尼崎武『新しい猫背の星』を読む  ~だけどカオスを司る神である、ほか


尼崎武『新しい猫背の星』を読んだ。書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズの一冊。2017年3月。
インターネットで「あみー」という名前で活動していた作者の第一歌集。


密室のような気がする観覧車 遠くからでもはっきり見える/尼崎武『新しい猫背の星』

サイダーの中に無数の泡があり泡の中にはサイダーはない/尼崎武『新しい猫背の星』

→ものをするどく捉えた歌を二首。
観覧車の歌。遠くからでもはっきり見えることで、密室のあやしさは増していると思う。
サイダーの歌は、サイダーと泡をなにか別のものに置き換えることもできそうだが、特にこれといって思い当たらない。サイダーはこの歌集に何度も出てくる。



まっさらな乙女心はヘッヘッヘッ練れば練るほど色が変わって/尼崎武『新しい猫背の星』
→うまい!テーレッテレー
って、あのコマーシャルは長いあいだやってたな。あのおばあさんはまだ生きてるんだろうか。
乙女心って言葉はなんかアレだが、古いコマーシャルと合わさるとそんなに気にならない。ずいぶん邪悪な「ヘッヘッヘッ」になったな。



補助輪のように支えていつの日か必要とされなくなるなんて/尼崎武『新しい猫背の星』
→補助輪って言葉が、まだ自転車に乗れない子供の頃の記憶を引き連れてくる。親と自転車に乗る練習をしたなあとか。
補助輪に感謝したこともないし、どこへやったかもう覚えていない。親もそういうものなのか。



おとうさんスイッチの「お」を連打する息子と怒りまくるお父さん/尼崎武『新しい猫背の星』
→「おとうさんスイッチ」はNHKの「ピタゴラスイッチ」の中のコーナーだったな。親子がテレビを意識してか少々ぎこちなく遊ぶコーナーで、独特な空気があった。
「お」は「おこる」だったんだね。怒りまくってるけどそれは息子の言いなりになった結果であり、息子もおそらく面白がっている。



待合室 みんな一斉に顔を上げていい部屋ネットのCMを見た/尼崎武『新しい猫背の星』
→「一斉に」見るほどおもしろいものでもないが、待合室はおそらく「いい部屋」じゃなかったんだろう。
チャンネル争いをすることがだんだん少なくなってきた今、みんなで同じテレビを見る部屋として待合室がある。



半分は冗談だけどあなたにはもう半分をわかってほしい/尼崎武『新しい猫背の星』



かおちゃんはねかおりっていうんだほんとはね だけどカオスを司る神である/尼崎武『新しい猫背の星』

→童謡が下敷きになっている。カオスを司る神のほんとうの名前が「かおり」なのだな。意外だなあ。ついでに一人称が「かおちゃん」だったりするのか。バナナは半分しか食べられなくて。
小さい女の子と思ったものが突然はかりしれない大きなものに化けるのがおもしろい。「である」もいい。



坂道をゆっくりゆっくり下ってく ブレーキいっぱい握りしめても/尼崎武『新しい猫背の星』
→ゆずの「夏色」の歌詞をちょっとだけ入れ替えて切り抜くと、意外な一面が見えてくる。
いっぱいに握りしめても止まらないのだから、このブレーキは壊れてるんじゃないか? 危ない。
「君を自転車の後ろに乗せて」が省略されたので、自転車じゃない可能性もわずかにでてくる。



殴られたような気がして振り向くと花火が見える ビルのすきまから/尼崎武『新しい猫背の星』
→花火の上がるときの音が、殴るときのボコッとかガスッて音に聞こえたのか。いや、それだとつまんないか。花火そのものの特別な力が衝撃を持っていて、それによって振り向いたんだと読みたい。
「ビルのすきまから」をどう読むか。そのまま読んでも絵になる。人工物であるビルが複数建っていることによって、月の神秘な力が増すように思う。



黒地に白文字のページがある。このあたりの歌は暗いのかと思ったら、まぶしい明るい光の歌がならんでいたのが印象的だった。



オレと同じ世代ということもあり、元ネタのあるものはだいたい分かったうえで読めた、はずだ。


この本はこれで終わります。




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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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