「塔」2016年10月号を読む  ●十代二十代特集

「塔」2016年10月号。

十代二十代特集のある号でありますが、特集の歌は最後にまわしましょう。





走り出す位置が異なる短距離走曲がり終えるまで順位分からず/向山文昭
→そういえばオレもいつも気にしてました。いつも気にしてるはずなのに、誰にも言わないし書いたこともない。そういう所を突かれると「やられた」と思います。


赤白の帽子の子らに交わりて平和の鐘をそろりと撞きたり/朝日みさ



夜の街中島みゆきを聴きながら寝不足の頭二度三度振る/永田玲

→中島みゆきが出てくると反応してしまいます。
でもみゆきさんも活動が長いんで、いつのみゆきさんなのかで「中島みゆき」の指すものが違うんです。わかれうた、ひとり上手、悪女の頃の中島みゆきならば、この「夜の街」はネオンと酒と男女の、大人の場所になるんですが、これはそうですかねえ。
糸、地上の星、麦の唄の中島みゆきだとしたら、全く違ってくるわけで、そのへんの難しさを感じています。



「負けんばい熊本」の文字よく見たりビルに車に商店街に/矢澤麻子
→熊本地震の歌です。こっちは五年経った今でも「がんばろう宮城」を見かけます。「がんばっぺ」になってるのも見ますが、だいたい「がんばろう」で、方言が弱いんです。
ちょうどビルや車や商店街で見ます。地域が離れているのに同じ現象が起きてて、なんか変です。同じ人が「こうしなさい」と操っているのかと思ってしまいます。



銃殺の夢より覚めて足元にリモコン白く転がりてをり/濱松哲朗
→テレビのチャンネルとして読んでましたが、なんのリモコンかは不明ですね。エアコンというのもありうる。
チャンネルで夢が操作されていた、みたいなおもしろさを読みました。


500円玉が財布に2枚あるちょっとうきうきする大通り/阿波野巧也
→最近も、「千円札三枚の3000円よりも五百円玉五枚の2500円のほうが強い」っていうツイートを見かけました。五百円玉硬貨には何かありますね。



ガラス越しに魚を撫でる落ち込んだ時かけられる慰めのように/真魚
→つまり、見えるけど感じることはできない。
撫でる側と慰められる側を行き来します。



階段を昇るといきなり生きている福島瑞穂に手を取られたり/相原かろ
→「生きている」がいい。有名人を見ると、生きて動いていることにまず印象を持ちます。



轢き逃げの白い自動車(くるま)は塗膜片の螢光X線分析により特定されつ/真中朋久「うしろすがた」
→テレビでよくやってるやつですね。警察24時とかで、現場にのこった物を調べたり監視カメラを見たりして轢き逃げ犯をつかまえる。
それをただ言っただけ、といえばそれだけなんだけど、短歌にはめずらしい題材や言葉を無理くり突っ込んだのが面白かったです。



花の名を教へてをれば幼子は五メートルほど先に居りたり/花山多佳子



十代二十代特集

今年の塔の十代二十代は34人いるということで、多いなあと思ってたんですが、数えたら一昨年は31人、その前は29人なので、増え方はゆっくりです。ですが着実に伸びています。


教室に君とわたしと中沢の咀嚼音だけが響いてましたね/逢坂みずき「一人静」
→中沢は空気を読まないんでしょうね。二人の雰囲気にかまわず弁当を食べている。オレもわりとそういう生徒だったかも。三人だけだから給食ではないでしょう。
そんなこんなも、終わると思い出になります。「響いてましたね」がやさしいです。



側溝の蓋に小石が詰まってる こいびと以外もうなにもない/阿波野巧也「Life Is Party」
→上の句はよくある光景で、ありありと思い浮かべることができます。蓋は石から逃れられず、石は蓋から逃れられない。お互いが束縛しあっていて善くなる見通しがない。小さな絶望のかたちです。



ぼとぼと。と、バニラアイスは、溶けていく。あの子の方が、かわいいものね。/海老茶ちよ子「サイダー」
→多くの句読点が溶けていくバニラアイスを表現しています。溶けていくバニラアイスは、やるせない思いを表現しています。



適当に頼んでと言う先輩がスマホに触れた 宴はじまるよ/山口蓮「宴はじまるよ」
→現代の「宴」をよくあらわしています。「宴」という言葉のみやびさが浮いています。


カウンターで一人飲んでるおじさんが仲間になりたそうにこちらを見ている/山口蓮「宴はじまるよ」
→ドラクエですね。このおじさんは倒されたモンスターみたいなものかもしれません。仲間になれなかったような気がしてなりません。



風を押して風は吹き来る牛たちのどの顔も暗き舌をしまえり/大森静佳「風紋」
→風と風の関係は見えないし、牛の舌もしまってあるから見えない。見えないものに見えないものを接続しています。目では見えないものを他のところで感じとる短歌。

以上が塔の十代二十代特集からの歌でした。山口蓮さんが特におもしろかったです。今後気にしていきたいとおもいます。
塔10月号はこれでおわり。



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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