笹井宏之『てんとろり』を読む  ~二匹の青い動物がゆく、ほか


今回からタイトルを
「二匹の青い動物がゆく  ~笹井宏之『てんとろり』を読む」
っていうふうに逆転させてみようかと思ったけど、やめました。
いつも同じなので、たまにはなにか変化つけたいんですけどね。

本題に入る前に「まくら」として数行の雑談を入れたら読む人が増えるかなあ、とか考えてました。







笹井宏之さんの『てんとろり』を読んだ。第二歌集。書肆侃侃房の2011年のものが手元にある。


夕立の檻にかこまれ国道を二匹の青い動物がゆく/笹井宏之『てんとろり』
→夕立が縦に降れば、格子のように見えてそれは「檻」のようだ。「青い動物」って自然界にそんなにいないし、人間じゃないか。「二匹」だとそこに関係性がうまれる。家族かな、とか。動いてるのに檻の中にいるわけで、これではどこまでも檻から出られない。なぜ国道を歩いているのだろうな。

この歌集の帯に「透明な哀しみがあなたを包む。」と書いてある。
そういう歌集なのだと思ってこの歌を読むと、そんな感じがする。弱いあわれな動物である人間があてどもなくさまよっていて、どこまでいっても不自由であるふうに見える。



ベランダで夏の子どもがさよならの練習をしている昼日中/笹井宏之『てんとろり』
→「さよなら」って練習できるものなのか。練習できると思ってるから子どもなのか。さようならと言って手を振りあっているんだと想像した。夏や昼は明るくて、「さよなら」が浮いている。ベランダから出発するってことはないし、これも別れっぼくない。にせものの別れが無邪気だ。



太陽と月と砂しかない場所でひっそりと震えだすコピー機/笹井宏之『てんとろり』
→つまり砂漠みたいな場所なんだろう。なんでこんなところにコピー機が? コピー機が震えだすときというのは、印刷物が出ようとしているときだ。そんなはずはないけど、今にも紙が出てきそう。それとも寂しくて震えるのか。
そんなはずはない、の向こうに詩がある。



砂時計のなかを流れているものはすべてこまかい砂時計である/笹井宏之『てんとろり』
→そのこまかい砂時計のなかに流れている砂は、さらにこまかい砂時計だというわけか。逆に、砂時計はさらに大きな砂時計のなかの一粒の砂。時間とははてしない。



天国につながっている無線機を海へ落としにゆく老婦人/笹井宏之『てんとろり』
→天国につながっているなんて夢のような機器だが、ここではそういうものではないようだ。海に落としたらもう使えなくなるだろう。老婦人が誰と何を話してどんな心境になったのか、それは読者の想像にまかされている。
老いているということは、天国に近いということだ。



風になれなかったひとがタクシーのいないタクシー乗り場でしゃがむ/笹井宏之『てんとろり』
→風になったことがないからあんまり確信を持って言えないけど、風とは自由にどこへでも行けるものだ。タクシーもまあ、それほどではないけどわりと好きなところまで行けるものだ。この人は、風になれなかったがタクシーにも乗れない。しゃがんでいる。どこへも行けなさ。



国境のどうぶつたちを染めてゆく あれは夕日よね、夕日よね/笹井宏之『てんとろり』
→二回言うと切迫して聞こえる。確認せずにいられないのかなと。夕日じゃなければ何がどうぶつたちを真っ赤にしてゆくのか。血か。
はじめに国道の青い動物の歌を引いて、人間っぽいと書いた。国境を人は争う。



どろみずの泥と水とを選りわけるすきま まばゆい いのち 治癒 ゆめ/笹井宏之『てんとろり』
→しりとりが面白い。しりとりとは言っても、りんごゴリラらっぱパンダみたいなやつじゃなくて、なにか崇高な言葉がならんでいる。清と濁の中からなにか溢れだしてくる。新しい命でも生まれてきそうだ。「ゆめ」で終わっている。



甲羅からピアノの音がきこえます 亀だとおもいます ショパンです/笹井宏之『てんとろり』
→これも砂漠のコピー機の歌みたいな、そんなはずはない歌だ。でも手触りがある。「亀だとおもいます」の不確かさ、なのに曲目はショパンだとはっきり言える。
病室にこもって詩作する者のことを言っている、なんて読みもできそうだが、あんまりそっちに行きたくないなあ。



農協と恋愛がどうちがうかを夜毎に訊きにくるえいりあん/笹井宏之『てんとろり』
→「世界がやさしくあるためのメモ」という一連。それぞれの歌にアルファベット順の詞書があって、この歌は「crisis」とある。

農協と恋愛のちがいがわからないとは、たしかに地球人離れしている。それがそっくりな星もあるんだろう。
「えいりあん」って平仮名になっているからかわいい。カタカナだと人間をとって食いそう。映画に出るようなのはカタカナだね。



はじめからあなたに決めていました、と点滴のチューブをつたう声/笹井宏之『てんとろり』
→意志など持ってないもんだとばかり思っていたものが口をきいたら怖い。「はじめから」って、いつのことだろうか。しかもそれが体に入ってくるのだ。





以上です。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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