山田航『桜前線開架宣言』を読む【4】31-40  ~会っても会っても影絵のようだ、ほか

桜前線開架宣言。31人目から最後の40人目まで。



▼31



五臓六腑がにえくりかえってぐつぐつのわたしで一風呂あびてかえれよ/望月裕二郎


この世からどっこいしょってたちあがるなにもかけ声はそれでなくても/望月裕二郎


山田さんの言う落語や江戸というキーワードがなるほど腑に落ちる。

数多ある競合他社に打ち勝った枕で今日も眠らんとする/望月裕二郎



▼32



自販機の投入口から垂れている液体が坂を下って西へ/吉岡太朗
→自販機といっても、紙コップに液体が落ちてくるタイプのやつかな。たまにうまく作動せず困ったことになる事例があると聞く。
液体は、坂を下ってくるぐらいたくさんこぼれている! 西がどうなってしまうのか心配だ。


自転車のサドルとわしのきんたまのその触れ合いとへだたりのこと/吉岡太朗
→サドルときんたまを、愛し合う二人にでもなぞらえたくなってくる。



▼33


わらわらとヤンキーは来てわらわらと去れりコップに歯形をつけて/野口あや子


飛べぬまま夏を過ごしてコーラからストロー抜けばちゃいろいしずく/野口あや子




▼34



終電ののちのホームに見上げれば月はスケートリンクの匂い/服部真里子
→終電の行ってしまったあとのホームは実にしずかだろう。無人の星である月、そこからスケートリンクの傷だらけの冷たさへとイメージはゆるやかに移る。


人の世を訪れし黒いむく犬が夕暮れを選んで横たわる/服部真里子
→「人の世を訪れし」に、この犬はただものじゃないなという得体のしれなさがある。涼しいところを選ぶのは猫もそうなんだけど、得体の知れなさに「夕暮れを選んで横たわる」を合わせると、聖なる生き物のようだ。人の世のなかで「夕暮れ」がお気に召されたと。



▼35



キャスターは喋り続ける液晶の三原色の傷のむこうで/木下龍也
→小さいころ、テレビをうんと近くから見ると赤黄青のこまかいつぶつぶが見えて、なんだこれと思ったものだ。
見ようによっては、テレビはあらかじめひび割れて傷だらけというわけか。
キャスターは三原色なんて無いもののように喋る。


後ろから刺された僕のお腹からちょっと刃先が見えているなう/木下龍也
→そんなツイートが流れてきたら、なんてリプライしたらいいかわからないね。
ツイッターはさまざまな場所や状況で使われる。殺されている瞬間でも「これはイイネがたくさんもらえそうだな」と画像つけてツイートするようになれば立派なツイッタラーだ。
いや、イイネのことすら考えずに淡々と日常ツイートの感じで書いていてほしいかも。



▼36



大学の北と南に住んでいて会っても会っても影絵のようだ/大森静佳
→同じ建物なんだけど「住んでいて」で大きな距離感がでた。影絵のよう、はNHKの番組みたいでなつかしさがある。影絵の二人はどちらも真っ黒で、重なってもすり抜けているように見えてしまう。まるで触れ合わないのだ。



ぺてん師のなみだのように「ぺてん師」に薄くふられており傍点は/大森静佳



あなたの部屋の呼鈴を押すこの夕べ指は銃身のように反りつつ/大森静佳

→呼鈴を押すときに自分の指を見るかと考えると、普段は見てないと思う。反っていること、銃身という例えが、場面に緊張感を与えている。



▼37



夕焼けがひろがり尽くすあの部屋で知つたね、愛は愛を殺すと/藪内亮輔


大根で撲殺してやると思ひたち大根買つてきて煮てゐたり/藪内亮輔

→大根といっしょに気持ちもやわらかくなったか。外に出て買い物すると気分が変わるものだ。なんか安心した一首。
でもそれにしても奇妙な殺意だ。凶器が大根なんて、冗談かとちょっと思うが、いやいやわからないよ。



▼38



びいだまを少女のへそに押当てて指に伝はるちひさき鼓動/吉田隼人
→次の「しゆーくりーむ」の歌もそうだけど、なんとも官能的だなあ。触感が生々しい。ビー玉もシュークリームも少女のそばにありそうな道具だ。

しゆーくりーむに汚れし指をほの紅き少女の頬になすりつけたり/吉田隼人



岸辺にはねえさんだつた人がゐて真水でないと教へてくれる/吉田隼人

→「ねえさんだつた人」が岸辺にいる。何をしているところだろう。再会をよろこぶわけでもなく、同行していたふうでもない。そもそも、ねえさんじゃなくなるというのは、何がどうなることなんだろう。夢のような不思議な光景。

姉は背を、傷ひとつなき背をみせて血しほの海のさなかに立てり/吉田隼人
→もうひとつ、姉さんと海の歌。さっき夢だと思ったが、ここは冥土だ。傷ひとつないのがわかるということは、裸の背だろう。
ここでも姉さんは他人みたいに遠い。



▼39



おしずかに。たとえ浜辺にとどいてもかなしみはひた隠す潮騒/井上法子


しののめに待ちびとが来るでもことばたらず おいで たりないままでいいから/井上法子

→「おいで」と呼びかけてられているこの「待ちびと」は、「ことばたらず」を気にしてためらっているのだろうか。「たりないままでいいから」がとても優しい。

「小さなものに呼びかけているかのような口調が多用されるのが特徴的である」と山田さんが書いている。それがオレの「とても優しい」と感じたところだ。



▼40



試験管の内壁くだる一滴の酸 はるかなる雲はうごかず/小原奈実


談笑のならびのままに座礁せり霧笛やさしき放課後の椅子/小原奈実

→教室が海で、机や椅子が海に浮かんでいるように感じられることがオレにもあったな。
放課後の談笑、いいよねえ。「座礁」のあとに「霧笛」があり、さらに海らしさが出ている。


灯さずにゐる室内に雷(らい)させば雷が彫りたる一瞬の壜/小原奈実



この本おわり。

あちこちで紹介されまくってる本たまから今さらオレが言うことはないんだけど、おもしろい本です。



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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