「未来」2016年7月号を読む  ~叶うぜ、ほか

「未来」2016年7月号。一ヶ月おくれ。



雨雲の上に夕陽のみなぎりて静かなるかな吾の飛行機/大島史洋


傘の柄の冷たきを握る逢い見てののちのこころを君も持つべし/吉野亜矢

→「逢い見て」というと百人一首のなかの歌がイメージされます。
傘の柄、ということは雨が降っています。冷たい柄をにぎる感覚が「逢い見てののちのこころ」に通じるのでしょう。


花ふぶきとめどなく吹き信号を待つひといささか美しう見す/酒向明美


夢のままなみだぐむ夜テーブルのバナナきいろくちからなくある/木下こう「ゐない人」

→ちからのないバナナが現実世界に置かれています。きっとなみだのような水分もみずみずしさもないのでしょう。
かなしい? 夢とくたびれた現実のある夜です。


詳しくはあすの折込チラシにと告げて夕日は湖(うみ)へと沈む/佐藤羽美
→テレビでよく聞く決まり文句がつかわれています。チラシはどんなものだろうとか、なぜ夕日がそんなことを言うんだろうとか考えてもわかりません。
前半と後半を見た時に、現代をとりまく環境のいやらしいつまらない部分が際立って見えます。


防弾車の窓打つ雨の音を聞く 鈍く鈍く響く雨の音を/堀合昇平「ブレーキランプ」


優しさは売り切れましたはしっこで目を閉じ座る帰りの電車/小川けいと

→「お昼休み」の歌と「オフィス街」の歌にはさまれています。仕事からの帰りの電車でしょう。
優しくするだけの力もなくなった疲労の様子がつたわってきます。


板の間を水拭きしたる清しさにけふ一日は持ちこたへらる/堀伊希子「雨あがる」


あなたと張ったテントはとても美しく最初のうちは雨をはじいた/斉木ギニ

→三月号のアンソロジーから。
だんだん雨をはじかなくなっていったのを思うと、人と人とのある種の関係もそうなのかもしれないと思います。
それでも雨をはじいた頃のことを思い返しています。


カセットテープはしばらく無音で「さあ、リウマチ体操をはじめましょう!」/小川窓子
→カセットテープって最初と最後は数秒無音の部分があるんですよね。その無音のところまで聞いたのがよいと思いました。
黙ってるのに突然ハイテンションになったようで、ヘンテコさがあります。前置きがなくて「さあ」からさっそく始まるのが単刀直入ですね。


ありとあらゆる部分を使い自販機のボタン同時に押せよ 叶うぜ/小坂井大輔
→自販機には飲み物を選択するボタンがたくさんあります。とても普通にすべて押すことできません。これは肘でも使って押すのでしょうか。それとももっと思いもよらぬ体の張りかたがあるのでしょうか。
一字空けてからの「叶うぜ」は迫力があり、マジで叶いそうですね。でも、何が叶うのでしょう。
どこにでもある自販機がなにかの可能性をひらくのだとすると、ワクワクします。「叶うぜ」は叶えた男の凄味ですね。


金網をはげしく揺する無数の手 その中のひときわ小さい手/三輪晃


パナップをもうぐちゃぐちゃにかき混ぜて一色にしたら人生が終わった/伊藤犬笛

→これはさっきの自販機の歌とは逆で、ちょっとした行動がその後の人生の可能性すべてを奪い去るという歌です。
夢の叶う場所が思わぬ場所にあるならば、タブーもまた思わぬ場所にひそんでいるのかもしれませんね。


輪唱にうまく加わるみずうみも味塩こしょうもあかるい日々の/竹中優子
→輪唱というとカエルの歌や静かな湖畔くらいしかすぐには思い付かないオレであります。
充実した日々の描写なのでしょう。まわりのものが明るく見えて、みんなとの関係もうまくやれている。
それを言うためにどんな具体を選択するか、というところにセンスが出るのでしょう。



評のページからも少し。

クレーン車が窓いつぱいに現はれて十階のわれを誘ひに来たり/堀田幸子
→窓に誰かがあらわれると、友達が遊びに誘いに来たとわかる。そんなことが子供のころにはあったなと思い出されます。
このクレーンもそんな感じで窓にあらわれたのでしょう。遊べる相手でも場所でもないのですけれども。


二ぐらむのぺんとはししか持てないと診断書に書いて下さい/里山麻子
→カタカナを避ける表記や字足らずが、無茶な内容のうえに息苦しさを持たせている。


あぶりだし思はすほどの余白ある賀状いただくうらおもて見る/織田三恵子







オレの『未来』の歌はこちらにまとまっています。
- NAVER まとめ http://nav.cx/bJngt5X



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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