『野性時代』2017年6月号の読みきり小説を読んでみた


「野性歌壇」の特選になったことをきっかけに、『野性時代』をはじめて読んでみた。2017年6月号。




「小説 野性時代」って初めて買った。ほんとに小説ばっかりだ。860円で460ページもある。

野性時代には連載が多くて、460ページのうち300ページは連載だ。
連載は読む気しないな。第8回とかから読みたいと思わないよ。いくつもの小説を読みかけでやめて、来月また続きを読めるかっていうと、どうなんでしょう。こんなに連載が多いってことは、みなさん普通にできるんでしょうか。

漫画の連載だったら、パラパラめくっただけで少しは内容がわかる。好きなジャンルや絵柄だと読んでみたくなったり、かわいい女の子が描いてあると読んでみたくなったりする。だけど、小説はどうだろう。

とりあえず読みきりを読むことにした。
この雑誌に載る小説がどういう傾向のものか、とかは全然わからない状態で。








まず一番最初の。
荻原浩『僕と彼女と牛男のレシピ』

二十代のバーテンダーの男性が、年上のシングルマザーの看護婦の女性と交際する。男性はウシオという子供と仲良くなろうとがんばり、また仕事のカクテルづくりのほうも頑張る。
そんなような話。



読んでるときはまあまあ面白かったんだけど、読み終わってしばらくしたらなんかムカついてしまった。
これはドラマでやるやつだね。イケメン俳優に美人女優に天才子役が演じるのが目にうかんでくるよ。ドラマならウケるだろうな。どんなにウケてもオレはそういうのは見ないけど。
テレビだったら一秒でチャンネル変えるのに、小説だから最後まで付き合ってしまった。

ムカつくっていうのは、別にこの小説が悪いんじゃない。小説自体はうまいこと書いてある。
恋に仕事に前向きに頑張る主人公に自分をかさねると、自分がイヤになってしまう。重ねたいわけじゃないんだが「それにひきかえオレは……」って勝手に思ってしまう。思うと暗い気分になる。こういう劣等感がいやだからドラマも避けてるのに。

カクテルがでてくるが、酒を一滴も飲まないオレにはまったく響いてこない。

最後にほめておわる。
キャッチボールしながら自分の父親の気持ちがわかっていく場面が良いと思いました。







二番目の読みきりはホラー。
小池真理子「ゾフィーの手」


夫婦がいて、奥さんが主人公。旦那が海外でゾフィーっていうオーストリアの弱々しい女と知り合うんだけど、このゾフィーという女性が旦那さんのことを好きだったんだよ。帰国した旦那を追って日本にまでくる。でも旦那はゾフィーに気がないからオーストリアに帰しちゃうんだよ。
それから旦那さんが亡くなって、それから間もなくゾフィーも亡くなるんだけど、奥さんのところにゾフィーの霊がでるようになる。
奥さんは怯えながら過ごす。洋箪笥にゾフィーの霊を見つけて箪笥を処分する。これで解決したと思っていたら、それでもまた出てきてワーッ。
そんなような話。





読みやすくてツルツルッて読んだけど、終わってみると、なんかなあ。古くささが気になった。すごくよくありそうな話。

なんでゾフィーは奥さんのとこに幽霊になって出ておどかす必要があるんだ。奥さんはゾフィーに恨まれるようなことはしてないでしょ。もともと男はゾフィーに気がなかったんだから、その奥さんにあたっても八つ当たりだよ。うまいこと呪い殺したとしてもなんの意味もない。

ゾフィーって賢そうに見えるけどバカなんだなと思った。あなたが会いたいのは男のほうなんじゃないか。お互いがあの世にいるんだから、この世にはなんの未練もないんはずだ。近い時期に亡くなったから、てっきりゾフィーは旦那を追いかけて死んだのかと思ったよ。
未亡人に対して旦那さんのことでいじめるとか最悪だ。


それと、ゾフィーが見えた洋箪笥を処分したくらいで解決したと、小説を読み慣れた読者が思うわけないでしょう。案の定おわってない。
オチが想定の範囲内だ。そりゃそうなりますわな、という読後感だった。

色白で病弱で恋にやぶれたゾフィーが化けてでるなんて、幽霊として類型的だ。最初から幽霊になってこわがらせるためにいるようなキャラだ。平凡なんだよ。

奥さんがじぶんで塩をまいてたけど、西洋の霊と日本の霊で同じ対処でいいのか、オーストリアにも「化けて出る」っていう発想があるのかな? というのが一番興味のわいたところだった。

褒めて終わる。
よかったのは、洋箪笥のなかにいたゾフィーと対決したところ。自分から確かめにいってほんとにゾフィーを確認したところ。ここだけちょっと怖かった。








五本の読みきりのうち、三本目五本目は「スピンオフ」だった。読む気にならない。本流がないのに支流なんてない。二番煎じとまでは言わないが、前もって本流になる作品を読んでたほうが断然いいわけで、スピンオフは「読みきり」と思わない。

「二人目!」なんてタイトルについてる作品があるけど、柳の下のどじょう「二匹目」みたいだ。


うっかり二番煎じって言っちゃったけど、それを言うなら表紙の魔女はどうなんだ。スタジオジブリのアニメのホウキに乗った少女が黒猫を連れて飛んでいる。
セルフカバー、オマージュ、いろんな言葉が頭のなかを押し合いへし合いする。








四番目
窪美澄「無花果のレジデンス」

夫婦がいて、夫のほうが主人公。妻が子供をほしがっている。だがなかなか妊娠しない。妻は妊娠するための活動「妊活」をするが、夫はそこまで子供がほしいわけじゃなくて、妻のやり方に息苦しさをおぼえる。
妊娠のための検査をおこない、夫の精子が弱いことがわかる。医師から体外受精をすすめられるが夫は内心反発する。
ちょっと夫婦関係がギクシャクするが、お互いに心境の変化がおこり、歩みよって元にもどる。
「千草さん」という、亡くなった上司の奥さんがいて、ところどころで深いことばを投げかけてくる。
そんなような話。




これはよかった。
不妊治療とか妊活とか、オレの知らない世界が描かれている。興味をもって読んだ。命ってなんだろう夫婦ってなんだろうという深いところまで届いている作品だと思う。
結末が最後まで読めなかった。どうなっちゃうのかと思った。


読みきり小説は以上。







「野性」ってなんだろと思うね。むしろお利口さんでみんなに愛される血統書つきの立派な動物みたいな小説が多い。スピンオフだって、本流が人気作品だから可能なわけだから。

このまえ読んだ「三田文學」はわけわかんない小説ばっかりでおもしろかったけどな。
雑誌によって小説の色もちがうんだな。って、文章にすると当然のことを今さら言うようだけど。



小説以外だと、やっぱり野性歌壇を見ちゃうね。

一首引きます。

はじまりの合図が鳴って走り出す止まったままの君を残して/水澤賢人
→徒競走でそんな生徒は見たことないし、なにかほかのことかなと思う。
なんで「君」は止まったままなのか、とても気になる。気になるが、「君」とそれ以外のみんなは一秒ごとに離れていってしまう。
重い障害でみんなと同じようにできないのか、家庭の事情かそのほかの事情があるのか、そもそも生まれてこれているのかも、なんにもわからない「君」だ。とても心配になる。



「牛男」の主人公みたいな健康的な頑張る人を見てるとイヤになるんだと書いたけど、この短歌のようななんにもできない人を見ると感情移入する。オレはそういう読者なんだなとあらためて思った。


以上です。んじゃまた。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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