「短歌研究」2016年5月号を読む  ~茄子が食えない、ほか

「短歌研究」2016年5月号。


冬の夜を階下に独り老は寝る掛布団の端(はし)を握るなどして/田中子之吉「老の生」
→下の句の小さい動作によって、冬の夜や独りの雰囲気がより出てきた。


わが腕を離れゆきたるうすき肩遠くなりたり動く歩道を/八城水明
→別れを詠んだ歌は数々あるだろうが、「動く歩道」でおっと思った。歩いていないのにスーッと遠くなっていくことと「うすき肩」がなんとも儚い。


洋式のトイレの水は渦巻きて吸ひこまれまたしづかに満ちぬ/由良琢郎「無償うつくし」
→それはそのとおりで、特にこれといった工夫もないようなのだが、こうして言葉にしてみると見慣れたものにあらたな表情が見えるようだ。
激動の人生ののちに平穏がやってきました、みたいな。いや関係あるはずないんだけど。


この朝もレンジでチンする貧すれば鈍するごとき言葉にあれど/野田光介「良いひばり」


百舌啼けば紺の腹掛新らしきわかき大工も涙ながしぬ/北原白秋『桐の花』


プルトップ引いて三時の桃を食む盆地を染めし西野の桃を/三枝昂之「やなぎの春、ももの春」

→プルトップからの盆地を染めし西野の桃、の展開が大きくていいなあ。サッカーで言うと、逆サイドへの大きなパスが通った感じかなあ、と思ったりした。
おやつに桃かあ。食べたくなるなあ。


よくも付けたと思ふはわれらヒトばかりギンメッキゴミグモ風に揺らるる/永田和宏「固有名詞」
→おもしろい生き物の名前がたくさん出てくる一連。虫を上から目線でおもしろがっているばかりではないのは「ヒト」の片仮名表記から察せられる。途中から人間のフルネームが出てくるのもそうだ。
虫から人への転換があざやかだ。これもひとつの「短連作」の作り方だろう。

オレは確か以前ゴミムシのでてくる歌をツイートしたことがあるぞと思って探したら、それも永田和宏さんの歌だった。角川「短歌」2013年8月号にこういう歌がある。

ゴミムシとゴミムシダマシ歓びはゴミムシにこそありと思はめ/永田和宏「秋さらば」



もうこんな稚(おさな)き顔を子は描(か)かず十年前の父の日のかお/吉川宏志「春はまだ」
→子は十年ぶん年を取り絵が変わってくるし、父も十年ぶん年を取り顔がかわる。一枚の絵から二つの時間の流れが見える。


車椅子風のふかへんはうにむけ君に吸はせし煙草のいくつ/吉岡太朗「沼」


待ち合わせもろくにできない 茄子がまずい 君に会いたい 茄子が食えない/石井僚一「おまえの声じゃねーと寝れねーんだよ」

→茄子はあんまり人を待ちながら食べるものじゃない。茄子を食べながら君にも会おうとしていると読むときびしい。待ち合わせに失敗して茄子を食ってると読めなくもないが。

二つの場面が交互に切り替わる。関わりなさそうで、しかしなんだかどちらも苦しんでいる。根底には似たものがありそうだな。
あるいは夢の中だったりするのか。「寝れねー」結果、悪夢を見ていると。
ナスを「茄子」と漢字表記にするとちょっと人名っぽいことを思った。



金属のひっかき傷より白く浮く雲も地球のアプリのひとつ/井辻朱美「梅王丸の散歩」


反論に移るまでの間バスーンのやうなをのこになりたる我れか/中島行矢『モーリタニアの蛸』

→おもしろい例えだ。バスーンの音が頭の中で、不満を持ちながら相槌している男性の声にかわってくる。


町角のポストのなかに隣り合うかなしい手紙やさしい手紙/鳥居『キリンの子』
→見えないものを想像する歌。
ポストのなかが、まず見えない。ポストを開けて中を見たとしても、こんどは手紙の中が見えない。二つの透視がある。
「やさしい」「かなしい」は対比のようでよく見るとそうでもなく、シンプルながら平板でない。

あるいは、二通の手紙を投函したという歌かもしれない。もう自分の手を離れた手紙を思っている。そう読んでも、良い歌だと思う。


楽園で不老で不死でアダムしかいないだなんて 退屈で死ぬ/天野慶『次の物語がはじまるまで』
→楽園の特徴がそのままかんたんに地獄になる。「退屈で死ぬ」の「死ぬ」も不可能を承知で言っているのだ。


『一生に一度は見たい絶景』を立ち読みの後脳に蔵えり/芹澤弘子







オレの短歌。
短歌研究詠草は2首。米川千嘉子選。

光陰は矢の如く過ぎオレはいま二度寝を終えて三度寝に入る/工藤吉生

昼の墓地に鳥と鳥とが鳴き交わす死ぬとのんびりできそうだなあ/(同)



うたう☆クラブは佳作。星なし。斉藤斎藤選。

凧揚げのやたら上手な姉さんがさっきからずーーっとやっている/工藤吉生




うーむ。まだまだだなあ。
また来月。







第57回短歌研究新人賞候補作「仙台に雪が降る」全30首|mk7911|note(ノート)https://t.co/2qhYBXq6hv
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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