工藤吉生が選ぶ 2016下半期短歌大賞【前編】 総合誌・結社誌

2016下半期短歌大賞
【第6回ぬらっと!短歌大賞】

2016年7/1~12/31にブログにアップした記事、またはオレこと工藤吉生のツイッター @mk7911 でリツイートしたもののなかから短歌を45首選びました。
ぬらっと!短歌大賞では、半年間に読んだすべての短歌のなかから好きな作品を選んでいます。

これまでのまとめ
第1回 #2014上半期短歌大賞 65首
http://togetter.com/li/687898

第2回 #2014下半期短歌大賞 60首
https://t.co/8E5EIBgp2H
第3回 #2015上半期短歌大賞 60首
http://togetter.com/li/842561

第4回 #2015下半期短歌大賞 50首
https://t.co/LPmjDf4Hb6

第5回 #2016上半期短歌大賞 55首
https://t.co/X60WvjAcKc


もう2017年になってしまったので、「第6回ぬらっと!短歌大賞」 #2016下半期短歌大賞 45首を急ぎ足でやっていきます。

前回と同じく、
【1】総合誌→
【2】結社誌→
【3】同人誌・歌集・その他の印刷物→
【4】ツイッター、
の順でやります。


この記事では短歌への評をあわせて載せていきます。なぜこの歌を選んだか、ということを書きます。
以前コメントしたことのある歌についてはそれを写します。

45首をならべただけの簡潔なまとめもあります。それはこちら。
▼2016下半期短歌大賞 45首 Togetterまとめ
https://togetter.com/li/1066315




この記事では前半の
【1】総合誌【2】結社誌をやっていきます。





【1】総合誌部門


どれくらい登れば海が見えるのとあなたの声、鳥の声、汽笛/千種創一「水文学(すいもんがく)」
短歌研究 2016年7月号 1/45

→下の句でしめされる三つのものが印象的です。あなたの声、鳥の声、汽笛。徐々に言葉から音へと変わっていきます。6音5音3音と短くなります。「あなたの声」が意味を失い音になっていくような心細さを感じました。いずれにもK音とT音が含まれていて、音のうえでの統一があります。



眠るときは愉しきことを思ふべしねこじやらしの中を歩く猫など/柏崎驍二 2/45
→なるほどたのしそうで、なおかつ眠れそうな気がします。猫の歌は好きです。

柏崎さんについては追悼特集が総合誌で組まれてまして、そこである程度の歌を読む機会がありました。
毎回言ってますが、2016年下半期に発表された歌ではなく、その時期にオレが読んだ歌が対象になっているので、古い歌が入る場合があります。




ほらあれが戦争座よ、と夏空の星がこちらをみおろして言う/吉岡太朗
短歌研究 2016年8月号 3/45

→地球もどこかから見れば星座の一部になるというのは、考えたこともありませんでした。戦争座はいったいどんな形があり、どんな物語が背景にあるのでしょうね。
星と言えば見上げるものなので「みおろして」も新鮮です。



階段の手摺のなかに山桃のジュースが満ちているかのようだ/大滝和子「世界文学」
短歌研究 2016年9月号 4/45

→なんという感覚でしょう!
手すりは、外側から触れることしかできません。どう触れたら、どんな関わり方をしたらこう感じられるのでしょう。おどろきます。



こんなにも真白きイオンの片隅に喪服は黒く集められをり/門脇篤史「梅雨の晴れ間に」
短歌研究 2016年9月号 5/45

→この歌、初めて見たときから印象に残っていて、喪服売り場を通りかかるたびに思い出します。



次のかたどうぞ。の声に「あいっ」と言う 壁に気色の悪い蛾がいる/小坂井大輔「スナック棺」
短歌研究 2016年9月号 6/45

→「あいっ」と言ってるのは誰かわかりません。たまたま待合室に居合わせた知らないオジサンなのか、不意に出てしまった自分の声なのか。「あいっ」は変にはりきっています。気色の悪さがあります。オレなんて「あいよーっ」って言ったことありますが、あれはよくなかったです。



中央区納税課にて「死にたい」と言いたい人の列に加わる/那須ジョン
短歌研究 2016年9月号 7/45

→「んなわけなかろう」と思ってから、だんだん「そういうことかもしれないよな」と思えてきた歌です。死にたい人と、死にたいと言いたい人のちがい。



遠くまで行った夢だよ トーストを焼いて渡して連れ合いに言う/三枝昴之『それぞれの桜』
8/45

→朝食の様子ははっきりしていますが、「遠く」は、まったくどんな場所かが見えません。地理的な遠さだけでなく、時間的な遠さを思いました。
「連れ合い」って言い方が、もう若くない人の言い方ですね。かつては二人で「遠く」へも行ったのでしょう。夢の中は共有できないが、朝を共に過ごしている二人です。



選りすぐられし街頭のインタビュー誰もが下らぬことしか言わぬ/森本平「狂泉のほとりにて」
短歌研究 2016年11月号 9/45

→たしかに、いかにも毒にも薬にもならないような意見ばかり出てきます。放送されない鋭い意見もあるのでしょう。選りすぐることによりテレビが人間をつくりあげていきます。


膝抱きて歌をおもふは項垂(うなだ)れて死をおもふより少し楽しき/吉井勇
10/45

→「少し」がよいです。歌をおもうのには苦しみがあるということか、はたまた死をおもう楽しみがあるということか。死と歌の近さ。



父の余命告げられ帰る車内にてなれそめ語りはじむる母は/石橋佳の子
角川 短歌 2016年9月号 11/45

→しみじみと、こういうことはありそうだと思いました。
秋葉四郎さんは「人の機微を詠って精深」と評しています。なるほど。
歌もそうですが、評の言葉にも「風格」みたいなのを感じることがあります。


ネカヂといふ言葉のこれり飢ゑのため眠られぬ夜の苦をいふ〈寝渇(ねかぢ)〉/柏崎驍二 12/45
→常に「厚切りバナナバームクーヘン」が部屋にあるオレからは想像できないことです。言葉の響きからも厳しさを感じます。言葉があるということは、その背後にたくさんの飢えに眠れぬ人がいるわけです。

柏崎さんが二回目ですが、一人一首という縛りはないのでこういうこともあります。
選んだ歌を見返してみると、死の色が濃いことに自分で気づきます。明るい歌や笑えるような歌も大事にしたいんですが、マジになって選ぶとなかなか残りません。




【2】結社誌部門

さみしくてこたつの電源入れました 曇ったままで暮れていきます/上澄眠
塔 2016年7月号 13/45

→寒い時期の憂鬱な感じがよく出ています。下の句は視線が空にいっているのだうでしょう。手紙の文面のような丁寧語がいっそうさみしいです。



おほき猫の死骸にかけしダンボール束の間の雨に色を変へをり/穂積みづほ「三つの数字」
塔 2016年7月号 14/45

→色を変えた段ボールに、時のうつろいやすさを感じます。今は死骸の猫が、みるみる腐れ忘れられてゆくのでしょう。いたましい。


適当に頼んでと言う先輩がスマホに触れた 宴はじまるよ/山口蓮「宴はじまるよ」
塔 2016年10月号 15/45

→現代の「宴」をよくあらわしています。「宴」という言葉のみやびさが浮いています。


側溝の蓋に小石が詰まってる こいびと以外もうなにもない/阿波野巧也「Life Is Party」
塔 2016年10月号 16/45

→上の句はよく見る光景で、ありありと思い浮かべることができます。蓋は石から逃れられず、石は蓋から逃れられない。お互いが束縛しあっていて善くなる見通しがない。小さな絶望のかたちです。

満杯のダストボックス駅に見ゆ報復はいつなさるるべきか/三輪晃
未来 2016年6月号 17/45

→ゴミ箱からゴミがあふれている光景を目にする機会があります。それは虐げられているように見えなくもありません。ゴミ箱が報復の時をうかがっているようにも読めます。


詳しくはあすの折込チラシにと告げて夕日は湖(うみ)へと沈む/佐藤羽美
未来 2016年7月号 18/45

→テレビでよく聞く決まり文句がつかわれています。チラシはどんなものだろうとか、なぜ夕日がそんなことを言うんだろうとか考えてもわかりません。
「こんな夕日はいやだ」ってやつですね。そんないやなものに、私達はほとんど慣れて生きています。




その先を知りつつ読める虐待の記録いいからもう死んで早く/吉野亜矢
未来 2016年8月号 19/45

→つらすぎる現実が下の句のような言葉を呼び寄せています。いつか救われるという希望がないと苦しい場面には耐えられません。



芯といふものがあらずに伸びてゆく竹おそろしくまつすぐである/池田はるみ「梅雨入りのころ」
未来 2016年8月号 20/45

→「竹を割ったような」と言われる性格がありますが、これもひとつの性格をあらわしていると読めます。政治家の顔が思い浮かんだりしました。



プラグは全部真横からだけ差し込んでみんな私の言うことを聞いて/佐藤理江
未来 2016年9月号 21/45

→なにか混乱した場所でリーダーシップをとろうとしている場面です。プラグの差し込み方を指導するよくわからなさがよかったです。みんな思い思いの角度でプラグを差し込んでいるというのでしょうか。


542000208時間テレビに救われる俺/蜂谷希一「痛みを引き受ける」
未来 2016年11月号 22/45

→数字が大きくて、一、十、百、千……と数えてしまう歌です。
五億四/千二百万/二百八/時間テレビに/救われる俺、と切ればうまくおさまります。
六万年以上かかる計算です。現実的な数字でありません。救われないと言っているのに等しいです。そして、「24時間テレビ」の24という数字の無意味さ、時間としての短さを暴いています。



トーナメントのシードの位置を占めるごと隅より電車の座席は埋まる/今宿芳弘
コスモス 2003年4月号 23/45

→これはなるほどと思いました。確かにどちらも隅から埋まります。電車の席に腰かけた乗客たちが、これから戦い始めるように見えてきます。

たまたま一冊だけコスモスを読む機会があったのでした。
ここまでが結社誌。



次からが同人誌・歌集・その他の印刷物からの歌になります。

後半につづきます。







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2016年12月の工藤吉生の短歌、全て見せます|mk7911|note(ノート)
https://t.co/tdZ7Zhiw2Y
有料マガジン更新、500円ですべての記事が読めるマガジンです。



角川短歌賞予選通過作品「ピンクの壁」50首をnoteで公開しています。400円。紙で縦書きで読めるネットプリントの番号付き。
https://t.co/PDVrswIfmt
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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