「未来」2016年6月号を読む  ~五人囃子は前衛となる、ほか

未来 2016年6月号

もう7月号が出ていて古いんだけど、6月号の印象に残った歌を引いていきます。



自分から「居(ゐ)ない」と言へよしからずば数(かず)に入れられちまふ 晩春だ/岡井隆「夢の岸べに」


爬虫類を飼いたいという職員がリハビリの身を支えてくれる/伊吹純

→ある程度親しくなった職員にならば、安心してリハビリできるでしょうね。職員の人間性が見えてきます。


葬儀場予約したれば前通るたびに眺むるバスの窓より/中村八洲夫
→予約すると死がいっそう近くなるのではないでしょうか。想像ですけど。
直接ではなくバスの窓越しに見ている距離感がいいですね。


行き先は百も承知と音たててがらがらと海に入りゆく錨/前川明人
→考えてみれば、錨(いかり)って、海中に沈んでるのが仕事なんですよね。はりきって入ってゆく様子がユーモラスです。


出来なくて追いつめられてゆく心父に見ていま春の子に見る/佐伯裕子



満開の下でみているテニスコート二面それぞれラリー続かぬ/さいとうなおこ

→続かないラリーに、長きにわたって咲いて散ってを繰り返してきた桜が対比されています。
というふうにまで読まなくても、春に下手なテニスを見ているのどかなひととき、くらいに捉えておいてよいのかもしれません。


ラーメン、つけ麺、図太い面も見せつける謎の木彫りの目立ちたる冬/笹公人「SMAPと狩野英孝」
→狩野英孝の顔が木彫りの像に思えてきました。


木曜は燃えるゴミの日半透明のビニール袋に日記を入れる/嶺野恵
→袋に入れているわけですが、もうすでに燃えている日記帳が見えてきそうです。「木曜」の「木」のイメージなのか、よく燃えそうに思えます。半透明なので、袋に入れただけではまだ日記が見えているわけです。


雛段をバリアフリーにしてみたら五人囃子は前衛となる/松原未知子
→バリアフリーは、本来からだの不自由な人に優しいものですが、ここでは戦いの陣形のような不穏なイメージにつながっています。段をなくして平等になるどころか、より残酷な形になりました。


ひつこしの荷解きの時ウクレレをまづ探してるやうな人です/秋月祐一
→「やうな人です」で終わる歌による一連です。それぞれ変わった人物のスケッチです。ウクレレってところがおもしろいです。そんなに弾きたかったのか。


うちにいるだけの休日めずらしくめずらしがっているうち終わる/山科基
→わかります。



なにゆえにパジャマに柄はあるのかと思うようなる大いなる問い/小川佳世子『ゆきふる』


満杯のダストボックス駅に見ゆ報復はいつなさるるべきか/三輪晃

→ゴミ箱からゴミがあふれている光景を目にする機会があります。それは虐げられているように見えなくもありません。ゴミ箱が報復の時をうかがっているようにも読めます。



かくれんぼ ひとりぼっちになるための場所で最後はみつけてほしい/東こころ
→かくれんぼする子の心理をうまく言い当てています。
また、大人になってもこんな心理でいることがあります。たとえば恋愛の一つの場面、一つの心理であると読めます。



権力の小指あたりに我はゐてひねもす朱肉の朱に汚れをり/門脇篤史
→末端に居る者ばかりが汚れて中心にいる者たちは汚れないのが権力というわけです。
朱肉を血に重ねることは容易ですが、朱肉のままでも、その消えにくさや証として残っていくところなどから感じられるものがあります。


恐竜に触れたい、みたいな欲求がいつしかヒトを滅ぼすのだろう/本条恵
→一見無邪気で夢のあることのようだが、実は大事なものを破壊する行為……ってことかと考えました。


おしゃべりな気象予報士嫌いなり荒野に埋もるる青銅の打楽器/佐々木漕
→下の句で急に全然違うものが出てくるのがよいです。静けさのひとつの理想でしょうか。楽器であるけれども、鳴らされる気配がなくて静けさがあります。はるか遠い時代からこの楽器の素朴な音がしてくるようです。


その石を「待つた」にすれば生き返るそのやさしさに動けずにをり/長尾宏
→殺されたものが、一声かければ生き返るわけですからね。やさしいといえばこんなやさしいことはないですね。







歌は以上。



『未来』に載ったオレの短歌のまとめはこちら。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501


木下こうさんから評をいただいて、うれしい月でした。








最近の更新。


短歌結社誌「コスモス」2003年4月号を読んでみた : ▼存在しない何かへの憧れ https://t.co/oNuJBQHi95

欄ごとの人数や結社誌の構成について注目して書きました。


ふるわなかった歌【2】  ~原阿佐緒賞 https://t.co/UfhQfmI15M

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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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