杉谷麻衣『青を泳ぐ。』を読む  ~窓を砕いて額縁に、ほか

杉谷麻衣さんの歌集『青を泳ぐ。』は新鋭短歌シリーズの一冊であります。
正直を言いまして、全然知らない人です。オレは最初にそのへんの情報を得るところから始めました。

あとがきによれば2008年にはすでに短歌をつくっているようです。別の名前でも作っているそうですが、なんという名前かは明かされません。そういうことは隠さないでほしい。書いてあれば知ってる人だということがわかるかもしれないのに。調べました。
ツイッターをさかのぼって読みましたが「かざなぎりん」さんとおっしゃるんですね。

漢字で「風渚凛」とも名乗ってますし、「Rin」という名前でも活動してらして、短歌を流しているbotもありました。フォロワー36人の。
鳥歌会やうたの日、うたつかいなどでやってらっしゃるようです。







そこで歌集なんですが、あんまりいいと思えませんでした。ずっとこの歌集のことをどう言えばよいだろうと思っていました。言いがかりや悪口みたいにならない言い方ができるだろうかと。また敵を増やすんだろうなと。

できなかったならそれはもうしょうがなくて、「悪口を言う人」としてこれからも考えながら続けていくだけでありますし、その結果が今のオレであります。

オレは良いと思わない歌にはこちらからは近づかないようにしてきましたし語らないようにしてます。2012年ごろには、求められないのに近づいていってそうした歌に甘いとか下手とかコメントして敵を作ったものです。過去のことです。

もうこちらからは行きませんが、向こうからお越しくださった場合については無視はしないようにしています。

こういうのは短歌観のぶつかり合い、と言って悪ければ一種のすりあわせであります。オレに楽しめるもの、オレに見えるものなんてわずかなものです。
オレのたのしめる範囲があって、作者のつくる歌があって、それが重なれば良い歌と思えます。今回はほとんど重なりません。


オレの好みはもっと「実」寄りなんだろうな。嘘でも、ほんとっぽく感じられる嘘を好む。この方はもっと「想像」に寄っている(ご本人が「想像」とおっしゃる)。オレから見ると「ウソばっかりじゃん」という感想になる。
鍵かっこのついた歌には「絶対言わないでしょ」という感想をもつ。

こういうことを言うと「ほんとにあったんです」みたいに言われることがある。キレ気味でそう言われたこともあるんだけど、本当でも嘘くさいものは嘘くさい。「嘘くさい」の「嘘」ではなくて「くさい」の問題。
で、嗅覚に関しては、その人が普段どんなものを嗅ぎながら生きているかで違うんです。自分の部屋は臭くないが、よその家は臭いと感じることがある。







一例をあげます。
たとえば冒頭の歌は特に苦手な歌です。

空の絵を描けといわれて窓という窓を砕いて額縁にする/杉谷麻衣『青を泳ぐ。』

「空の絵を描け」って言われますか? オレは言われたことないけど、そういう美術の授業や部活動があるんですか。あるとしましょう。
砕くというのは窓を割るってことですか? ってことは、とつぜん暴れだす感じですかね。窓という窓を砕くまえに、そばの人から止められるでしょ。

それに、どうやって砕くんですか。イーゼルでも振り上げてるんですか。砕かなくても額縁に見ようとすれば見えますよね。砕いてもそう簡単にきれいには割れません。

まあおそらくこれは、自分のなかでイメージで砕いたってところでしょうね。そうは書かれていませんけど、でもこれの次の歌で絵の具出してますから、実行してない、暴れてないとわかります。
「窓を砕いて額縁にする」ってことは、砕かれた窓が額縁になってるんですよね。空をガラスが四角く縁取っている。そんなイメージを綺麗だと思えればよいんでしょう。


空の絵を描け、で窓ガラス割るんなら、じゃあ街の絵ならどうするんだろう。お茶をいれてと言われたら何を、ちょっとそれとってと言われたらどんな暴力に及ぶんだろう。それがオレの想像です。


ですが、歌を連作単位で見ると評価がかわるんです。学校の要素と絵の要素、閉塞感の要素はその後の歌に響いてきます。連作の最初に、主題を見せつつ、目をひくようなことをして次を読ませるための歌を置く。そんな連作的な操作を感じました。

ちょっと手のひら返しましたが、オレは数年前よりも慎重になりましたし、言い方を変えれば臆病にもなったのです。







良いと思った歌をあげます。


まっさおな空を砕いたジグソーを深夜ひとりで組み立てている/杉谷麻衣『青を泳ぐ。』
→これなら受け入れられるということで挙げます。これだったら状況がよくわかりますし、まっさおな空とひとりの深夜のコントラストに感じられるものがあります。


保健室の南のまどからだけ見える三時間目の海が好きです/杉谷麻衣『青を泳ぐ。』
→そこからしか見えないというのが発見ですし、また海の遠さを思わせます。「三時間目の海」は良いです。学校の定める時間と、広い広い海。狭いものと広いものを置くと互いが引き立つ。


せまき道を影をかさねて歩くとき背を向けてばかりのきみの声/杉谷麻衣『青を泳ぐ。』
→車椅子の「きみ」が出てくる一連「ロド」から引きました。これはほんとっぽさを感じます。車椅子であるがゆえの感覚といいましょうか、影はかさなっているけど背を向けられている。微妙な気持ちを捉えているのではないでしょうか。



流星のような一瞬 送信を終えて止まった画面見ている/杉谷麻衣『青を泳ぐ。』
→メールを送ったときにそういう感覚になりますね。あるある。「一瞬」のあとに一字空けているのが効果的。




最後に、YouTubeでみつけたPVを置いておきます。

"杉谷麻衣 第一歌集「青を泳ぐ。」【新鋭短歌シリーズ30】"
https://t.co/Fup85KuLW9



今回はこんな感じで。
んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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