『未来』2017年4月号を読む  ~どこまで卑怯になれるだらうか、ほか


「未来」2017年4月号を一ヶ月遅れでやりす。



老人は少年に説くゐるんだよ毒蛇を食ふ無毒の蛇が/山田富士郎「ルーペ」



ストーブの筒の内部に火はありて火に濯(あら)はるる国あるごとし/大辻隆弘「練色」



何もかも小さい母がかごさげて見え隠れせり百円ショップ/中川佐和子「極彩色の蝶」

→百円ショップは、一点あたりの価格は小さいが品揃えは豊富で、ごった煮の巨大な店だ。「かごさげて」は昔ながらの買い物スタイルで、新しい大きなものが古い小さいものを飲み込んでゆくような風景だ。



なにものになりたきわれかセーターのひとつ選べずユニクロを出る/久野はすみ「約束」
→百円ショップの次はユニクロだ。意図はないけど、丸つけた歌を順にたどると何かつながって見えるようなことがある。
ユニクロにはベーシックな衣類が揃っている。商品の多い店にいると自分がわからなくなって何も買わないことはオレにも経験がある。



おばさんでごめんねというほんとうはごめんとかないむしろ敬え/岡崎裕美子



生きものの感じをだして水槽にタカアシガニが動きはじめる/岩尾淳子

生きものの感じといえば、こんな歌がある。

泥濘に小休止するわが一隊すでに生きものの感じにあらず/宮柊二『山西省』

「生きものの感じをだして」で、生きものの感じをさせずに静止していたタカアシガニの様子が浮かび上がる。



死んだ姉のぶんまでわたしがんばると夢で言う行方不明の友が/野樹かずみ



この街はどう見えるだろう死者の目の高さにとどまる観覧車から/野樹かずみ

→「死者の目の高さ」がわりと具体的に言われている。とどまるってことは一番上のあたりだと思って読んだ。観覧車に死の匂いがまとわりつく。乗客と死者が重なる。



「ヤイわたし しつかりなさい」と言ひながらわたしのお腹にほつかいろ貼る/池田はるみ『正座』
→新年会報告のページから。
パッと見た感じ平凡なようで、見れば見るほど絶対こんなことしないし変だろという感想に変わった。まず「ヤイ」って言わないし、それを自分にはさらに言わない。でも言われてみれば、寒いときの体ってたしかにしっかりしてないなあ。納得。「ほつかいろ」の表記に味がある。



あたたかなカイロの中身は真っ黒でざらざらとした嫌な粉です/戸田響子「蓋つきマグカップの中の宇宙」
→また丸つけた歌どうしがつながった。カイロつながりだ。
池田さんのカイロは自分をしっかりさせているが、こちらの歌はカイロの嫌な部分を見つめている。



一円玉九個のお釣り受ける掌が白く泡立つ滝壺となる/安藤三從



覚めぎはの怠き身体にのこりをりむかし飼ひゐし猫の重さは/漆原涼



ラーメン屋に枯れ葉が紛れ込んでいてときどき踏みつけられては欠ける/森本直樹

→見たまんまでもあるし、そぐわない場所にいて虐げられる者の姿にも見える。「欠ける」がいい。パリパリになってる枯れ葉だな。



ストーブで焼く餅につく焦げ目見て集まるひとらみなすこし笑む/道券はな



七色にピエロのパンツが汚れてる さっきまで虹に腰かけてたから/伊勢崎おかめ

→虹に腰かけるなんて夢のようだが、パンツが汚れるくらいの夢のなさがある。そして、ピエロにはおしりの汚れたパンツが似合う。観客の笑いを誘うことだろう。
その前の歌の餅の焦げ目もそういう笑いをさそうのかも。



「おかえり」と箱から優しい声がするもう一枚のジョーカーの声/本条恵
今度はピエロで前の歌とつながった。
→トランプの一連で、ババ抜きの歌のながれでこの歌がある。ババ抜きで一枚だけ省かれたジョーカーを詠んでいる。「優しい声」がせつない。



二度寝しておけばザムザも虫でないものになれたのだろう 谷とか/蜂谷希一



ココナッツ味ベジタブルカレーならココベジだろう伝票を見る/山階基「初雪」

→長い名前の食べ物は、省略されて伝票に書かれる。略称にあたりをつけて伝票を見ている。中ほどに濁音が多いが、こんな言いづらいものが言いづらいままでいられるはずがない。
客ばっかりフルで言ってる可能性があるよな。
オレはこのあいだ「アマトリチャーナ・ビアンカ」ってパスタ食べた。略称考えながら帰ったけど、そうか伝票に書いてあったかもしれないな。

客側の世界からお店側の世界に触れようとする、その境目の歌だ。異世界ってほどでもないが、いろんな裏表が世界にはある。



全然知らない人です夕景にダンクシュートをどうしましょうか/山 修平
→夕方に見てたら知らない人がダンクシュート決めてたと。ふいに見事なものを見てとまどってる感じか。でも全然ちがう読み方もできそうだな。
「全然知らない人です」ではじまると誰が何をするのかどきどきする。



クリームがずるりと滑るパンケーキどこまで卑怯になれるだらうか/文月郁葉
→上の句と下の句がすごくフィットしている。なんでこんなにしっくりくるんだろうと考えた。
「ずるり」に「ずる」が含まれている。クリームやパンケーキの甘さやわらかさ。「滑る」であるべき場所じゃない場所に行こうとしている。







ここからは評のページから引く。
Eテレの数学講座おもしろくなるころ動く秋雨前線/佐久間佐紀
→「おもしろくなるころ」がよかった。おもしろさはその人のものだが、前線はもっと大きなものだ。



やさしさがなにのたすけになるだろうめかくしをしてたつきりぎしに/島なおみ



キッチンの床につぶれたビール缶わたしもいつか猫を飼いたい/秋山生糸

→「なぜか納得させられる」という評に同感。つぶれたビール缶に人間の暮らしのわびしさがあり、猫にはそれをやわらげるものがあるのか、などと考えた。



パン競争用のあんぱん揺れている午後に男は聞いているふり/林みつえこ
→これもなぜか納得させられた歌だが、その理由はもっとわけわからない。あんぱんが揺れてるってことはこれから食われるところだろうが、男がパン食い競争を見るのに夢中だからそばの人の話を聞いてない、ってわけでもないだろう。「距離感」が気になる。



パレードの音はここには届かない痛いだろうな螺旋(らせん)階段/岡本真帆
→届かないパレードの音があって、今は痛くない螺旋階段がある。螺旋階段が痛いというのはなんだろう。転げ落ちるイメージか。回りながら転げ落ちると普通より痛いだろうか。
イメージが混ざりあって何か反応が起きている。

田丸さんや金尾さんの引いてくる歌は好みの歌が多い。金尾さんの、歌の良さのポイントを簡潔に書く書き方は見習いたい。こういうふうに書けるといいなあ。

長くなった。終わります。




『未来』に載ったオレの短歌のまとめはこちら。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501




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帰ってきた汚染歌人|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/n3b3bdf5e932c

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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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