亀谷たま江『雨上がり』を読む  ~僕の頭とがつてゐるか、ほか


亀谷たま江『雨上がり』を読む。第一歌集。2002年。青磁社。



四月ごろから「塔」の人の歌集を読んで紹介してきたけど、この本でいったん区切りとなる。



荷を下ろすクレーンのさき目に追へば穴底深く人が働く/亀谷たま江『雨上がり』



遮断機の下りる間際を無理矢理に渡りてわれをさらけ出したり/亀谷たま江『雨上がり』



ほれぼれと角に見てをり丈長きトラックが倉庫に仕舞はれゆくを/亀谷たま江『雨上がり』



僕の頭とがつてゐるかとどこからか帰りし息子ぬつと頭(づ)を出す/亀谷たま江『雨上がり』

→オレの話をすると、オレは首の両脇が出っ張ってるような気がして母に見せたことがある。自分の体が変なようでふと気になるが、自分だけでは判断がつかない。心配してるってほどでもないんだけども。
「どこからか帰りし」だから、出先で気になったのだろうか。誰かに言われたとか。




勧誘をわが拒みたるセールスマン公園のベンチに弁当食ひをり/亀谷たま江『雨上がり』
→セールスを断ったら、その後って全然気にならないし見ることもしなさそうが、これは見ている歌。この公園の弁当を、わびしいものと見るか、ささやかな楽しみと見るか。拒まなくてもここで弁当を食べていただろう。セールスマンも人間として生活してるんだなあと思わせる。



泣きながら自転車漕ぎてゐる人とふつと気づきぬ擦れ違ひざま/亀谷たま江『雨上がり』
→これも、普通なら気にしない通りすがりの自転車に人間味を感じる歌。
珍しいが、ありえないことではない。すれちがう、ほんのわずかな時間に気づいたのだ。



やすやすとヨーガにわが言ふ「シャヴァアーサナ」「シャヴァアーサナ」は死体のポーズ/亀谷たま江『雨上がり』
→意味のわからないカタカナが、二回目に死体のポーズのことだとわかり、はっとする。意味がわかると最初の「やすやすと」もわかってくる。
「シャヴァアーサナ」で画像検索してみると、あおむけに倒れている人の画像がでてきた。死体はあおむけなのだ。



窓の外(と)に出したきわれと出たき蛾と息が合はざり蛾は弱りたる/亀谷たま江『雨上がり』




余震待つ机の下の家族五人大きキャベツを剥がしては食ふ/亀谷たま江『雨上がり』

→中盤には阪神淡路大震災の歌がある。
余震を望んではいないが、待っていると言えば言える。机のしたでキャベツをはがして食べる様子は、まるで人間ではない別の生き物になってしまったかのようだ。



灯の点かぬ街の弱さに押し寄せて夜があらゆる裂け目に溜まる/亀谷たま江『雨上がり』
→「街の弱さ」。明るさが街の力だったのだ。押し寄せてきて裂け目に溜まる「夜」は、まるで波のようだ。夜の不安だ。



しばらくは集配人の来ぬポスト仕事なくししわれが凭るる/亀谷たま江『雨上がり』
→集配人は配達ができず、だからポストは郵便を受けられず、「われ」は仕事をなくした。震災が多くを奪い麻痺させたのがわかる一首だ。もたれているところに心身の疲労がうかがえる。



月光に青きホースは発語せり重なる楕円のなかの切り口/亀谷たま江『雨上がり』



大粒の雨がつぶれてうしろへと車窓を走る 父は死ぬのだ/亀谷たま江『雨上がり』

→歌集の終盤には父の死の歌がある。
雨が窓を走るところを描いて、乗り物の動きや中から外を見ている者を表現している。


読みごたえのある歌集で、良い歌が多かった。この本おわり。



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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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