「塔」2016年5月号を読む  ~目蓋の動く母を喜ぶ、ほか

「塔」2016年5月号。



中空に腕を振り上げいくたびも子は握りなほす埃のつぶを/澤村斉美


門といふ門悉く閉じてゆく暮れの境内を巡れる僧は/澤村斉美

→戸締まりの光景だろう。この世の終わりのような深読みをしたくなる。


呼びかけに応えるごとくわずかにも目蓋の動く母を喜ぶ/大城和子
→なんという「喜ぶ」だろうか。喜びにもいろいろな種類があるものだなあ。たとえ何もできなくなっても、そこに母が生きている。


墓碑銘という名の曲を聴いていて暗闇にいて意識はあった/布施翔悟
→曲の世界に入り込んで、まるで自分が墓の下にいるような気持ちになったのか。こういうのも音楽を聴く面白さの一つだろう。

"FF6ダリルの墓" https://t.co/cISkMvm1x2
オレが知ってる「墓碑銘」はこの曲。
ファイナルファンタジー6。墓の下のダンジョンのなかで聴くんだったか。


新しい歯科医について話すうちうわさ話の領域に入る/岡本幸緒
→はじめは確かに知っている情報や自分が見て聞いたことについて話しているが、だんだん又聞きや推測が混ざってくる。それは自然に移り変わっていく。領域の違いが意識できるのを、鋭いと思う。


かなしみの色濃き方をうちがわに畳みぬひとが会いにくる昼/永田愛


カレーのルゥ持ちつつ大泣きせる子ども箱共々に母は抱きゆく/橋本恵美

→カレーのルーの箱という道具がおもしろい。オモチャでもなんでもないようなものをしっかり持っている。スーパーにありそうな光景。


本のような雲を鯨が追いかけて追いつけぬ間に夕暮れとなる/橋本恵美
→本は動かないもので鯨は動くものだとすれば鯨は追いつくはずだ。しかし雲なのでどちらも同じくらいの速さで流れていき、追いつけない。一日中仲良く追いかけっこをしているようで、のどかだなあ。


いいことがきつとあるさと片目閉づ鏡のわれが逆の目を閉づ/千名民時
→逆の目を閉じると逆のことを意味していそうで、不吉だ。
鏡に向かってウインクか。したことないこともない。


弟とひとつを取り合いせしころの天のかみさまのいうとおり/山下裕美
→子どもの頃にしかやらないような物の取り合いやケンカがある。その一方で子どもの頃にしかない純粋さもある。
どちらもひっくるめて、しみじみする。


チョコレート貰えなかったと帰り来て肉まん分け合う息子二人は/龍田裕子
→五月号なので、二月二十日が詠草の提出期限。バレンタインの歌が入ってくるのが五月だ。
モテない男同士で食べる、あたたかい肉まんだ。何年か後には、どちらか一人で肉まんを頬張ることになるかもしれないなあ。
母のまなざしだよな。何か関わってくるわけではないんだが、ちゃんと見ている。


コピペとふ技を十分発揮して書かれし出張報告を読む/吉田健一
→コピペを日常的にやっていると「技」なんて思わなくなってくるものだ。この「技」が良い。「十分発揮」も良い。ラクして作った書類も、見方を変えれば技を発揮した結果なのだ。



十三(じゅうさん)の娘は白手袋を嵌めひとりで雛を飾り終えたり

雛段へ猫は飛び乗り長き尾に右近の橘を薙ぎ倒す/沼尻つた子

→この二首を続けて読んで、楽しかった。慎重に飾る歌の直後に倒す歌が出てくる。
白手袋に慎重さがあらわれている。猫は自由自在だ。下の句の句またがりで薙ぎ倒し感がアップした。



味うすき麺すすりいる底いより粉末スープの袋あらわる/田村龍平



ランナーたちをうつす画面がひたひたとかつてふられた角にちかづく/田村龍平

→この方だけ、ランナーやほかの視聴者とは別の地点にみどころがあるんだな。「ひたひたと」に無言でみんなで近づいて来る様子がうかがえる。



百年後も決して終はらぬ三月がまた来る冬のコート着たまま/小林真代「1466日目」



うに丼のくすんだわさびどけながら短歌とは脇役の文学/千種創一

→ウニはなんだろう。小説? 
短歌が主役じゃないのは仕方ないにしても、くすんでいて箸でどけられてしまうとさびしいものがある。


唐突に終わってしまう恋があり舌割るるほど号泣をせり/大坂瑞貴「色えんぴつ」
→特別作品から。
舌が割れるという感覚がわからなかった。号泣もしてないなあ。オレはまだまだだ。


いずれ腐る四肢で風切る立春に十七歳となりにし我は/鈴木四季
→初句以外は若々しくはつらつとしている。いくら若々しくてもやはり「いずれ腐る」が重い。


亡き父の懐中時計の行方など不意に思わる雪降る朝に/中澤百合子


五月号おわり。






塔をやめて未来の会員になってからのほうが楽な気分で塔を読める、というのが実感だ。家じゃない場所だから集中できるのかもしれない。
だいたい二時間から二時間半で塔を一冊読んでいる。四月号と五月号は二日間で読んだ。これは自分でもおどろきの早さ。もちろん、全部は読めない。選んで読んでいる。

読むのは
1.選者全員
2.今まで歌を引いた記憶がある人、ツイッターや歌会などで名前を知っている人の作品
3.欄の先頭に載っている作品
4.新樹集、百葉集、風炎集はすべて読む
5.若葉集は特殊ルールで、鍵の外はすべて読む。鍵の内側は最初と最後の一首を読んで良さそうならすべて読む。

というやり方にしている。きっと何人もの人が自分なりの結社誌の読み方をしていることだろう。






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【第一回石井僚一短歌賞】に落選した連作 20首
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第57回短歌研究新人賞候補作「仙台に雪が降る」全30首
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2ちゃんねるに書かれているオレに関する疑惑について答える
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どうしたら短歌の絵を描いてもらえるんですか問題について
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「いいね」されない短歌/一人称のこと
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歌合 大学短歌バトル2016のこと
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ブログにきたひどいコメントシリーズ 
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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