「未来」2016年8月号を読む  ~寸分もちがはぬ車、ほか

未来 2016年8月号。
これも一ヶ月おくれ。追いつきたい……。


芯といふものがあらずに伸びてゆく竹おそろしくまつすぐである/池田はるみ「梅雨入りのころ」


寸分もちがはぬ車が二台来る七十一年目の広島を/紺野万里

→このころオバマ大統領の広島訪問があり、それを題材にした歌がこの月には見られた。
要人の身を守るために二台の車が使われると聞くが、下の句と合わせるとなにか暗示的だ。


「ヒロシマ」の「ヒ」が聞こえない響きよきオバマの声を巻き戻しつつ/飯沼鮎子
→とても強い関心をもってオバマのスピーチを聞いているのがわかる。
ヒロシマの発音、声音まで聞いているし、巻き戻して複数回聞いている。


カザルスのバッハ流れてしばらくは己の惨も夕光の色/さいかち真
→たまには無伴奏チェロ組曲でも聴こうかなって気分になる。
しばらくの間でも人生が美しい色になるならば、けっこうなことじゃありませんか。


続巻のなかなか出ないコミックの六巻が斜めッてゐるなり/田中槐「不可動となる」
→「斜めッてゐるなり」の口語と文語の混合、旧かなづかいとカタカナの混合に驚いたのと、オレにも六巻で止まった好きな漫画があるので丸した。


生前の父の口癖思ひ出づ キヅハアサイゾシツカリシロ/中川宏子「本と薬」
→これ読んで驚いた。「傷は浅いぞ」が口癖だった人がいたのを思い出したから。小学3-4年のころの担任の先生。


その先を知りつつ読める虐待の記録いいからもう死んで早く/吉野亜矢


くちびるといふもの犬にはなきやうに思ふ猫にはうつすらありさう/木下こう「鈴」

→猫飼ってるのに思い出せないなあ。「うつすらありさう」とオレも思う。
確かめず想像だけで言ってるのがなんかいいな。記憶や想像のなかのくちびる。


心配ごとばかりしてゐし なにごとも起こらぬままに母は死にたり/弘田ちゑ子「升麻」




また踏んでしまったみたいで、あんこのようにでてくる内容物えげつない

絶交を全力でする。わたしが踏みつけたのはたかが自尊心だよ
/野樹かずみ「絶交」

→十首のうちの二首目と九首目。
踏んでしまうようなところに自尊心があり、踏むと内容物がでてくる。「あんこのようにでてくる」「内容物」「えげつない」と、汚さが強調される。


コーンスープと水平線が平行であること生きてゆくことみたいに/白井健康「いいね」


前職は。まあいろいろと。いろいろとあったのだろうカーテン揺れず。/しおみまき「バイトでチーフ」

→きかれたくないことをきかれると「まあいろいろと」なんて言ってごまかしたくなる。「いろいろとあったのだろう」とこの人は理解がある。
「カーテン揺れず」がおもしろいけどこれはなんだろう。屋外など他のものに注意を向けようとしても向けきれない閉塞感を見た。


どの写真も犬のしっぽがぶれていて時々全部全部がぶれる/森本直樹
→あんまり犬のことは知らないけど、機嫌がいいときに犬は尻尾を振るんでしょう。ご機嫌なんだね。しかも動き回る。元気いっぱいだ。
「時々」「全部全部」は言葉が重なっていて、これ自体が一種の「ぶれ」だ。


浴室で痣を見つける 先輩は今も誰かを見下しますか/新原繭


「きゅうじゅっさいヨ」の声大きくなっている気がする特に「さいヨ」らへんが/ふかたにふみこ

→90、の部分がポイントのはずだが「さいヨ」のほうが大きくなっている。カタカナになっている「ヨ」も気になるし。このあたりに言葉の意味とは別に込められたエネルギーがあるのだ。


本名のことを最近知ったけど今後も君を愛と呼びます/本条恵
→愛は本名じゃなかったのか。オレはまだまだ真実の愛を知らない、ってわけだな。


飽くという語より始まるねこの辞書あないかにせむ今夜の餌を/沼谷香澄「題詠100★2016改」
→ねこに辞書があるとは思いもしなかった。あいうえお順なのかな。
いつものキャットフードに飽きちゃったんだね。うちはスーパーの一番安いやつとコンビニの一番安いやつとを交互にあげてる。


はがき一枚書きあぐねたる昼下がりキウイの味を思ひ出せない/山中綾子「春昼」
→キウイの味のことをはがきに書こうとしているのかもしれないが、取り合わせのおもしろさに引き付けられた。
試しにキウイの味を思い出してみたくなる。オレは今思い出せた。



今月の歌は以上。評のページから二首。

編み棒をさがしにいつていつまでも戻らない大気圏は広い/多田愛弓

フリージアのつぼみと夜の街灯は昔別れた兄妹なのだ/岩本芳子








以上。
オレの歌はここから読める。
「未来」の短歌まとめ
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501



宣伝
高校入学時に書いた自叙伝|note(ノート)https://t.co/YZjYK2jsq7
有料マガジンを更新しました。「工藤の有料マガジン」は500円ですべての記事が読めます。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR