『未来』2016年9月号を読む  ~ケーキではなくてケイクよ、ほか

未来 2016年9月号。776号。
一度一ヶ月遅れになるとなかなか追いつけないなあ。


箸置きのかたちさまざまテーブルに箸置きおかれ箸がくるなり/大島史洋



チョコボールフロアに落ちてそれだけの真昼大統領の黙祷/加藤治郎

黙とうのとうの字が出ない……
→チョコボールがフロアに落ちる、ささやかな動きがしずけさを引き立てている。
オバマ大統領の顔がチョコボールなのかとも思った。


水弾く力が葉っぱにあるらしく本当の力は目に見え難し/中川佐和子


カバディをはじめた頃の妻のごとし躁状態のテリアを洗う/中沢直人


プラグは全部真横からだけ差し込んでみんな私の言うことを聞いて/佐藤理江

→なにか混乱した場所でリーダーシップをとっている場面だ。プラグの差し込み方を指導するよくわからなさがよかった。みんな思い思いの角度でプラグを差し込んでいるというのか。


ぎゅるぎゅると換気扇鳴り佐藤家の夜を外へと押し出しており/佐藤羽美


家族だから くるしい声を出さないで馬鈴薯を鍋ごとゆさぶって/村上きわみ

→馬鈴薯と鍋が、もっと深刻なもののように感じられる。重い病をもった人であるとか。はりつめた歌。


ケーキではなくてケイクよ私の知らないひとが教えたらしい/中込有美
→ケーキをケイクを呼ぶ、そういうところから「わたしはあなたとは違うのよ感」はにじみでる。単語ひとつでここまで人が遠くに離れてしまうとは。


一、二、三……顔を覆つてゐるうちにみんなとほくへいつてしまつた/小林千恵
→それが当たり前のかくれんぼなんだが、こんなふうに言われるとひどく寂しくなってくる。旧かなの効果もあろうか。


あっ、床に落ちた硬貨が五十円玉か百円玉か知らない/三輪晃
→もし拾おうとしたときに五十円玉と百円玉が落ちていたら、一体どうしたらいいのだ! と、まだ何も起こっていないが先回りして不安になる。
そこに50円か100円が落ちているのを見つけたとして、それがほんとに自分のものかはわからない。わからないまま拾うのか、選択を迫られる。
あるいはこれは象徴で、こんなふうに毎日なにかわからぬものを失いながら人は生きると。

なにを失ったのかわからなかったら、なにを得れば元通りなのかもずっとわからないままなわけで、うーん、この取り返しのつかなさ、むずがゆさ。


再生と逆再生を繰り返すそんな動きでさがす失せ物/中田美喜
→探してる動きがビデオに例えられる。自分の動きだとしたら、かなり客観的に把握している。見えないはずのものを鋭くとらえる力がある。そういうのも観察力と呼んでいいものか。


クイックルワイパーすれば見事だよまんまと明るい午前休みは/榊原紘
→クイックルワイパーって面白い響きだよな。
「見事だよ」に省略がある。見事にきれいになった、とおぎなって読めば普通だが、言わないところにふくらみができる。「まんまと」が面白い。何かに騙されたみたいだ。
あんまりかんたんにきれいになったので疑いの気持ちが出てきたんだろうか、とか、クイックルワイパーというクセのある響きが「まんまと」と反応を起こすのだろうか、とか考えていた。







『未来』に載ったオレの短歌のまとめはこちら。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501


んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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