山田航『桜前線開架宣言』を読む【1】1-10  少し多めのティッシュだけだよ、ほか

山田航『桜前線開架宣言』。


この本には、1970年以降に生まれた歌人40人の紹介と作品が収録されている。
それをオレは二日で一人ぶん、つまり80日くらいかけて読んだ。非常に刺激的な読書だった。


ここではほかのアンソロジーでもやってきたように、丸がついた歌を取り上げて、何か言ったり言わなかったりしていく。
一人あたり2~5首引いていく。2首なのか5首なのか、どれほどコメントするかでオレの得意不得意があらわれる。

一回の記事で10人ずつとりあげ、全四回で完結させるつもりでいる。

この本にあるのは抜粋なので、一首から受ける以上のことはあまり書かない方向でいきたい。



▼1



みづからは触れ合はすなきテディベアの両手の間(あひ)の一生(ひとよ)の虚空/大松達知
→あるあると思う。ぬいぐるみで遊んでいるときに、ぬいぐるみに何かポーズをとらせてみたりする。
オレの子供の頃は「おそ松くん」が流行っていて、シェーをやらせてみたりした。
そんなときに、ぬいぐるみの体の動かなさ、不自由さに気づく。

ぬいぐるみの動物はだいたい両手が短くて、両手を合わせることも難しい。
両手を合わせなくてもテディベアは一生を過ごすことができる。人間ではとても厳しい。そこに人間の一生とテディベアの一生のはるかな違いがある。
「の」の連続により、テディベアが虚空へとするっとつながる。


成績を上げます。がんばります。と書く賀状さみしも名を見ればなほ/大松達知
→成績のことが書かれた生徒の年賀状を見たら、めでたい気分や休日気分がややかげってきそうだ。
この生徒は成績のことを自分で気にしているのだろう。内容もさることながら「。」に生真面目さがうかがえる。
真面目だがそれがなかなか成績に結びつかない生徒なのだろう。


誤答なる選択肢③「日本は老人を減らさねばならない。」/大松達知
→誤答の選択肢から問題を想像するのが楽しい。「次の①~③のうち、上の文章の内容として正しいものを選べ」とかそういう問題だろうか。
選択肢として用意されているということは、少しは選んでしまう生徒がいて、問題作成者がそれをわかっているのだろう。あるいは冗談混じりなのか。

そして、この③を選んでしまう生徒は、こういう内容がテストの問題文に書かれているわけがないとは思わないのだろう。
ただの誤答ではない妖しさを放った選択肢に見えてくる。


シマウマの真似せよかしと命じればからだくねらす十三歳は/大松達知
→十三歳って中学生だし、大人に言われても変なことをそろそろやってくれなくなってくる年頃だ。シマウマの真似をやってくれる最後の方の年代になってくるのではないか。
そして体をくねらせる。シマウマはシマによってそれとわかるが、いくら動きを真似てもシマウマとはわかってもらえないのでは。

そういえば、英語の授業で、カードを引いてそこに書いてある英語をジェスチャーで表現して英語で当ててもらうというのをやらされたことがあるなあ。
オレのときは「バドミントンをする」で、できなくて変えてもらったら「エビフライを食べる」が出てきた。それもできなかったと記憶している。

オレのつぎの伊藤君は「エビフライを食べる」をクラスみんなの前で実にうまくジェスチャーしたんだよ。
誰が見てもあれはエビフライだった。エビフライが見えるようだった。オレは完全に負けたと思った。自分は劣っている! と思ったね。

このシマウマも、もしや授業でやらされているんじゃないかと思った。バドミントンやエビフライのジェスチャーよりも難しいなあ、シマウマは。



▼2



空くじはないでもたぶん景品は少し多めのティッシュだけだよ/中澤系


中澤系さんはbotを長くフォローしてたんで、けっこう歌は見ている。ここはさらっといきたい。

くじのティッシュといえば残念賞の景品としてお馴染みだ。空くじがなくて最低でもティッシュがもらえるのは親切だが、当てたときの景品が多めのティッシュではショボすぎる。

中澤さんのことだから、これは単なるくじ引きの話ではなくて世の中のシステムのことなんでしょう。ティッシュばかりで変なくじ引きだなあ、と読んで通りすぎるようなことは許されない。
敗者を守りつつ勝者の暴走を止めようとした結果、みんな残念賞程度になってしまう。まるで希望がもてない。「たぶん」が不透明だ。誰もこのくじ引きについてはっきりと知らないのだ。


夜の教室 それぞれの生それぞれのペットボトルが机上に並ぶ/中澤系



▼3


滑らかにエレベーターは上下して最後までビルを出ることはない/松村正直


犠打という思想を深く刻まれてベンチに帰る少年のかお/松村正直


こうして続けて引くと、中澤さんと松村さんが似て見えてくる。人間のつくりあげた仕組みのなかの閉塞感。


感情をあらわに見せて自動車が軽自動車を追い越してゆく/松村正直
→追い越すときにスピードを上げて、それとともにエンジン音も上がる車の様子はなるほど感情的ととれる。


包まれて妊婦のごときオムライス食べたりわれはケチャップを塗り/松村正直



▼4



子はにがき綿飴ならむ 眠る子の親指われが含みてみれば/高木佳子


たとふればパーレンとして見る虹に閉ぢられてゐる吾の地平は/高木佳子

→そんなこと考えたことなかったなあ。
この地平がパーレンの中ならば、まあ捕捉的なわけで、パーレンの外のほうがずっと広大だ。虹から世界の広さを感じる。



▼5



なにゆえに縦に造るか鉄格子強度のゆえか心理的にか/松木秀
→横だったり縦横両方や斜めでもいいはずだよなあ。
強度なら納得だが、心理的なものだとすれば、それはどういう心理にさせるためのものなんだろう? なんでもなさそうなものに何者かによる心理の操作が潜んでいるとしたら不気味だ。


飛び降りる人とか首を吊る人も大抵の場合「前向き」である/松木秀
→子供の口ごたえか揚げ足とりみたいな歌だが、有りだなと思う。
「とか」と自殺者を大雑把に括っているあたりが邪悪に楽しい。「大抵の場合」ってことは、後ろや横向きになって飛び降りる人などもたまにはいるんだろうな。



▼6



両腕をひらきて迎へゐるわれをまつすぐ透過してゆくひとか/横山未来子
→「透過」という単語は自分には出てこないなと思って読んだ。


一枚の水つらぬきて跳ね上がるイルカをけふの憧れとせり/横山未来子
→これも貫通する歌。
水が「一枚」とされる。うすい壁のようだ。単位を変えると性質が変わる。
「けふの」と時間を限定されている。その短さもまたよい。明日には明日の憧れがあるだろう。


きみの指に展かるるまでほのぐらき独語のままの封書一通/横山未来子


二匹の蟻遇ひてははなれゐるあたり日傘の影のなかのわが影/横山未来子

→日傘をさしてアリを見ているというのが表面のところだろう。
すれ違う黒いものと、二重になっている黒いものが出てくる。これがなにかの暗示のようで、なにか考えたくさせる。
「なにか」ばっかり言っている。




▼7


ぬばたまの夜のプールの水中で靴下を脱ぐ 童貞だった/しんくわ
→「ぬばたまの夜」とは似てるようでちがうが「プールの水中」に言葉のだぶつきがある。水に入る前に靴下を脱げばいいものを水中で脱いでいるところにもなにか無駄な間抜けなところがある。童貞とはそうしたものか。


窓を開けても風の入らぬこの部屋によるがきてよるがなかなか立ち去らぬ/しんくわ
→風のないムワッとした夜を想像した。途中からひらがなになり、字余りもあり、「よる」が長く感じられる。


一年を身体で表すならば、秋は尻だ。尻は好きだな/しんくわ
→どうやったら秋が尻になるのか。春夏秋冬を、頭胸尻足、にでもしたのか。
アルフォンス・ミュシャが四季をそれぞれ女性に見立てた絵のパズルがオレの部屋にあるが、こちらの歌は四季全体で一人の女性なんだろうな。
言い方はいやらしいようだが、秋が好きという歌だと読んだ。


ドブネズミのように美しくなりたい 金網から飛び降りたブル中野のような美しさがあるから/しんくわ
→たとえをたとえで返して、わかるような、いよいよ混乱してしまったような。わかる人にはたまらないのかもしれない。



▼8


ひとりでも生きていけるという口がふたつどちらも口笛は下手/松野志保


真夏日の螺旋階段なかばにて君という鮮烈なダメージ/松野志保

→ある人とすれちがうだけで心に傷を負うということは経験がある。
真夏日、螺旋階段。シチュエーションがいいなあ。


ぼくたちが神の似姿であるための化粧、刺青、ピアス、傷痕/松野志保



▼9


人間をすきじゃないまま死にそうなペット 宇宙の はるなつあきふゆ/雪舟えま
→ペットの心がわかる前提でここでは「人間をすきじゃない」と言っている。すきじゃないものとずっと一緒にいて、辛い一生だったに違いない。
宇宙にめぐる四季はどんな命もやわらかく包んでくれそうだ。そんなことを感じさせた一字空けやひらがな表記だ。


鹿の角は全方角をさすだめな矢印、よろこぶだめな恋人/雪舟えま
→鹿の角を矢印に見立てたのが面白い。恋人は、どうにでも見えるそれの喜ばしい一面だけを見ているのか。


両親よ何も怖れず生きなさいニューヨークビッグパフェをおごるわ/雪舟えま
→知ってた歌だけど、あらためてすごいと思った。
怖いものなし感がすごい。天下無敵かよ。アメリカ人がビッグというんだから、さぞかし大きいんだろうな。両親は三口くらいしか食べなさそう。



▼10



弟のポテトこっそり抜き取ればJOKERと細く書かれてありき/笹公人


自転車で八百屋の棚に突っ込んだあの夏の日よ 緑まみれの/笹公人

→なつかしい、ちょっと古い漫画のようだ。頭から野菜をかぶるなんて、そんなうまいこといくわけない。でもすごく想像がつく。


「みかん箱」なる芸名候補を見たときの二人の乙女のピンチを思え/笹公人
→思えというから思ってみる。
地味で、ものすごく苦労しそうだ。売れない頃はさかさまにしたビールケースの上に立ってネタをやった、なんて芸人の話を聞いたことはある。




次回につづく。







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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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