「未来」2017年2月号を読む  ~小指からゴジラになって、ほか


未来2017年2月号。


あすなろうあすはなろうという人に暗き檜は答えを持たず/渡部光一郎「あすなろ」


つけっぱなしで寝ていたようにカーテンを開ければ朝は夕焼けの色/盛田志保子

→おもしろい比喩です。起きたら電気とかテレビとかつけっぱなしだったということがときどきオレもあります。空が電気に例えられるのもおもしろいんですが、さらに朝と夕も重なってきます。


この鍵はだれかの指の味がする。わたしいつでもひざまずけるよ/蒼井杏「星ふる」
→指の味と鍵の金属の味ってどこかで交わるような気がして、よく思い返してみるとおそらく鍵を握ったあとの指が金属くさかったという記憶です。誰かの指、ってことは他人が使ってきた鍵なのでしょうか。
いつでもひざまづけるのは思いきりがよいですね。一種の強さだと思います。
それで、上の句と下の句がどう関係するのかはよくわからないんです。誰かの指の味を感じることや、ひざまずいたりすることには、気分のいいことではないはずで、なにか背負ってるものがありそうだなという感じがします。



湖底にはかつてあなたであつたはずの映写機ねむり僕が沈めた/本山まりの

水底の銀のひかりに沈みたるみずより重き実は傾きて/嶋稟太郎

→底に沈む歌ふたつ。沈む、というのもいいですね、詩がありますね。
一首目、眠ってはいても、映写機と言われるとなにか映像を映しているところを想像します。どんなものが水のなかにうつしだされるのでしょう。「沈めた」にはそうしようとする意志があり、あなたと僕の間に物語がありそうです。



認知症のひとと話せり夜のうみに溶くるむすうの雪を想いて/田中哲博







ここから未来賞第一作のお三方の歌を引きます。
小指からゴジラになっていくような怒りだと言うまずは頷く/山階基「流れる一瞬の」
→小指からゴジラ、はおもしろいです。怒りのあまりだんだん全身が黒くゴワゴワしていくんでしょう。しかしそのおもしろさゆえに、ほんとに怒ってるのか疑いたくなります。おもしろいこと言ってる余裕があるじゃないかと。うなづいて様子を見ているところでしょうか。


壊される間際のビルに嵌められた窓は窓ゆえただ閉じている/山階基「流れる一瞬の」
→ビルが人体だったら、窓を開けてそこから悲鳴をあげるでしょうか。壊されるまでまったく動じないモノの姿をとらえています。



ハムからハムをめくり取るときひんやりと肉の離るる音ぞ聞ゆる/門脇篤史「生活と発光」
→三句で温度をあらわしておいて、それが音にかかってきます。わずかな音をよく聴いています。
動物を直接殺してその肉を食らうような生活から遠く隔たっていても、よくよく聴けばこうした音があります。


恋人と両想いとを隔ててる空き地で雲を見ていたかった/本条恵「メグリズム」






対岸の灯 と呼ぶとき目の前にひろがる黒ださざめいている/氏橋奈津子
→これは一字空きがいいなと。一字空きのなかでも、一字ぶん黙るタイプの一字空きですよね。これが対岸とこちらがわを隔てている。灯のとどかない黒いところこそが灯を対岸のものにしている。さざめいてその存在をあきらかにしている。



眠ったら私は手紙で、運命じゃなかった人への手紙になった/坂中まなみ「Moving」



小川佳世子さんの「田中槐の連作について」という評論がある。
Aだと読めるものをAではなくBなのだと断定するために必要なものが欠けているのではないか。自分がそう強く感じたから、そのほうが自分にはおもしろいからBだ、では受け入れ難い。オレにはそのおもしろさは伝わってこなかった。


岡井隆さんが連載のなかで、
「選歌にあたつたときの感想を、によろつと述べた。」(「によろつと」に傍点)
と書いていた。
これがうれしい。感想とは「によろつと」述べるものなのだ。オレは「ぬらっと」やってきた。



唐黍の籠を背負へる婆(ばあ)様が足踏ん張つて立つまでを見つ/桑田靖之
→歌を読んでいて、自分もそれを見ているような気持ちになった。「までを見つ」に時間のひろがりがあるのかな。


レンジから取り出されずに冷えてゆくミルクみたいな一日がある/しま・しましま
→ある。コンディションが整っても、やる気がでても、それを発揮しないまま終わってしまう。オレの場合は休みの日に多いな。今日は何しようかなって考えてるうちに夕方になっている。



評のページから。
丘の上は夏の暴風虫も鳥も飛ばされながらかんがえている/平田真紀


何もかも終へて戻りし天井に無用の紐がつるされてをり/金村洋子


ビニールを破つたパンを食べないでしばらく観ててまづさうになる/三田村広隆

→開けたらすぐ食べるオレにはありえない世界だ。開けたらすぐ食べるから、まずそうになる感覚もわからないわけだが、そうか、そっちの世界はそうなっているのかーという興味があった。


新しき自転車は淡き紫のやや小ぶりなり心ゆさぶる/加藤ミユキ
→あたらしく何かを入手して幸せでいるときの感覚だ。この色、この大きさがこの方にとっては心ゆさぶるものなのだ。「淡き紫」「やや小ぶり」と、くわしく描こうとしている。




以上です。

『未来』に載ったオレの短歌のまとめはこちら。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501


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成人病予防健診に行って、最悪だった話|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/n825cec319cde

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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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