角川「短歌」2016年5月号を読む  ~防火扉の冷たかりしよ、ほか

すでに一ヶ月経過して6月号が発売されてしまったけど、角川「短歌」5月号をやっていきます。



吠えたつて落ちないといつてゐるけれどほんとにこの肉いいのかなあ/平井弘「キスケ」
→肉をくわえた犬が川に映った自分のくわえた肉を欲しがって吠えたら肉を川に落とした、という話(なんてタイトルなんだろうあれは)を下敷きにしているんだろう。
吠えたら口から肉が落ちるんだが、落ちないと誰かが犬をだまそうとしている。


さうかこの軍服がみえてゐないか王さまはうれしくなりました/平井弘「キスケ」
→これの前には「王さまの耳はロバの耳」をもじった歌もある。童話が現代の危機を映し出している。


沈んだところのふたつてまへまではみづ切りの石もその気だつた/平井弘「キスケ」
→その気だった石が、二回跳ねるあいだにみるみる勢いを失って沈んでしまった。
人もみるみる衰えて亡くなったり、挫折してしまうことがあると思うと、ふいに来る失速がこわくなる。


おとほしのちりめんじやこのちさきやま黒きてんてんの目があり悲し/坂井修一「ちらんほたる」
→目の部分に命を感じたのだろうか。「ちさきやま」にちりめんじゃこのちっぽけさがあり、お通しもメニューとしたはちんまりしたものだし、そのあたりも悲しいポイントか。


木犀のかをりほのかにただよふと見まはせど秋の光のみなる/窪田空穂『鳥声集』



放課後の背をあづけたる階段の防火扉の冷たかりしよ/島田幸典「岸辺の声」

→防火扉。心に燃える火が壁を通過できないような満たされぬ感覚が学生時代にはあったなあ。


踏みしだくときのさぶしき音たててヘリコプターがゆく空の途(みち)/和嶋勝利「朝の舗道、空の途」
→ヘリコプターのたてる音を踏みしだく音と聞いたのがおもしろい。「さぶしき」で冬の道を想像した。


みずがめは叩き割られて砕けちる破片に遅れ傾(なだ)れする水/島田幸典『駅程』
→ふたつある時評の両方で引かれている。いい歌だなあ。下の句の細かさがすごいけど、「叩き割られて」ってことは、水の入ったみずがめを叩き割ってる人がいるのかな。
細かい、ともちょっとちがうのか。おそろしくリアルに割れる様子が浮かんできた。


花あまた咲かせて庭に立つ人の囲まれてをり花の名前に/香川ヒサ『ヤマト・アライバル』
→たとえば花屋さんだったら花の名前の書かれたプレートやなんかに囲まれているからその感じがあるかもしれないが、ここは庭だ。これらの名前は目には見えてはいない。見えないものが取り囲んでいる。

それでいくと、花に限らずあらゆる場面でものの名前に囲まれてみんな生きてるわけだな。
花は名前だけでも一種の花らしい感じを与える。花の名前に囲まれているだけでも、ひょっとするとうっとりできてしまうかもしれない。


川の辺に春の陽差しがあたためる座りごこちのよさそうな石/石川茂樹
→公募短歌館あらため角川歌壇から。作者が石川さんで歌は「川」ではじまり「石」で終わるから、なにか意図があるんだろうか。
自然を自分の都合よく見るのがおもしろい。

「公募短歌館」って変なゴタゴタした名前だけど、長くやっててそれに馴染んでいたので、「角川歌壇」と名をあらためすっきりしてみるとそれはそれで物足りなさがある。







オレは角川歌壇で佳作で三首載った。

赤い服を着ている犬が街灯の下で巨大なイモムシみたい/工藤吉生
外塚喬選

二曲目で寝て五曲目で目が覚めてそのまま八曲目までは聴いた/工藤吉生
田宮朋子選

新年は特にしずかな気がしますカラスの声も空気のそれも/工藤吉生
内藤明選


それに比べるとしょうもないことだが、「読者の声」に36歳・男性として意見が載った。
特集・新春62歌人大競詠に対して
「皆さん意外と笑わずに過ごしてらっしゃる」と書いたのが載った。たしか笑いをテーマにしていたんだけど、一年中笑わないと書いていた歌人が複数人いた。







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んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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