保坂和志『明け方の猫』を読んだ


保坂和志『明け方の猫』を読みおわった。

中公文庫。2005年。二編が収録されている。

タイトルから、あーいつもの感じのやつかなーと思ってたら全然いつもの感じじゃなくて驚いた一冊だった。
小説論でよく保坂さんはカフカとベケットのことを言うけど、カフカとかベケットっぽいと感じた。



二つ入ってるうちの一つ目「明け方の猫」は、夢のなかで猫になる話。いわゆる明晰夢というやつなのか、これは夢なんだと知りながら人間の意識のまま猫をやっている。
夢とは思えないくらい豊かな感覚がある。いや、夢のなかって豊かな感覚があるのか?
さすが猫で、聴覚と嗅覚が発達していて身のこなしが軽い。音や匂いがこまかくたっぷり描写される。
触毛のおかげで楽に動けるとか、毛づくろいしてると安心するとか、でも爪や尻尾は意外と自由に動かせないとか、こまかいところまでしっかり描かれている。もしかして猫になったらこんな感覚なのかと思うくらい。ネコになった体験ができる小説。

「夢の中の声がすべて覚醒時に一度は実際に耳で聞いた声であるというフロイトの説」を知った。
会話がおもしろい。カップルの会話がおもしろくて笑った。女が男っぽいしゃべり方をして、会話が続くとどっちがどっちだかわからなくなる。「プレーンソング」とかもだけど、保坂さんの書く会話は面白い。

「早く出せよ」
「ほら、なんかくつろいじゃってんぞ」
「そんなんじゃねえよ。バーカ」
「そうだよ」
「早く出せよ」
「もうちょっと見てようぜ」
「見たくなんかねえよ。早く出せよ」
「出すって、どうやって出すんだよ」
「自分で考えろよ。バーカ。早く出せよ」


「バーカ」と「早く出せよ」があるほうが女のセリフ。いくら語彙が貧困でもここまでにはならないんじゃないか。だからやっぱりこれは夢なんだ、一度聞いた音が再生されているんだと思って読んだ。


69ページ。
『独り言は自分の頭に浮かんでは消えていく考えを耳で確認するためのものなんじゃないかと彼は思った。考えは頭の中にあるだけではつかみどころがないが、それを音に変換することでそれらしくなる』


81ページ
『猫にとっては自分の中にあるものよりも外にあるものの方がずっと多くて、自分が生きて存在していることよりも世界があることの方が確かなのではないかと彼は思った』


気がつくと猫になってて、猫として行動するっていうのがカフカっぽい。
終盤でこの猫は動けなくなるんだけど、動けない状況でほんの少しずつ話が動いてゆくあたりなんかはベケットっぽい。







その次の「揺籃」はもっと驚いた。

自分の記憶をたどっていこうとしてこまかくこまかく思い出してゆこうとするんだけど、変な出来事が混ざりだして、いつのまにか肝心なところを通りすぎたり、荒唐無稽な話になってゆく。
保坂さんの小説で初めて「この先どうなってしまうんだ!」と思った。

もうちょっと整理すると、喫茶店である事故が起こって、その事故のことを思いだそうとして書き始めるんだけど、喫茶店の名前や場所からして記憶が曖昧で、しかも幼いころの回想へ脱線してゆくものだからまったく収まりがつかなくなる。脱線に脱線を重ねてついに行き着いた場所とは、……という、そういう話。

砂まみれになってゆくところは怖かった。

それに、なんかエロ要素が多かった。男女の欲望がギラギラしてて。やっぱり保坂さんとしては異色の作品だ。書いた時期がほかのものと違うと書いてあった。

この本についてはそんなところで。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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