佐藤りえ『フラジャイル』を読む  ~キラキラに撃たれてやばい、ほか


佐藤りえさんの歌集『フラジャイル』を読んだ。風媒社。2003年。



キラキラに撃たれてやばい 終電で美しが丘に帰れなくなる

一人でも生きられるけどトーストにおそろしいほど塗るマーガリン

最低の恋人だったぼくたちはゴーダチーズを指でえぐった
/佐藤りえ『フラジャイル』

というのを以前どこかで読んで知っていた。
でも一冊を通して読んでみると、わりとおとなしい印象だった。



正体は見えないけれど大いなるものに抗い寝返りをうつ/佐藤りえ『フラジャイル』
→「大いなるものに抗い」がおもしろくて丸つけた。読み直すと「正体は見えないけれど」が余計というか、寝ていて目を閉じてるからなんにせよ見えないんじゃないか。


一メートル宙を見つめて名乗らずに吹きこまれたる留守電を聞く/佐藤りえ『フラジャイル』
→なにもない宙を見てるのと留守電を入れた人の名がわからないことの不思議な関係。
でもこれ「一メートル宙」ってなんだろう。目線からななめ上に一メートルの場所を見てるんだと思ったが、まっすぐに一メートルかもしれないし、床から一メートルという意味かもしれない。つかみきれない。
二句で切れてるんだろうけど「て」のおかげで三句切れにも見えてしまうのはいいのか。そういうこまかいところが気になる。


波のアーチが崩れる前の一瞬の表情をして言うさようなら/佐藤りえ『フラジャイル』
一回目に読んで丸をつけた歌を、読み返すと丸を消したくなることがこの歌集は多い。二回目に丸をつけた歌はほとんどない。
この歌はいい感じだけど小野茂樹っぽい。丸を消すほど似てはいなくて、残った。


さかさまに置いたカップの内側のような部分が君にもあるね/佐藤りえ『フラジャイル』



モニターに♯87CEEBの色映せしがほんとうの空の色にはあらず/佐藤りえ『フラジャイル』

→調べたら「#87CEEB」は空の色っぽい色をあらわす記号だった。画像検索したら青空で満たされたみたいで気持ちがよかった。
「#87CEEB」は「スカイブルー」と言われているそうだ。記号がおもしろくて丸つけたけど、下の句「ほんとうの空の色にはあらず」は、まったく当たり前だ。それがこの歌のいいところ、ということになるのか。オレにはものたりない。もっと遠くへ連れていってほしい。
そのまえのカップの歌の「君にもあるね」も実にあっさりしている。面白いところに目をつけるが、最後は力を抜いている。



フラスコの底に炎をあてている 君はふつうに裏切っている/佐藤りえ『フラジャイル』
→「ふつうに裏切っている」がおもしろい。関係なさそうな前半だけど、フラスコといえば実験だ。相手を試すようなことをしたのか。フラスコが「君」というわけだ。

一見わけわからなそうでも、考えるとわりとつじつまの合う歌が多い。
つじつまが合うのは、いいことでもわるいことでもない。ここではやや物足りなさになっている。
「解釈」しきれてしまうと、歌が小さく感じられる。解釈で割りきれない部分、滲み出てくる言いようのないものこそが歌の味わいなのだと思う。これは短歌観の問題ですね。



秋茜 渡しそびれた絵葉書で折った飛行機が落ちて行く/佐藤りえ『フラジャイル』
→結句「が落ちて行く」の字足らずで、紙飛行機の落ちていく様子、無念があらわれているようでとてもいい。「秋茜」もいい。季節や色が感じられる言葉の効果。

でも調べたら、秋茜ってトンボなんだね。トンボと飛行機はつきすぎてるなあ。トンボは落ちていかないからこそ、飛行機が落ちてゆくことに無念があるのだと、そう読んでおこう。


明け方のせつなき夢に君が来て行こうと言ってくれた 行こうか/佐藤りえ『フラジャイル』
→「せつなき」はなんとかならないのかとか、最後の「行こうか」はおさめ方としてどうかなとか、気になるところはあるが、状況がいいので残した。夢のなかで不安から助けられるのって、ほんとに心強いから。





「キラキラに撃たれてやばい」の歌が突出してすごかったんだなという感想。
「キラキラ」で光りだし、
「撃たれて」でその光が引き付けられて体感にかわり、
「やばい」としか言いようのない状態になる。
「終電」は夜の闇をつくり、最初のキラキラを引き立たせる。
「美しが丘」という地名が絶妙で、現代の団地の名前にも見えるし、メルヘンの世界にも見えなくもない。
「帰れなくなる」ことが衝撃が強いこと、それが決定的であることをものがたる。
まったくすごい歌だ。

以上です。






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どこへ向かって表現するべきなのか|mk7911|note(ノート)https://note.mu/mk7911/n/n4fcb83c1b017

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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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