「未来」2017年1月号を読む  ~むんちゃっと扉あければ、ほか


「未来」2017年1月号。一ヶ月遅れ。



孫ふたりしたがふ音と聞きてをり小学校のチャイムが鳴りぬ/池田はるみ「チャイム」


児の指せる星は父には見えざるを冬の欄干冷たきに凭る/黒瀬珂瀾


紙屑のごとくにわれは無力なれどこのひとは失へぬ失はぬなり/黒木三千代

なんだか家族の歌ばかり引いている。
→「失へぬ失はぬ」に力がある。紙屑のイメージからみるみる力強くなる。


街なかに人まちがいをしてしまう汝が吾のそばにいないために/小林久美子


距離を置く、なんて馬鹿だなはじめから何光年も隔たっている/久野はすみ「あるいは愛を」

→何光年! 一瞬、宇宙空間に投げ出されるかのような気持ちになった。


あちらへは届かなくつてこちらへは届いたりしてやつぱりとほい/古川順子
家族の歌じゃなくなったと思ったら、今度は距離の歌ばかりになってきた。歌に丸をつけてゆくのに流れがあるようだ。


バス停の小さな屋根をはみ出して くろ 紺 ビニール 水色の傘/千坂麻緒「雨の声」
→上のほうから見ているのかな。バスを待つ人が傘の色で識別される。「ビニール」だけは色じゃない。材質だ。


このカーテンレール私の体重をまるごと支へられるだらうか/山木礼子
→カーテンレールに何をしようというのか。いや、何にもするつもりがなくても、ふと頭をよぎることがあるのだろう。
ずいぶん前に、いたずらで、カーテンレールに猫を乗せたことがある。オレも一度乗りたかったのかなあ?


言ひたげで言はない頬のまろみとぞ 人形の頬を彫り師が削る/弘田ちゑ子「ゲンノシヨウコ」


むんちゃっと扉あければマヨネーズさかだちしているせかい あかるい/蒼井杏「異物とさかな」

→「むんちゃっ」は冷蔵庫の扉をあけたときの音なんでしょうね。確かにそう聞こえる。うまいこと字にしたなあ。
「あかるい」と言われているこの世界は、冷蔵庫の明かり程度のあかるさだ。最後まで使いきるためにマヨネーズが逆立ちする世界の明るさだ。一筋縄ではいかない「あかるい」だ。


血がいやだ 全部抜いたらこの店のリプトンミルクティーを入れたい/鷹山菜摘「五センチ」
→血のかわりに、リプトンのミルクティーを入れたいという。「お前らの血は何色だ」みたいな名台詞があるけど、まろやかななんとも言いづらい色だ。
命への、これは違和感か。


風なくてただただ縦に降る雨を君来たりけり少し消えつつ/柳野葉





一月号には、未来賞の発表がある。今ごろこんなことを話題にしているのはいかにも遅れているけれども、見ていきます。

布かばんひとつでひさびさに出かけ帰るころ重さがちょうどいい/山階基「ほとり」
→なんて言えばいいのかなあ。感触がいろいろある。
まず、布かばんの材質。つぎに、ひさびさという時間。最後に、ちょうどいい重さ。どことなく心地よい。
帰るころってことは、かばんの中のものを取り出したりしたんだろう。でもそのへんは空白。余白をとりながら感触を入れている。

出かけたときのことを書こうとしたら、なぜどこへ行って何をしたかだけを書いてしまいそうだけど、そこは抜けていて、周辺が書かれている。要点でないところの豊かさ。


いくつものYシャツ吊るし直線をたもたんとするカーテンレール/門脇篤史「指をぬぐふ」
またカーテンレールだ。オレはカーテンレールが好きなのか? さっきの山木さんの歌も、こちらのカーテンレールも、重さが関係している。カーテンレールとは、生活の重みを支えているものだったのか。


橋だったレゴを花へと組み換える四角い力とまあるい力/本条恵「ポリゴニズム」
→レゴは四角いんだけど、丸い出っぱりのところで組み合わさっている。それが四角い力とまあるい力ってことなんだろう。橋が花になるのは、レゴらしい変化だ。


音立てて沈んでしまう私はダンボール箱に腰掛けていて/森本直樹


はむかつてきた農民をたはむれに赦せばやがて寓話となりぬ/主水透「王候」


 がれないバンドエイドをさがしてゐますできるなら等身大の/多田愛弓「終はらずにゐる」

→身体中が癒えない傷になってしまったとでもいうのか。全身をバンドエイドで覆ってそのままずっと過ごすのかなあ。


いまここでステップ踏めば踊れないことに気付いてしまうのだけど/平岡ゆめ


シアターで前の座席を抱えても君の肩幅思い出せない/林みつえこ

→評のページから。
まさか、それを思い出すためにそういう行為をしたのか。せつないことだ。ああいう座席ってたしかにちょうど肩幅くらいの大きさだなあ。この歌によってそこに気づいてしまったから、オレにもいつかやってみる機会があったらやるかも。







オレの「未来」の短歌はこちら。


歌人・工藤吉生が作る『未来』の短歌とは? - NAVER まとめ http://nav.cx/4QNCtnZ
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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