松木秀『RERA』を読む  ~ごみ箱は何でもごみにしてしまう、ほか


松木秀さんの『RERA』を読んだ。2010年。第2歌集。六花書林。



わが少年時代を無為とおもうとき橙色の巨人のマーク/松木秀『RERA』
→そういえば子供のころに巨人の帽子かぶってたなと思い出した。べつに野球も巨人も好きなわけではない。少年時代の楽しくなさがこの帽子にある、ような感覚。



君が代のオーケストラのアレンジが「むすまで」の「す」からユニゾンとなる/松木秀『RERA』
→ゾッとする。言われてみればまったくそうだ。ただひとつの音にまとまって国歌がおわる。


「止まったままの時計」がまたも惨劇を忘れぬためのアイテムとなる/松木秀『RERA』
→東日本大震災の報道でも止まった時計を見た。古くなっていない歌だ。「アイテム」というやや軽めの言葉も見逃せない。


人間の話をいちいち聞くような神様なんて信じられない/松木秀『RERA』
→矢井田瞳が「神様はいない」と歌うときに、オレはこの短歌を思い出す。


北朝鮮のアナウンサーに抑揚の似てF1のエンジンの音/松木秀『RERA』
→いや似てないだろうと思うんだけど、なぜだか頭の中で互いを似せていこうとする動きがおきて、結果として似てきた。


ロープへと投げられはねかえることもプロレスラーの仕事のひとつ/松木秀『RERA』


ごみ箱は何でもごみにしてしまうミカンの皮も記念写真も/松木秀『RERA』

→ミカンの皮とともに捨てられた記念写真が思い浮かぶ。特に焼かれたりやぶかれたりするわけではなく、ただ捨てられる記念写真。
ごみだからごみ箱へやるのではなく、ごみ箱にやるからごみになるという順序。
ツイッターでつぶやいたときに今回一番反応があったのはこの歌。


人間になりたくなくて泣いている赤ん坊十人に一人は/松木秀『RERA』
→妙にNの多い上の句だ。赤ん坊の泣き方ってそうかも。んなこたあないか。
十人に一人というのは、ほんとかうそかわからないがとても気になる数字。



つるつるの荒野にみんな立っていて動いたひとは転んだひとだ/松木秀『RERA』
→変わったことをすればたちまちダメにされる世の中を例えたのだろう。
中島みゆきは『裸足で走れ』で、ガラスだらけの荒れ地を裸足で突っ走れと歌った。



診断を受けました結果わたくしはキチガイと認定されました

キチガイという言葉さえ使えなくするキチガイをとりわけ憎む
/松木秀『RERA』



ぬばたまの、と書きかけ止める たらちねの母はいつしか六十歳(ろくじゅう)になる/松木秀『RERA』

→母に「ぬばたまの」という枕詞を使いそうになる気持ちがあらわれている。黒い感情は完全に隠されて、年齢だけが提示される。



パッケージに「うまいっちゃ!」と書かれたる仙台いちごがひどくかなしい/松木秀『RERA』
→たぶんまだそのイチゴは出回ってると思う。
オレは仙台でそれに関した仕事をしてるわりにはそのへんの記憶に自信がない。今度見てみよう(と思っても忘れるのはわかっている)。


だんだんとつらら成長するさまを六時間ほど見続けたりき/松木秀『RERA』



ああ特に汚く聞こゆ「ふるさと」の「忘れがたき」の「が」の部分など/松木秀『RERA』

→さっき君が代の歌もあったけど、歌のなかの小さなところをとらえている。ふるさとの忘れがたさとは汚いものだ、とは言わないけれども。



シャツを脱ぐとき一瞬の闇がありこの闇のおかげで生きられる/松木秀『RERA』



「ドングリがないんだクマー」あちこちでツキノワグマが騒ぎ立ており/松木秀『RERA』

→完全にクマを馬鹿にした言葉だが、ニュースの見出しはこれくらいやりそうだ。知らないっていうのはこういうことだな。



「包丁を持った男が押し入り」と死ぬまでにあと何回聞くか/松木秀『RERA』
→とてもよく聞く言葉だが、どんな状況なのか、全然ピンとこない。「押し入る」って、どう入れば「押し入る」なのか? 勢いよく戸を開ければそうなるのか?
テレビの向こうとこちらが別世界みたい。



盛大にカウントダウンして終わる地球最期の日のワイドショー/松木秀『RERA』
→最期の最期にやることが、盛大なカウントダウンなのか。なんのための盛大さなのか。テンション高く滅亡したいのか。
松木さんの作品では、テレビやら新聞やらの愚かな部分が明るみに出される。地球最期の日のテレビなんてまだわからないしこれは仮定の歌だけども、充分ありうる。



以上です。
流行をこまかく観察するなどしてうまいこと言ってはいるんだけど、その向こうに厭世感とでもいうのか、暗いものがあって、オレには個性的に感じられる。発見もアイデアも面白さだけでは済まされず、苦い味がついている。
たくさん引いたけど、おもしろい歌集でした。








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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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