いなにわ・せきしろ『偶然短歌』を読む  ~およびシベリア、ほか

「偶然短歌」

プログラマーの著者「いなにわ」さんと、選をして文章を書いている「せきしろ」さんによる本。
飛鳥新社。1111円+税。

あんまり褒められているのを見たことがない本で、しかしオレには面白かったです。

売れてるのかなと思ってツイッターで検索するも、あんまり出てこない。Amazonのレビューは二件、星一つと星五つ。両極端な評価。

Wikipediaのなかの57577になっている部分をプログラムによって機械的に見つけ出し、それらをいなにわさんは「偶然短歌」と名付けた。
2015年のはじめごろに「偶然短歌bot」というツイッターのbotがあらわれ人気を集めた。
この本では100首ほど選ばれて短い鑑賞文がついている。


アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナ、中央アジア、およびシベリア #tanka
ウィキペディア日本語版「モロカン派」より
https://t.co/SHfOLLrlm9
という歌が最初にある。せきしろさんは、「私が初めて見た偶然短歌がこれであった」と書いている。オレもこれじゃないかな。かなり最初の方に出た歌だと思う。
本には、「短歌」のほかに引用元が書いてある。URLもある。

「およびシベリア」でツイッターを検索してみたら、出るわ出るわ、この歌を草生やしながら引用する人、感動している人、パクってるらしきアカウントなどたくさん出てきて、偶然短歌の熱狂的な迎えられっぷりを目の当たりにすることとなった。
「および」の部分に人間味を感じずにいられないというせきしろさんのコメントで、なるほどと思った。プログラムが取り出した短歌なんだけど、そこにある人間味が評価されている。

こういう歌の良さは考えるほどわからなくなる気がする。初めてぱっと見た時のおどろき、そこがピークなのではないか。
この後、こういう羅列の短歌がたくさん出てきて、衝撃は薄められてゆく。


鳥類のインフルエンザウイルスに加えてブタのインフルエンザ/偶然短歌 「抗原不連続変異」
この歌はどうやら偶然短歌botがツイートしたことがない。
「踏んだり蹴ったり感が凄い!」というコメントを見ておもしろみに気づいた。
添えられているせきしろさんのコメントが良くって、これを見ると面白くなるっていうことが何回かあった。


教育が子供に徐々に適切な排便を身に付けさせていく/偶然短歌「肛門期」
→これもbotでつぶやかれてないようだ。この本の短歌はbotからとってるのかと思ってたらそんなことはないようだ。
よくよく見ると、この本のどこにも一度もbotのことは書かれていない。偶然短歌botの存在は無いことになっている?

この教育の短歌は、あまり光のあたらない部分に光をあてたのが良い。学問ばかりが教育ではないのだ。
「教育が」の「が」が良い。
結句の「付けさせていく」はアクセントの位置がなんか変で、ボーカロイドの変な抑揚を聞いてるみたいだ。


残らない場合があるし、一方で、化学反応、火山活動/偶然短歌「初期のヒト属による火の利用」
→この短歌が韻を踏んでるのに気づいたせきしろさんは、よく見てるなあと思った。




念仏で救済される喜びに衣服もはだけ激しく踊り #tanka
ウィキペディア日本語版「盆踊り」より http://t.co/HzQzo09RTi

→これは「盆踊り」から想像するものと、書いてあることの差の大きさがすごい。
オレの知らない激しい盆踊りがある。
これはタイトル(項目名)込みで味わうタイプの歌だ。中には、前後の文章も合わせて読んで面白くなるような歌もあるようだ。

そういうピントの合わせ方がいろいろなんだよな。57577だけで読むか、項目名も合わせて読むか、引用元まで飛ぶのか。
できれば引用元までいきたくないなあ。でも気になりすぎて見に行ったこともある。


モンゴルの伝統的な遊び方、スタンプラリー、写真展など/偶然短歌「ハワリンバヤル」
→これはそういう、引用元まで見に行っちゃった歌。スタンプラリーや写真展がほんとにモンゴルの伝統的な遊びなのかと。見たらもちろんそうではなかった。
切り取り方によってとても紛らわしいことになっている。紛らわしさが面白さにつながった。


霊的な恐怖に耐える、日本の伝統的なゲームの一種/偶然短歌「肝試し」
→これは引用元がネタばらしみたいになっている。見ると納得するが、でも納得しきれないものが残って、その残る部分がこの歌の味わいなのだと思う。
「霊的な恐怖」って耳慣れないし、「ゲーム」ってほどゲームっぽくもないなあ、などと。


大好きで毎日苺成分を摂取しないと生きていけない #tanka
ウィキペディア日本語版「鈴木まりえ」より
https://t.co/5mZwqTBlpp
→「大好き」ではじまって「生きていけない」で終わる。
大好きなことは、すなわちそれがないと生きていけなくなることなのか。そうだとも思うし、そんなことないとも思う。苺成分くらいだったらなくても生きていけるんじゃないか。だめなのか。「くらい」なんて言っちゃダメか。


バック宙、高台からのバック宙、壁宙などを披露しており #tanka
ウィキペディア日本語版「東山紀之」より
http://t.co/CH9qZUJsJl
→偶然短歌の最初のころの歌で、躍動感がすごくていい歌だ。「しており」が短歌っ着地だ。


ある道を右に曲がれば東大で、まっすぐ行けば公園なのね #tanka
ウィキペディア日本語版「マッスル北村」より
https://t.co/oBstJDJLUA
→「なのね」が珍しい終わり方。
この歌は「人生の岐路」をさしているとせきしろさんが読んでいて、この読みは素晴らしい。東大へつづく人生、公園へつづく人生。


泣き言や空想ばかり書いているジャーナリストの連中が何/偶然短歌「リシャルト・カプシチンスキ」
→オレもこんな気持ちを持って生きていきたいと思った。ジャーナリストのところを「2ちゃんねらー」に変えるなどして。
それにしても、大勢が見るようなメディアで批判されるってそうとうしんどいだろうな。有名になったって同じ人間なのに。


地域では「メンチビーム」で倒しても「喧嘩慣れ度」は上昇しない #tanka
ウィキペディア日本語版「喧嘩番長」より
http://t.co/gE1i7oWWIj
→これについてはオレは元ネタを知らない。知らないなりに、喧嘩にまつわるものをゲーム化したんだなということはわかる。そのネーミングのいちいちに「世界にはいろんな人がいるんだな」と感じる。喧嘩好きとゲーム好きの両立は難しいように思うが、こうした現実がある。


キャラメルをおいしく食べる!大衆はそれにつられてキャラメルを買う #tanka
ウィキペディア日本語版「巨人と玩具」より
http://t.co/iPtwXYQR2v
→キャラメルをめぐってあやつられる大衆についての歌だが、「!」のせいで頭悪そうに見える。


「野球より大事なものは、世の中に山ほどある」と説教される #tanka
ウィキペディア日本語版「オールド・ルーキー」より
http://t.co/eI4t2oMriH
→そりゃそうだけど、世の中のどんなことよりも野球を大事にしてきたからこういうことを言われるんだろうな。そこまで一つのことに打ち込めるのをうらやましく思う。


あとがきでせきしろさんがプログラムを「女性だと想像した」と書いているのに注目した。
タイトルを合わせて読んだり、引用元から意外な知識が得られることを楽しんだりと、57577以外の部分が偶然短歌を面白くしている。

「引用元を読んだら意外なことが書いてあっておもしろい、さすが偶然短歌」という内容のことが何度も書かれてたけど、それは短歌関係ないでしょう。ランダムにWikipediaを読んでればいい話でしょう。
と思うが、Wikipediaのある項目への導入として31音がちょうどいいダイジェストの長さで、文章が途中で千切れるようなのがその前後を読みたくさせるというのはあるのかもしれないね。

人じゃなくてプログラムなのに、性別を持たされたり性格をつけられたりと、みるみるプログラムが人間的に味付けされていく。そのことを宿命のように感じながら読んだ。

人間がつくったと思うことで短歌は面白くなるのだろうな。だからプログラムが人間化される。短歌はコンピュータのものではなく人間のものなのだな。だけど偶然短歌には人間の作品には見たことないような面白さがあった。

短歌の雑誌の時評で、短歌を生成するプログラムのことが話題にあがることがあるが、どうなんでしょう。未来のことはわからないが想像したくなる。

「読み」が偶然短歌を面白くする一方で、57577以外の力の占める大きさを感じた一冊だった。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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