佐藤涼子『Midnight Sun』を読む  ~人喰い虎でいっぱいの檻、ほか


今回は佐藤涼子さんの歌集『Midnight Sun』。
これは新鋭短歌シリーズの一冊で、書肆侃侃房からでています。1700円+税。140ページ。2016年12月。




水色のバスがゆっくり通り過ぎ予報通りの雨が降り出す/佐藤涼子『Midnight Sun』
という何気ない歌から始まっています。
佐藤さんはオレと同じ宮城の方で、塔の歌会などで何度かお会いしています。
この「水色のバス」は仙台市営バスかなあと思いました。この二つあとの歌にでてくるプラネタリウムはあの建物のことかなあと思い当たるところがあります。



たこ糸の版画を刷る手に北朝鮮ミサイル発射のテロップが載る

ミサイルはどこだ 孤独と題された版画が映りニュースは終わる
/佐藤涼子『Midnight Sun』

→テレビを見ているとニュース速報がはいります。速報のニュースとそれまでの番組の内容にひらきがありますが、うんと遠くでは響き合っているようにも思えます。



舗装路の菫を健気と言う人に「そうなんですか」と二回頷く

健康で長生きしたいですよねと聞かれて頷く そうでもないが

「フクシマ」の表記の是非の話には口を出さずにカフェラテを飲む

そうですか 怒鳴り続ける声があり頷きながら思う白鷺
/佐藤涼子『Midnight Sun』

41ページにくるまでにこういう歌があって、三回頷いています。多いですねこういうのが。なにか言われて、それに対して意見があっても言わない。飲み込んでいます。



排ガスがテールランプに照らされる 雪の夜道は葬列めいて/佐藤涼子『Midnight Sun』



「誰だって人喰い虎でいっぱいの檻に入れれば死ぬ」と励ます/佐藤涼子『Midnight Sun』

→ど、どんな状況なんでしょうね。奇妙な状況ですが、人の命の平等を説いています。
人からなにか言われたり聞いていたりと受け身な歌が目立ちますが、ときにはすごいことを言います。



何人が見ているだろうCAは「ふー」と声出し救命具を吹く/佐藤涼子『Midnight Sun』




ギター店に八十三円足りないと言う少年を残して目覚める/佐藤涼子『Midnight Sun』

→八十三円がこまかい。ギターを買うために少年はせっせと小銭を貯めていたのでしょうか。あとちょっとで買えるのに。
「残して」がいい。夢の世界のどこかにはまだ少年がいるのです。



丸つけた歌は以上です。震災の歌はほとんど素通りしましたが、以前ご紹介したことがあります。次のような歌です。
「よそよりもうちだけ遺体が上がるのが早くて何だか申し訳ない」/佐藤涼子

眩暈か余震かもはや誰にも区別はつかない ただ揺れている/佐藤涼子「記録」

戦争中もんぺに名札を貼っていた意味が分かった遺体安置所/佐藤涼子「記録」

これらは以前「塔」で読んだのでした。もんぺの歌は歌集に入ってませんでした。



震災になると非情さが強調されます。あんな甘えも許されない、こんな感情も許されない。
意見の合わない他者には頷いてばかりですが、「君」がでてくると一転して甘味が出ます。知らないカタカナ語も増えます。オレとしてはその中間くらいの歌がおもしろくて、そういう歌に丸がつきました。


以上です。








宣伝。


角川短歌賞予選通過作品「ピンクの壁」50首をnoteで公開しています。400円。
https://t.co/PDVrswIfmt

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR