松村正直『やさしい鮫』を読む  ~よわまりてのち切り落とされつ、ほか


松村正直さんの『やさしい鮫』を読みました。第二歌集。ながらみ書房。2006年9月。



子供らのこえ遠ざかり塀際にホームランボール残されており/松村正直『やさしい鮫』
→プロ野球だと観客がホームランボールを取るけど、ここではボールが残されたまま子供たちが去ってゆく。草野球らしい光景。



∞(無限大)の瞳となって風船の最後の点を見つめる子供/松村正直『やさしい鮫』
→∞はふたつの目に似ている。手放してしまった風船だろうか。風船は点として見えていて、なお上昇する。「最後の点」ということは、もう見えなくなりそうなところだ。ゼロに近い風船。



巨大なる「整理整頓」の文字の下ややうつむいて人は働く/松村正直『やさしい鮫』



分娩室に寝たまま君はゆっくりと微笑む初めて会いし日のごと/松村正直『やさしい鮫』



ペンギンとラッコを湯船から出してひとりのお湯にもの思いせり/松村正直『やさしい鮫』

→ペンギンやラッコが湯船にいるわけないからこれはお風呂のおもちゃなんだが、そう書かれないからふくらみが出る。
おもちゃと一緒だと「ひとりのお湯」ではないし「もの思い」にならない。

オレの弟が小さかったころを思い出すなあ。年の離れた弟がいるんですよ。風呂場の弟の水鉄砲で遊んだりしたものだ。



燃やされる、踏まれる、引きずり降ろされる、振られる、掲げられる 国旗は/松村正直『やさしい鮫』



目をつぶる老人の前を夏雲が過ぎ、鳥が過ぎ、少女が過ぎる/松村正直『やさしい鮫』

→実際の夏雲や鳥や少女が通過しているようで、若いときの思い出がよぎっているようでもある。



勝ち負けを示すマークのごときもの週間天気予報にならぶ/松村正直『やさしい鮫』



自らのことを弱者と呼ぶひとのためらいもなく弱者と呼びぬ/松村正直『やさしい鮫』



そのうちにあなたも慣れてきますよと囁かれたりエレベーターのなかで/松村正直『やさしい鮫』



切り落とす間際にふいに抵抗はよわまりてのち切り落とされつ/松村正直『やさしい鮫』

→これ、ものすごく気になる歌だった。なにか生きているものを切り落としたということ以上のことはわからない。魚などをさばいていると読めなくもない。
香田証生さんのことが頭をよぎった。2004年当時に首を切断される動画を見たけど、こんな感じだった。この歌集は2006年。

今また香田さんの動画を見ようとしたら、もう見れないようだった。ねばって探したら見つかった。

香田証生さんの斬首動画 http://urablacknist.blog.fc2.com/blog-entry-12.html
閲覧注意。


記憶より血が多い。記憶よりすばやい。





天災による死であればあからさまに弱きものから先に死にたり/松村正直『やさしい鮫』



鏡よ鏡なにがそんなに楽しくてまた人災を言いつのる声/松村正直『やさしい鮫』



壁の向こうで蛇口をひねる音のして洗顔のみずは弱くなりたり/松村正直『やさしい鮫』

→よくありそうなことだが、あらためて読むとなにか浮かび上がってくる。見えないものがこちらの暮らしに影響を与えてくる。見えないせいで気味が悪い。



影はやや傾きながら地にのびて「国道」というバス停ひとつ/松村正直『やさしい鮫』
→バス停の名前って、ときどきえらくおおざっぱなのがある。それにしても「国道」とは大きくでたものだ。どの国道のどのへんなのか、なんの情報もない。
上の句の描写も、ここがどこなのかをはっきりさせる要素がない。バス停以外なにもない場所なのかもしれない。



ちょっとしたコツがあるんだ貸してごらん、貸せばにわかに夢は覚めたり/松村正直『やさしい鮫』
→夢のなかで貸したら、もう戻ってこないだろうね。まんまとだまされた感がある。いわゆる借りパク。



弓なりに身体を反らすキーパーもうつくしい得点シーンの一部/松村正直『やさしい鮫』




以上。

よい歌集だった。きびしめにいかないと印だらけになってしまうと感じてそのようにして読んだ。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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