「塔」2016年2月号を読む  ~これは会話なのだとおもふ、ほか

「塔」二月号です。


オレはもう塔にはいないんですが、でもチェックしています。こないだ文学館に行って二時間で読みました。

そういう荒技は、塔を読んでいたからできることだと思います。気になる歌人がたくさんいるからそれをたどって読むのです。また、どこに面白い歌があるかある程度「アタリがつく」のです。荒技なので、こまかいところはごっそり落ちてしまいますが、それはしょうがありません。
読んだことない結社誌だったらなかなかこうはいかないでしょう。




みずうみに浮かべる鳥は水面の月光見るや眠りの前に/吉川宏志
→そうなんだろうか、と想像してると自分がつかのま水面の鳥になる思いがします。



ながき文は時に暴力となることを知らざるひとの長文を読む/松村正直
→呼ばれた気がしました。
松村さんは簡潔に書くなあといつも思っています。
「暴力」は言った瞬間相手を悪者にできる便利ワードなので、出てくると警戒します。


気まぐれに愛といふ語を引いてみる辞書には面罵も憤怒もあるが/岩野伸子
→めんば、ふんぬ。響きも意味もかけ離れていますが、辞書のなかでも離れています。
愛とともに面罵も憤怒もあるとは、喜怒哀楽をもっているということで、辞書がひとりの人のようです。



直立にラジオ体操待つ心 子供の心が刹那もどりぬ/亀谷たま江



これは会話なのだとおもふじゆんじゆんにだめになる花を摘みとるときに/河野美砂子

→どんな会話なのだろうと耳を、というか心を澄ましてみたくなります。「わたしはもうだめです」「ありがとうさようなら」
複数のモチーフのある一連です。第一主題、第二主題といった音楽用語を思い浮かべました。


わが夢に歌える女のその声を聴かんとわれはにじり寄りゆく/花山周子
→夢のなかの距離感って普通じゃないです。うまく動き回れないことがあります。「にじり寄りゆく」に、ままならなさがあると思いました。
女は何者でなにを歌っていたのか、気になるところです。
夢とは自分一人の記憶や考えからできていますから、自分の一部へと自分のほかの一部が近づいていることにもなりそうです。


引き上げて来る負け力士に触れむとす伸ばさるる手のひらひらとして/村上和子
→力士に触れたい観客は、力士のようにはがっかりしていないわけです。勝負よりもミーハーな気持ちがつよい。ひらひらとした動きが軽薄さをあらわしています。残酷です。


汚物入れに「たたら遺跡」と書いてあるたたら遺跡の前のトイレの/片山楓子
→所有者として「たたら遺跡」と書いたのに、汚物入れがすなわち「たたら遺跡」のことであるかのように見えてしまう。
結句から初句にループするつくりになっています。


アマゾンより届きし本の焼け激し「中古美品『贋金つくり』」/三浦こうこ



京大の話をすれば給食にどんなん出るかと吾子は問いたり/高橋武司

→給食を食べに学校に行ってるような子なのかもしれませんねえ。


ほかほかの幽霊いはくあたらしきしよくばにやつぱりいやなやつをる/小林玉兔
→「兔」は上が刀になってるタイプの字。

幽霊って冷たそうなので「ほかほかの幽霊」がおもしろいです。なりたての幽霊ですね。幽霊になっても、どこにいっても苦労があるようです。


本物にどれほど似るか目の前に赤パプリカのレプリカがある/北山順子
→食品サンプルってそっくりなのがありますから、似ているんでしょうね。
「パプリカ」と「レプリカ」と、字にしても似ています。一本とられました。


文庫本の頁しだいに明るみて雨の日なりの真昼となりぬ/ 野岬
→本を夢中で読んでいると、本が読みづらくなってきて夕方になったのに気づいたりします。
こちらは真昼に向けて徐々に明るくなります。雨の日なのでそれほど明るくなりません。文庫本の紙もそういえば、あまり明るくない白です。空などでなく、紙の色で時間をとらえています。



帽子かむりマフラー巻けりハロウィンの夜われはただわれに扮して/篠野京



あの遠さ報われたさがひとすじの光であった噴水の夜/坂井ユリ

→なんかうまくは言えませんが、昔こういう心で悩んだりしていた気がします。
噴水は、空へと噴き上がりますが、空からは遠くて、届かない水です。


恋人よ くっと前歯に押しあてて確かめる舌先の炎症/北虎叡人
→まず呼びかけるんですが、そのあとは自分の内部に向かっていきます。肉体的なことですが、もっとちがうこととして読むこともできそうです。わかってもらえない、もらわない傷を抱えている。


笑い声は編集であとから足せる君の寝ぐせの輝く朝に/藤原明美
→よくは知りませんが、バラエティー番組の笑い声は後から付け足しているものがあると、そういえば聞いたことがあります。
ここでは、時間がたてば笑えるようになる、というほどの意味でしょうか。あの時の寝癖はおかしかったねと。
朝の光は寝癖すら輝かせます。どんなものでも輝かせることのできる光があるのでしょう。



以上です。







オレは未来の彗星集にいて、加藤治郎さんの選を受けています。

今までに未来に掲載された短歌のまとめはこちらです。
https://t.co/RAzMz82BPF



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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