる。個人情報なんかも入力させられ丸裸にされる、そういうサイトはありそう。人を食う山猫は、現代にもいるのかも。



デニーズのメニューのパフェと目が合った空き容量は1BB(ベツバラ)ある/高木秀俊
→「1BB(ベツバラ)」の面白さで丸した。
パフェと目が合うのもいい。パフェもこちらを見ていたのだ。
自分のお腹はパソコンかスマホみたいに「容量」があるんだけど、パフェにはこちらを見る「目」がある。



真夜中のタワーレコード 試聴機が「愛してる」ってそっとささやく/西淳子
→「真夜中」が利いてる。試聴機の音楽って、常に一人だけのために鳴っているんだよな。三句以降Sの音が多めになっていて、雨音かささやきを感じさせる。



コンビニ家コンビニコンビニ家コンビニ新興宗教施設コンビニ/もりのさと
→なにを言ってるのか理解するまでにしばらくかかった。建物がならんでいて、それらがなんの建物なのかを言っている。コンビニがあって、そのとなりが家で、そのとなりがコンビニで、次もコンビニで。コンビニが多すぎて異様だ。そんな変な町に新興宗教施設もある。一件でも名前が長くて存在感ある。

コンビニって一つあれば充分だけどな。狂ってるぜ。どうなってるんだ。それぞれ違うコンビニだろうなあ。全部サンクスとかだともっとやだなあ。
そのコンビニ乱立に新興宗教が関わっていたりしたらもっと気持ち悪い。いや、どう関わるんだ。
へんてこな結果だけが示されて、いろいろ想像してしまう、おもしろい歌。



「たたさんのホップステップ短歌」は、前川佐美雄の推敲について。
これがひとつの歌ならばすごい推敲だ。あるいは、もしかしたら別の歌のつもりかもしれないなあと思った。

「ヴィヴァルディは600曲の協奏曲を書いたのではなく、1曲の協奏曲を600回書き換えたのだ。」とイタリアの現代作曲家ダルラピッコラという人が言った、と読んだことがある。
作品と作品の距離ということを考える。



んじゃまた。


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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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