安福望・柳本々々『きょうごめん行けないんだ』を読む  ~恥ずかしくて手をひっこめる、ほか


初めてAmazonを使って買い物した。商品が届いた。ふつうに日本郵便さんで届いた。
ネット通販に抵抗あって今まで使わなかったけど、手続きが書類からネットでの入力になっただけで、べつに抵抗を感じるほどのものではなかった。

買ったのは、
安福望×柳本々々 会話辞典『きょうごめん行けないんだ』
「食パンとペン」というところから出ている。

これにオレの短歌に関係したことが書いてあると聞いたので買った。1200円の本に「お急ぎ便」と「代引き手数料」を乗せて1980円。

どんな本かというと変わった本で、文字通り「会話辞典」だ。ツイッターのDMでのやり取りに、辞典の項目のような小さいタイトルがついて五十音順にならんでいる。
どうやら長い会話から切り取られていて、「だから」とか「うん」から始まっている項目もある。

対談みたいだけどもっとゆるくて、句読点があったりなかったり、同じ言葉が漢字表記だったりひらがな表記だったりする。
ところどころに柳本さんのエッセイがはさまっている。安福さんのイラストは表紙以外すべて白黒で、サイズもだいたい小さい。

はじめは、なんでこの二人なんだろうと思った。安福さんと組むのが、なんで岡野さんでも木下さんでもなく柳本さんなのかと。
まあそれは説明もされてないしこっちで推測もできないけど、二人の会話は読んでいて気持ちがいい。おだやかで、しかし発見がある。

思い出してみれば「かばん」2016年12月号の特集に、このお二人の対談が掲載されていた。それの超拡大版と言うこともできようか。

270ページあり、それを楽しく最後まで読めた。

柳本さんって何者なのかいまいちよくわからない人だったが、この本には生い立ちに関係して書いてある。新潟で育ったとか、高校がどうとか。







で、オレの短歌に関するくだりなんだけど。193ページにある。
てっきり二行か三行くらい触れられてるくらいだと思っていたら、2分の1ページも語っていただいていた。14行×22字。

柳本「ぼくは工藤吉生さんの短歌で火に触れて恥ずかしくて手をひっこめる歌が好きなんですね」

からそれは始まる。ここで「ちょっと待ってください」と二度言いたくなる。まず一度目は、その短歌がこの本のどこにも正しく引用されていないのだ。二度目は、あれってそういう歌だっけ。

その「火に触れて恥ずかしくて手をひっこめる歌」とはこれのことだ。


生命を恥じるとりわけ火に触れた指を即座に引っ込めるとき/工藤吉生


「NHK短歌」の年間大賞になった歌だ。NHKとの関係で載せられないのかな、と思った。
が、しかし、ほかの短歌もだいぶそうなっているので、この本はそういう本なんだろう。短歌に関していろいろ語られているが、正確に引用されている歌は柳本さんと岡野さんの合わせて数首だけのようだ。


この本のやり取りには「ご存じない方のために紹介しますと、この歌は──」というような注が一切ない。DMだから、二人が共通して知っていることなら省略される。


二つ目の「ちょっと待ってください」は、
『生命を恥じるとりわけ火に触れた指を即座に引っ込めるとき』
というオレの短歌が「火に触れて恥ずかしくて手をひっこめる歌」とされているところ。そう読まれたのが驚きだった。そう読めるのか考えた。

「火に触れて恥ずかしく」なるってどんな感覚だろうか。そんなふうになります? オレにはちょっと何言ってるかわからない。引っ込めるときに恥ずかしくなるんであって、恥ずかしくて引っ込めるんじゃないと思うんだがなあ。
恥ずかしくなったときにはもう手を引いているというつもりだった。

あんまり自注すると歌がつまんなくなるのかもしれないけど、だったらオレという一読者の「読み」ということにできればしたいけど、
これは「アチチーッ!!」ってすごいスピードで火から手を引くのが、命ってもののとりわけ恥ずかしいところだって言ってるんだよ。


でもこれら二つの引っ掛かりについてはオレはこの本を信頼したいと思っている。スペースが空いてるんだからほんとはちゃんと引いてほしかったけども。
こんなに色々深くものを考える人の考えなんだから、それでもいいのかなって。
歌の覚え方がアバウトなところにこの本のリアルがあるのかなと。
「評論」なら正確な引用が必要だが、これは「会話」だから。







ところで、ドラえもんのなにかの映画の原作にこんな場面がある。
映画のキャラが光線銃で木を狙い撃つ、すると木に命中する。のび太達が「すごい」と言うと「となりの木を狙ったのよ」と言う。
短歌はそういうことが多い気がする。

そうならないように表現を磨いていかなきゃいけない。これを「偶然でも当たったんだからいいじゃん」ということにしてしまったら、一発の弾を大切にできる自信がないもん。てきとうに撃てばいいやってことになってしまう。
NHKの年間大賞の歌も、オレが命中させたのは隣の木かもしれないと思うと、歌って難しいなーと思いますね。



そのあとは
「近代的な私性を感じたんです」
「工藤さんは近代短歌をある意味とても正しく引き受けているような気もするんですよ」

と柳本さんは言っている。なんか褒められてるみたいだが、オレに私性のことはあんまりよくわからない。オレはできることをしてるだけ。でもなんかありがとうございます。








「きょうごめん行けないんだ」にはおもしろいことがいろいろ書いてある。線を引いたところをちょっとご紹介します。


柳本「感想を書くって、うろうろする行為だし」
柳本「うろうろって方向性のない行為ですよね。それもちょっとおもしろい。」



柳本「なにか長いあてのない宿命がはじまったら青春って終わるんですよ。青春の対義語は、宿命です。」



柳本「質問するひとって、答えももってやってくるんですよ。」
柳本「質問って答えをしらないとできないんですよね」
柳本「じぶんだけではひっぱりだせないものってあるんですよねしってても」



柳本「成長って、グラデーションみたいに連続したものじゃなくて、あるとき切断して、ふっと次のステージにむかうんじゃないかとおもって。」



柳本「ねたみは想像ですね。ないんですよ、ねたむものってじつは。知らないからねためるっていう。」
柳本「当事者は別の問題をたくさんかかえてますから。だから純粋な投影ですよね。そこだけしかないピュアな。」





会話からはそんな感じ。




柳本さんの出してくる小説や映画や漫画の名前が、オレの知らないものばかりだった。小説や映画や漫画に、未知の領域が広々とあるんだなと思った。



さっき書いたドラえもんの例え、かなり曖昧な記憶で書いて不安だったので調べた。オレが言いたかったのは宇宙開拓史の48分10秒の場面。消されそうな動画だ。

"多 A夢 叮  大雄的宇宙開拓史 (1981年版本) 日語,中字 藍光版"
https://youtu.be/WDnyJDoYbWQ

原作を確認しようとしたら、持ってなかった。買った記憶はあるんだけどなあ。







『きょうごめん行けないんだ』のなかで柳本さんは、木下さんの「鯛飯タイムマシン」を「たこめしたいむましん」と間違って記憶していたことに関して

「じぶんをとおさないと間違いってでてこないんですよね」
「その場にいるからこそ間違いっておこるんです」

と書いている。


オレなら、間違えたら恥ずかしくなってすぐ直してごめんなさいしちゃう。間違える→間違いは悪→直すべき、っていうふうにしか考えない。
だけど、柳本さんはそうならない。そこから考える。「考える」って言葉がよく出てくる本で、この人はほんとによく考えている。
何に関してもそうで、変わった人だなと思うよ。でも、考えぬいてわかることもたくさんあるんだなーと感じる本だった。
以上です。



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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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