「未来」2016年5月号を読む  ~ソフトクリームの先もちて行く、ほか

「未来」2016年5月号。



鬼の面被りて豆を享けてゐる夫よ、しんそこ鬼になりたまへ/恒成美代子「光の春」
→節分の鬼に見せ場はなく、ひたすらやられ役に徹することになる。鬼の心をもっていたら節分にどんな態度でのぞむべきだろう。
ちゃんと節分の鬼の役をやれということのほかに、夫への訴えかけもありそうだ。


陽のささぬ廃屋好むいもうとに触れがたき芯のありて触れざり/佐伯裕子


若者はケータイゲームにすさまじき顔せり午後の珈琲店に/中川佐和子「淵鮎」

→ゆったりしているであろう「午後の珈琲店」が、「すさまじき顔」を浮き立たせている。ケータイゲームにより、いつでもどこでもすさまじい気分になれるようになった。


ぼんやりと吾は見てをり仕事より戻りたる息子の録画の手際/釜田初音
→仕事を終えて帰宅して、そのうえテレビの録画もこなす息子を見ている。自分とかけ離れた存在に見えるのだろう。
オレは、普通の録画はなんとかできてたけど、予約録画はしようとしなかったなあ。普通の録画も今はできるか不安だ。録画ができる人は「できる人」というイメージがある。


ため息を吐いた範囲に小花咲く望みはかなく乙女のかたち/瑳峨直樹


潮(うしお)にも風にも味はありながら シュノーケルの筒まぶかく咥ふ/山木礼子「わたしの島と海(1)」

→自然の味をじゅうぶん味わうことのできない人間の限界、言ってしまえば悲しみがえがかれているものと読んだ。


差し入れる爪先に触れスニーカーの内なる朝の冷気うごけり/廣岡優


蝋燭の炎真っ直ぐ伸びてゆき燃やせるものにまだ出会えない/佐藤理江


思ふよりかるがると開(あ)く木の扉かくのごとくに読み違ふのだ/杉森多佳子「墜ちて」

→この「読み」を短歌の読みのこととして自分に引き付けつつ読んだ。かんたんに分かった気になることがオレには多いなあと。


火事の夢みたんですよと言ふ人のネクタイの柄、なんの模様だ/秋月祐一
→模様についてはなにも書かれていないが、火事のイメージのあとなのでそれと関連ある模様のように思えてならない。


新発売のアイスクリームはだめでしょう柔軟剤の香りがしたら/鈴木麦太朗


くわつと照る陽をまたくわっと押し戻し都会は熱き方形のつらなり/永井陽子『ふしぎな楽器』


舌のよく回る男に乗せられてミシンをつひに買い替へにけり/月子


踏切が上がるのを待つひとときのひとびととしてあるわたしたち/三輪晃

→何人かで同じものを待っているあいだに連帯感らしきものがうまれることを言っているんだろう。その微妙な感じをうまくすくいとったと思う。


区役所の黒ボールペンは繋がれて右肩上がりの文字ばかりとなる/葛野裕


口頭試問終へたる躰なめらかに手足動かし部屋まで帰る/横井典子

→普通ならばじぶんの動きになめらかさなど感じないはずだ。口頭試問で硬くなっていたことがうかがえる。


カーテンにうつる夕映え揺れている舌打ちをすれば秋は深まる/花山周子『屋上の人屋上の鳥』


反転をせざる鏡のようなりやずっとあなたにつきたる嘘は/加納舞子

→いつまでも気づかれないでいられるような巧妙な、それでいてまったく間違っているような嘘なのかな。


洗濯は面倒臭いし洗脳は怖いし何をすればいいのだ/酒井景二朗
→洗濯が面倒で洗脳がこわい、どちらもわかる感覚だが、二つを並べたのがおもしろい。「洗」が同じなだけで大違いだ。
いや、大違いか? 対象が衣類か頭の中かの違いだけでは。


若者に期待するのは卑怯だと思ひ深夜に裸で踊る/酒井景二朗


お互いに望まぬ変身だったな 舌から生えた羽で撫で合う/蜂谷希一「シャラポワと呼んでくれ」

→人間の力を超えた者同士が戦いを深めていくなかで、より本気を出そうとして変身が行われる。変身の果てに、互いに舌から羽が生えるという奇妙なことになってしまった。そして二人は分かり合ったのだ。めでたいなあ。


笹さんの欄はとても気楽に読めて大好き。大体そのすぐ後とかに珂瀾さんの欄がある。こっちは真剣勝負でいきたい欄だから、気持ちを切り替えるためにここで日をあらためることが多い。


雪の夜の明けんとするとき背教の人去るような靴音聞けり/佐々木漕
→どんな音だろうと想像してみたくなる。雪で、靴音で、夜明けだから静かで、なおかつとても厳粛な、いや、後ろめたいような、そんな音。


レリエレリエレリレリエおはじきを弾いて星を盗つてこようよ/真篠未成「「月光」を聴く」
→印象的な冒頭だ。どこで区切るのか、何度見ても迷う。
レリエレリエ……は、おはじきの音なのか、星の様子なのか。


四肢を折りチューバのケースへと隠(こも)る 緩衝材は生暖かい/酒井真帆
→エスパー伊東みたい、と言ったら茶化してるみたいに聞こえるか。
謎の行動だ。ケースとともにどこかへ忍び込むのか。下の句にほんとっぽさを感じた。


昼火事を電車の窓に見つつ過ぐわが人生のこれも読点/桑田靖之


今一番大切なものを詠むべしと芳美の言葉に蒲公英をみる/城谷榮子

→漢字三文字だから少し立派だが、たんぽぽだ。たんぽぽが今一番大切だというのだ。いろいろな人がいる。



夕波が海の呼吸のやうに来る跪くためうみに来たのだ/三田村正彦



テーブルや椅子をたたみし店員がソフトクリームの先もちて行く/吉田美子

※吉は土に口
→下の句がめっぽうおもしろい。普通はコーンのところを持つに決まっているソフトクリームが、先っぽを持たれている。店先に出している大きな飾りのソフトクリームだろう。省略があるが、上の句から無理なく推測できる。



ここから二月の歌。
三年前から繰り返し言ってるけど、結社誌のうしろの評のページを見てると、ほんとに同じ本を読んだのか? というくらい知らない面白い歌がいくつも見つかる。

明け方の冬の光の奔りいる淡海はとんでもない虚を持てり/中川佐和子


フィクションの意味をたずねる声のするスーパーヒーロータイムの終わり/中田美喜

→意味をたずねるところまででこの歌は終わっている。楽しかったテレビの終わりに、これらがみんな架空のことだったと知らされたら、子供はしらけてしまうんじゃないか。現実のにがみを噛みしめるのではないか。



以上、五月号のおもしろかった歌でした。








『未来』に載ったオレの短歌はこちらにまとめてあります。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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