洞田明子歌集『洞田』を読む  ~たしながらひきながらわりながら、ほか

洞田明子歌集「洞田」を読む。


これは染野太朗さんと吉岡太朗さんによるユニット「太朗」の募集により集まった、駅をテーマにした短歌をあつめて歌集にしたもの。配列や詞書が工夫されていて、そこがひとつのみどころになっている。

表紙のざらざら、「洞田明子」という見知らぬ名前、毛筆っぽい字体。誰から何がきたのか一瞬わからなくてドキドキした。知らないおばあさんの歌集でも届いたかと思った。

これは投稿歌で構成されているものの、洞田明子の歌集ということになっているので、以下の引用も洞田明子『洞田』からの歌とした紹介する。ほんとの作者については最後にまとめて書くことにしよう。


でも、自分の名字を歌集タイトルにしちゃうなんて、なかなか明子は堂々としたものだなあ。「工藤」みたいなありふれた名字では、とてもこうはいかない。オレより立派な工藤が多いから。「吉生」ならいけるかなあ。どうかなあ。



内側で突っ立っている白線の 向こうに落ちた「人間失格」/洞田明子『洞田』
→「人間失格」はちょっと出来すぎている気もするけど、オレはぎりぎり許容範囲だなあ。オレはこういう、出来すぎている歌にはやさしい方だと思う。歌会とかで他の人が「手つきが見える」って言ってるような歌を面白がる傾向がある。
「内側で突っ立っている」に飛び込んで死にたい気持ちがあらわれていると見た。「向こう」もいい。向かいのホームの下くらいの距離感か。


乗車しろ降車しろそうおまえたち後戻りなど許しはしない/洞田明子『洞田』
→混んでいる時って、無言のこういう圧力があるように思う。乗ったり降りたりする人の流れがあって、それに逆らうなんて許さないぞという、そういう圧力があるように思う。無言のものを言葉であらわしている。


かざされるたびにSuicaは思い出す印籠だった前世のことを/洞田明子『洞田』
→前世のほうがよかったと思ってるんじゃないだろうか。威力も大きいし、ここぞという良い場面で出てくるし。


ぬばたまの夜が撒きたる吐瀉物を鳩(偶数)がついばむ朝/洞田明子『洞田』
→(偶数)から連想されるものがある。家族やカップルなのではなかろうかと。


おれはおれの、おまえはおまえの喪に服す 切符を裏返しにいれてみる/洞田明子『洞田』
→切符を裏返しに入れるといきなりバターンってなって入れなくなる。そんなことをわざとやるのは、危ない。どこにも行けない感じは上の句からも感じられた。


責任を逃してしまい五分後の責任を待っているホームで/洞田明子『洞田』
→電車が責任と言い替えられているのが不思議で面白い。
この歌集の構成によって、前の歌に「就職」という詞書があり、そういった種類の責任かと思われる。



二個前の駅からきみが訛り出す 静岡は横に長いね だらあ/洞田明子『洞田』



遮断機のふたつ互ひに灯る赤(お母さんから逃れられない)/洞田明子『洞田』

→たとえば信号ならば灯った位置によって進めたり止まったりするが、遮断機のランプの赤いのはどっちにしても赤で進めない。あっちもだめ、こっちもだめ。
通せんぼのうえにうるささもあり、いやなお母さんに通じるものがある。


裁判所からの帰りに吊革をゆびよんほんに握りて母は/洞田明子『洞田』
→ひらがなにされている「ゆびよんほん」にポイントがありそうだ。なんの裁判か、どんなだったか、良いのか悪いのか、いっさいわからないがどことなくいつも通りではない「ゆびよんほん」だ。


四桁の切符の数字たしながらひきながらわりながらなほ待つ/洞田明子『洞田』
→これもひらがなになっている部分がある。ひらがなになると読むのに少し時間がかかるようになり、それによって得られる効果がある。
足して引いて割るけど、掛けることはない。かけ算になると厳しいんだよな。そこにほんとっぽさを感じた。



以上10首引きました。作者は、片塩宏朗さん、小川けいとさん、荻森美帆さん、本多真弓さん、濱田友郎さん、橋爪志保さん、スズキロクさん、久我都子さん、石切僚香さん、千住四季さんでした。
けっこう知らない方がいる。







なんかこの本についてはいろいろ言われてるんだけど、オレは面白い歌を指さすことに徹していたい。それ以上のことについては少し離れて見ていたい。
……とはいうものの、やはり何も言わないのも変か。

最初にも書いたけど、この歌集は個々の歌のおもしろさの他に、編集のおもしろさがある。さまざまな歌を一冊にまとめるための工夫がうかがわれる。章の構成だったり、戸綿君といったサブキャラだったり、地理的なことであったり、詞書などだ。

もちろんこれだけ駅の歌ばかりで作風がバラバラなのは、ほんとの個人の歌集ではありえない。ありえないけど、なるべくありえるように工夫したのがおもしろい。それでもやっぱり多少の無理矢理感はでるし、ありえないんだけど。その多少の無理矢理な感じもふくめて楽しいとオレは思うね。



オレの歌も一首載っている。

イヤホンをしてる少女の大あくびなんかも見せてくれる朝の駅




んじゃまた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR