佐藤佐太郎『茂吉秀歌 上巻』を読む  ~うつつなるほろびの迅さ、ほか

佐藤佐太郎『茂吉秀歌』の上巻。
岩波新書、720円。1978年に出た本のようです。

これは佐藤佐太郎が斎藤茂吉の短歌を「赤光」から順に解説していく本。上巻は「石泉」まで。

一首について1ページ前後の解説。その多くは茂吉による自解『作歌四十年』が参照されている。言葉の意味もかんたんに解説されていて助かる。



もみぢ照りあかるき中に我が心空しくなりてしまし居りけり/斎藤茂吉『赤光』



どんよりと空は曇りて居りしとき二たび空を見ざりけるかも/斎藤茂吉『赤光』



ものの行(ゆき)とどまらめやも山峽(やまかひ)の杉(すぎ)のたいぼくの寒(さむ)さのひびき/斎藤茂吉『あらたま』

→普段のオレなら立ち止まらない歌だが、「ものの行」が「万物流転」のことだとわかると、良いと思えてきた。このように茂吉は言葉に工夫を加えることをしたようで、この本を見るとそれが何度か書いてある。
「たいぼく」というひらがなへの開きかたは変わっているように見える。これも工夫なのだろう。他の歌の解説を見ると茂吉がそうしたことにも意識的であることがわかってくる。



うつつなるほろびの迅(はや)さひとたびは目(め)ざめし (かけ)もねむりたるらむ/斎藤茂吉『あらたま』
→この「うつつなるほろびの迅さ」は仏教思想からきているという。さっきの「万物流転」もだけど、思想が歌のなかに入ってくる。
「叙情詩としての短歌は、直観が深く徹底すればおのずから思想的になるのである」
と佐太郎が書いている。



電燈(でんとう)の光(ひかり)とどかぬ宵(よひ)やみのひくき空(そら)より蛾(が)はとびて来(き)つ/斎藤茂吉『あらたま』



あそぶごと雲のうごける夕まぐれ近やま暗(くら)く遠(とほ)やま明(あか)し/斎藤茂吉『つゆじも』



くれなゐのしづかなる雲線(すぢ)なして暮れむかむとす印度(いんど)の海は/斎藤茂吉『遍歴』



なにがなし心おそれて居たりけり雨にしめれる畳のうへに/斎藤茂吉『ともしび』

→このあたりは病院の全焼の時期で、解説もそれにむすびつけられている。そう言われてみると、そうした経験がふとした不安をつれてくることもあるような気がする。
「雨にしめれる畳のうへに」はとてもしっくりくる。わかる、と言いたくなる。



おのづから寂(さび)しくもあるかゆふぐれて雲は大きく谿にしづみぬ/斎藤茂吉『ともしび』



もえいでて未(ま)だやはらかく広(ひろ)き葉(は)も細葉(ほそは)もなべてひるがへりけり/斎藤茂吉『たかはら』

→葉っぱのことだけしか言ってない。そして映像が浮かんでくるし生き生きしていていい。



ゆふぐれの薄明(うすあかり)にも雪のまの土(つち)くろぐろし冴(さ)えかへりつつ/斎藤茂吉『石泉』
→ゆうぐれの歌を多く引いている。オレもゆうぐれが好きなんだなあ。
「雪の白さをいわないで、土の黒さをいったのがこの歌の新しさであり、切実さである」と佐太郎が書いている。
「くろぐろし」と黒を重ねているのだからかなり黒い。



時(とき)のまのありのままなる楽しみか畳のうへにわれは背(せ)のびす/斎藤茂吉『石泉』
→背伸びが歌になるのかと驚く。考えたこともない。うーんと背伸びをする、それを「楽しみ」という。たしかに気持ちいいけど、楽しみとまでは考えたこともない。
あるのに見えてないこと、それが見えてる人がいること。

オレはけっこう、なんでも歌にしてやろうしてやろうと思って暮らしている。それだけに、そんな近くに見落としがあることにショックを受ける。いかに見えていないか、感じとれていないか。
しかしまあ、ここはオレがどうというより、茂吉をほめればいいところだ。



以上、『茂吉秀歌』上巻。







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工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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