虫武一俊『羽虫群』を読む  ~なんにもしたいことがないんだ、ほか

新鋭短歌シリーズのなかの、虫武一俊さんの歌集『羽虫群』のなかから、いくつか短歌を取り上げて何か言ったり言わなかったりします。


あと戻りできないフロアまで行ってそれでもすっぽかしたことがある/虫武一俊『羽虫群』
→よく、「マイナスにマイナスをかけるとプラスになる」なんて慰め方? があるけど、プラスにプラスをかけてマイナスにしているのがおもしろい。
あと戻りできないフロアまでよく勇気をもって行ったものだ。そして、よくそこからあと戻りできたものだ。


くれないの京阪特急過ぎゆきて なんにもしたいことがないんだ/虫武一俊『羽虫群』
→なんてストンとした下の句だろう。まっすぐ落ちてくる。
特急にエネルギーをみんな持ち去られてしまったかのようだ。一字空けが効果的。


防ぎようのなく垂れてくる鼻水のこういうふうに来る金はない/虫武一俊『羽虫群』
→前半は肉体的に覚えがあるし、後半のような働かず苦労せずして収入を得たい気持ちもとてもよくわかる。「ない」の言い切りに現実の厳しさがある。


唯一の男らしさが浴室の排水口を詰まらせている/虫武一俊『羽虫群』
→っていう歌、以前どこかで一首単位で見たときには、詰まってるのはなんだろうと謎が残っていた。だけども歌集だと、ラブホの歌→性欲の歌→この歌、という並びにあるから、謎が薄まった。


相聞歌からほど遠い人里のわけのわからん踊りを見ろよ/虫武一俊『羽虫群』
→田舎の踊りって、けっこう農作業とか漁をするときの動きが基になってるんじゃないかなあ。つまり、労働のうごき。オレはどじょうすくいの動きを想像しながらこれを書いている。
愛に関する歌がならんでいる一連なんだけど、やっぱり労働のことに帰ってきているんじゃないかと読んだ。


関係ないけどこれをときどき思い出す。バイトでの作業からわけのわからんポーズのギャグが生まれたという話。
「江頭2:50のダンスポーズ誕生秘話  エガちゃんは芸術的だ 」
https://t.co/1B5QtZXWCM



なで肩がこっちを責めていかり肩が空ろに笑う面接だった/虫武一俊『羽虫群』



肩甲骨だって翼の夢をみる あなたはなにをあざけりますか/虫武一俊『羽虫群』


「知ってた? 肩甲骨って人間が天使だったころの名残りなんだよ☆」
という内容の落書きを高校の机で見たことがある。
絶対そんなわけないとオレの先輩は言ってた。



まだ長い間奏の途中なんだからアンコールって言うな 帰るな/虫武一俊『羽虫群』
→学校を終えてから働くまでに間が空いてて、それを音楽でいう間奏に例えていると。
人前で歌ったり演奏したりすると、客席のこういう反応はとても気になるものだ。
お客さんの自由気ままなさまが、ちょっと笑える。


こんなところで裸足になってしまうから自分のこともわからないのだ/虫武一俊『羽虫群』
→しかりつけているような口調だけど、内容がそれっぽくないのがおもしろいと思った。これの前の歌からすると、裸足になるというのは調子に乗る・ハメをはずすことのようだ。


印をつけた歌は以上。終盤に印がすくなくなったのは、歌が悪いのではなくて、オレが主人公の不幸を望んだ結果だろう。でも、だからといって序盤みたいな歌が最後まで続いていたら退屈したにちがいない。





読み終わってから「飴姉さん」がいなかったことが急に気になって、歌集に入らなかった歌にはどんなのがあったかと、自分のツイログを見たりもした。

裏山にぎんいろのふね降りてくる わたしはわたしをやめられますか/虫武一俊

からんころんさっき遊んでくれていた飴姉さんがどこにもいない/虫武一俊




よい歌集でした。








オレがこの方を知ったのは2012年春、笹短歌ドットコム http://www.sasatanka.com/s/ の過去ログを読み返していたころだ。

「うたらばブログパーツ」にしても、
「ダ・ヴィンチ」にしても、
「うたつかい」にしても、
いく先々にこの方のすぐれた歌があった。
「うたう★クラブ」や「日経歌壇」は、オレが投稿しはじめてすぐに姿が見えなくなったので、すれ違いになった形だ。

「夜はぷちぷちケータイ短歌」、「短歌道」にもいらっしゃったようだ。
笹短歌、夜ぷち、短歌道の三つは、ちょうどオレが短歌をはじめたころに終わりを迎えていて、リアルタイムではほぼ体験してない。
オレとむしたけさんは短歌をはじめた年が三年ちがうんだけど、三年ずれると、投稿だけでこれくらい経験に差がでる。



こっちからはバチバチと見ていた時期もあったけど、このように歌集という形になってみると、ついにこの方も「あちら側」に行ったのだなあと思う。

知ってる方たちがどんどん「あちら側」に行く。誰か本を出したと聞くたびに、焦り半分、しみじみ半分の思いがする。




おわります。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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