「未来」2016年12月号を読む  ~これは警告、ほか


「未来」12月号を一ヶ月おくれでやっていきます。


ステーキのやはきを食べて夢のやう遊びのやうな夕餉となりぬ/池田はるみ「牛」


ええ知つてゐますとも守衛さん、父467母591号。/守中章子

→前半の丁寧なお芝居みたいた口調や句読点が、親を番号で言うことを求められ答える後半の現実を活かしているのだろう。


いかづちの鳴りやまぬ午後わが母は呼吸(いき)とめにけりふととめにけり/守中章子


おそらくもうあらわれぬ鳥ひとしきり曇天うつくしく旋回す/平田真紀


真夜中もいづみのごとく湧きいづるしづけさよ母の手鏡のなかの/弘田ちゑ子「石門」


釣具店の看板「つり」はなぜああも大々的なんだろう秋よ/盛田志保子

→そう言われて秋も困っちゃうだろうね。「秋よ」で背景の景色があらわれる。


失笑を買う発言の品のなさ、であるが故に歴史に残る/佐藤理江


ぼ、ぼくは、怒りをエネルギー源にしてゐる人は苦手なんだな/秋月祐一

→オレのことだな。苦手なのは申し訳ないけど、山下清の吃音を借りているのが気になる。かならずしも自分の意見とは限らないと。
怒りをいえ怒りを抒情の契機とせよ今つきつめて「詩」といえる営為
という近藤芳美の短歌を思い出したりもした。


仕方なく下げた頭のてつぺんからビームが出せるやうになりたい/酒井景二朗


これからする約束をすでに破ってるそういう顔だ生まれつきなんだ/西藤定「Spoken,Handwritten」


やまびこはあの日かえってこなかったビルの谷間で聞こえた奇声/戸田響子「ずれたメガネで見る」

→山でヤッホーと言ったら、あとでビルの谷間から奇声がきこえた。やまびこは自分の声だが、だとしたらこの奇声も自分のものだろうか。こわい。


流星群。死のようにそれを待ちわびてフェンスの向こうへ指をひらいた/鈴木美紀子
→「それ」とは流星群だと読んだ。流星群が、ましてや死がフェンスを越えられないことはないが、フェンスはさえぎるものとして立ち、指は求めるときにひらく。


音が鳴つたらボタンを押して知らせますそれだけが繋がる術ならば/小林千恵「すべて空耳」
→病院の一連なので、聴力検査をしている場面と読める。ピーと音がしたらボタンを押す。
「繋がる術」と歌にはある。音を発しているものにつながろうとしている。聞いてくれと音がでて、聞こえていますとボタンが押される。かすかなつながりだ。

この歌を読んで、一瞬流行った「ひとりぼっち惑星」を思い出していた。発することはできるが、誰にどう届いたかはわからない、一方通行のつながりだ。



窓ガラスうねり拡がる 今宵ラングドシャクッキーに降る雨/坂中愛実「野分」
→ラングドシャクッキーって上品な甘さで美味しい。オレは大好き。なのに捨てる人がいて、しかもちゃんと捨ててなくて雨に打たれている。痛ましい。
「窓ガラスうねり拡がる」はなんのことかと思うが、雨の激しさをあらわしているとわかる。今夜もどこかで雨に打たれているラングドシャクッキーがあるのだろうか。「ドシャ」から土砂降りを連想する。



空席の多き映画のスクリーンに雪はらはらと降り積もるなり/今野浮儚


キャベツとビールしか野菜室に無い。朝知つてゐて夜にまた知る/谷とも子「ふところしづか」

→わかるーってなる。冷蔵庫を開けるたびに残念な気持ちになることがある。冷蔵庫を閉めるとやがて忘れて、開けると思い出す。
自分が使ったり食べたりしたことの結果を「知る」っていうのが他人事みたいでおもしろい。キャベツとビールが具体的なのも。


死にたいと言って相手にされるのは初回限定これは警告/新原繭
→「初回限定」ってわりと最近の言葉じゃないだろうか。そうでもないかな。そこに今っぽさを感じた。
普段は宣伝のための人をひきつける甘い言葉だが、これは誘いではない。「これは警告」なのだ。


ズジスワフ・ベクシンスキーの絵にいこふ無題と名付けたき夜なれば/山本茘
→ベクシンスキーなんて久しぶりに名前を聞いたし、ほとんどその懐かしさで丸をつけた。怖い絵としてネットによく出てくる。
どんな夜だろう。なんでもない普通の普段の夜だったらタイトルをつけたくなるだろうか。


捨てられたかき氷器の幽霊が成仏をするための粉雪/価格未定


家族愛をテーマにしているCMの家族に僕を演じる人はいない、いや笑い話/山崎修平

→「、」の前まででもじゅうぶん自虐的な、たとえばオレとかが作りそうな一首になっている。だが思いきり定型をはみ出して、笑い話だと読者にことわっている。ここではじめて笑い話だとわかる。が、わざわざ笑い話だと言ったからやっぱり笑い話じゃないような気もしてくる。


ストローに吸ふアイスティー刻々とわれに迫り来 水位をあげて/飯田彩乃
→アイスティーが三句以降の表現によって津波かなにかみたいに見えてくる。自分で吸ってるのに、危機感がある。


どれだけの希望を走れば四足の前の二本が羽になるのか/萬宮千鶴子「恐竜展へ」
→飛びたいという希望をもって走って走って走った結果、足が羽になる。うーむ、進化ってなんだろう。希望で羽がつくれるっていいなあ。
「にこにこぷん」で飛ぼうとしていたぴっころや、中島みゆきが作って加藤登紀子が歌った「この空を飛べたら」を思い出す。


雨が降るあめがふるって狼は言いたいだけで遠吠えになる/秋山生糸
評のページから一首だけ。
→真偽はともかく、ものが全く違う光をおびて見えてくる一首だ。ものがちがって見えるのは、短歌のおもしろみのひとつだ。



未来12月号おわり。





『未来』に載ったオレの短歌のまとめはこちら。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501



角川短歌賞予選通過作品「ピンクの壁」50首をnoteで公開しています。400円。
https://t.co/PDVrswIfmt

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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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