角川「短歌」2016年11月号を読む  ●第62回角川短歌賞発表


一か月おくれの角川「短歌」2016年11月号をやっていきます。
角川短歌賞の発表号です。



あの影は若者だろうがらがらの電車の中で立っているから/穂村弘「熱い犬」

たぶんもう海に入れぬ岡井氏の歌が最高得票となる/穂村弘「熱い犬」

→若さとは・老いとは、ということで二首抜いてみました。電車の中の影を見ているのは、電車の外でなおかつある程度距離のある場所にいる人なのでしょう。人の少ない空間に立つ影のような若者。

後の歌では、票を競う歌会に、海に入れるかどうかという別の物差しがあてがわれる。
海に入れるのか入れないのか、それはある日突然入れなくなるのではなく、長い間入らないでいるうちにだんだんそうなっていく。
オレはいまは入れる側にいるつもりだけど実際には全然入らないし、もしかしたら入らないまま終わってしまう。そう思うと、海って遠い。

食べ物、歌人、海、蝉、いくつかのテーマがくりかえし出てくる。なにもかもがおわりへ向かって動いてゆくようなさびしさがある。たとえば、蝉の歌だけ追いかけるなどしてみたときに。



大きな襟のジャケットゆゑかいつまでも女性議員に共感できず/梅内美華子「山羊カフェ小鳥カフェ」







角川短歌賞。


木の床を君のなみだが濡らした日 六十センチ水槽を買う/佐佐木定綱「魚は机を濡らす」

食ったことないけど作ってみるもののできているのかわからぬロコモコ/佐佐木定綱「魚は机を濡らす」

まずはこういう歌に丸した。思ったより楽しめた。オレより絶対うまいというのが読んでいてわかったので良かった。
なんかばっちいんだけどさ。ばっちくても読ませるなあと。
涙のために買ったかのような水槽。響きからして得体のしれないロコモコ。オレは食べたけど思い出せない。



アンコールでみんな出てくるこれまでに出会ったコンビニ店員たちが/竹中優子「輪をつくる」

音楽室ひとりで歌う順番が回って小柴くんのうら声/竹中優子「輪をつくる」

→一首目、「人生は劇場」みたいなことか。コンビニ店員の顔ってどれだけ思い出せるだろう。思い浮かべると不思議な図だ。
二首目、こういう歌は前にもツイートしたけど、また丸したってことは好きなシチュエーションなんだな。

ひな鳥が餌を欲しがるようにして歌う湧井のデカい学ラン/武田穂佳「見切られた桃」



佳作から。
レクイエム(それもフォーレのコルボ盤)かけて無人の酒場はないか/滝本賢太郎「蛸を洗ふ」
→よくわかってらっしゃる、という気持ちで丸つけた。落ち着いてよく見ると、みるみる条件が厳しくなり不可能に近づいていくのがわかる。それを求める心境を思う。

美学学会会場案内図の看板あまり喋らぬ女と運ぶ/滝本賢太郎「蛸を洗ふ」
→漢字の多さ、それも「学」と「会」の重複のくどさが喋らぬ女と対照的だ。「美学学会」を初句とすればわりとすんなり読める。



恵比寿駅のトイレの鏡に肩並べ隣の子より赤くなるリップ/カン・ハンナ「雲の中スピード出して」

ニッポンの朝はやさしい新聞を畳んで電車に読んでいる人/カン・ハンナ「雲の中スピード出して」

→小さなところにあらわれる日本と他の国の違いをおもしろく読んだ。一首目は「恵比寿駅」がいい。二首目はそれを「やさしい」と言い切ったのが新鮮だった。



座談会で引いてあるだけの作品からは取り上げない。
どれも面白そうだった。面白い人たちのなかにいるのだから、オレのも面白いのだろうと明るく思えた。

○がひとつで座談会で歌が引用されただけのオレとしては、
短歌研究みたいに、抜粋であってもページを割いてくれたらいいのにという思いはある。







なんだかもう七十歳の気分なり六十八歳と三日のわれは/馬場昭徳「六十八歳」
→初句「なんだかもう」がいい味だしている。老いの歌でもこういうのがあると面白いんじゃないか。
七十歳の気分と六十八歳と三日の気分の違いは、想像してみるのもむずかしい。似たようなものだろ、と思うがそれは今だからなのかも。

記憶より消えたるわれと消えぬわれをりて消えざるわれのはづかし/馬場昭徳「六十八歳」



こんなにも涼しき九月肺活量少なきわれが吹くハーモニカ/花山周子

暴風雨を自転車にくぐりゆくときを後部座席の子が笑いやまず/花山周子



嬉しきことのふたつもありし夕暮れにのぞきたりけり土管の穴を/田上起一郎



元カレを見つけてしまった球場で2アウト3塁のチャンス来たり/田代春香

→題詠「恋」から。元カレも気になるが、試合も面白いところだ。チャンスってことは応援してるチームが攻撃している場面だろう。








以上。

そんなわけで、あらためて言うと、オレの連作「ピンクの壁」が角川短歌賞の予選を通り、東直子さんから○をいただき、選考座談会に取り上げられました。選考委員の方たちにいろいろ言われています。何度も読みました。
うれしいけど、まだまだだなという気持ちも大きいです。
また挑戦したいと思います。
んじゃまた。






仙台文学館の穂村弘さんの講座に参加しました|mk7911|note(ノート)
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オレの11月のこまかーいまとめ|mk7911|note(ノート)
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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