「未来」2016年2月号を読む  ~はじまりがさびしい季節、ほか

「未来」2016年2月号。



水中に落ちゆく油の一滴の重さに夜は堪えかねている/武井一雄
→一滴の油というすごく小さいものが「夜」という大きなものをどうにかしそうになっている。漠然とした不安を良いと思った。


みづが満ちてゐるやうでしたくぼませたてのひらに黄の落ち葉をのせると/木下こう「しづかなからだ」
→そういうものかもしれないと、空想のてのひらに空想の黄色い葉っぱをのせてみて、それから空想のてのひらに空想の水を満たして、そうだそうだと思った。



どの道のどこを曲がつても薔薇が咲くそんな記憶の風景がある/弘田ちゑ子「パタゴニア氷河」



はじまりがさびしい季節はいつですかボタン電池をくぼみに嵌める/杉森多佳子「しづかな淵」

→ボタン電池なんてしばらく嵌めてないなあ。オレの記憶では時計とか電子ゲームがそうだった。
ボタン電池をはめると止まっていた機器が動き出す=「はじまり」を迎えるわけだけど、それはささやかなはじまりで、さびしいと言える。



ほんとうは笛に生まれてきたかったせめて毎朝牛乳を飲む/秋山生糸
→とても珍しい願望だ。この一生はとりあえずヒトでやっていくほかない。
人として牛乳を飲むことは、笛として生きることとどんな関係があるのかよくわからないけど、本人的にはなにかあるんだろう……。
人体にも穴があるし、重ね合わせたくなる。



未来年間賞の発表がある。毎月の誌面の歌、いわゆる月詠が対象になり、選考委員により推薦される。
へー、こういうのがあるんだ。こういうのがあると毎月がんばっていい歌を出そうという気持ちになれるし、読んでもらえている実感も湧きそうだし、良い賞だなと思った。

我のみを映す鏡の細長く夜を尽くして人を思えり/平岡ゆめ
→人を思っているんだけど、見えているのは自分ばかりだ。鏡は細長いから自分以外のものが映り込むスペースがあまりない。
こういう内側に向かっていくような歌が好きなんだよなあ。

国道をとほく連なる信号が鳥に変はつてゆくのを見てゐる/飯田彩乃

ざぶうんと寝返り打てばざぶうんと遠い岸壁を白波が打つ/村上次郎


年間賞からは以上。




自分へのご褒美なのです。ずぶずぶと苺のジャムに指を沈めて/鈴木美紀子
→やばいなあ。
指ですくって舐めるのかとも思ったけど、この歌の指は沈んでゆくばかりだ。
「なのです。」の「。」の落ち着きがやばさを強めている。


携帯に「典型的なクズです」と言い雑踏に消えていく男/戸田響子
→会話の断片を拾うような短歌、けっこう好き。
クズとは自分のことを言ったのか誰か他人のことなのか。雑踏に消えていくのがいい。


知らん知らん知らん知らんとことごとく知らんと言へば火の海の首都/三輪晃
→なんだか象徴的だ。無関心は危ないよという。

このあいだ、バラエティー番組でオードリーの春日が「イエス」しか言わない旅をしていた。病気をもっているかきかれて「イエス」と言い続けていたら、あらゆる病気をもっていることにされていたのが面白かった。



夢に見し雲の切れ目の空青く難民の列にわが顔のある/青雅



曲がるたび夜はふかくなり五回めを曲がればぢきにわたしの鍵穴/谷とも子「みないつしよくた」

→夜道を帰っているだけなのに、表現の仕方のせいか非現実の世界の出来事のようだ。
曲がり角を曲がるせいで夜が深くなるみたいな言い方だし、何回曲がるかを数字で知っているのも変わっているし、家でも部屋でもなく「鍵穴」って言うから鍵穴が目的地みたいだ。しかもひらがなへのひらき方。


応酬の果てにむなしき空き地ありすこし佇み引き返さむとす/山本レム「鉄橋」
→何か言い合いをして、そのあとに沈黙がある。それが「むなしき空き地」なのだろう。



イケメンも白目で眠る昼さがり ぐずぐず走る東京電車/あさだまみ



年老いた浦島太郎が海辺にて助けた亀は竜宮知らず/伊藤憲伴

→「年老いた浦島太郎が」ではじまる歌がならぶ一連。
やっぱり竜宮にはもう行けないよな。もしかすると竜宮ははるか昔になくなっていたりするのかもしれない。



セーターのほつれを引っ張っているうちにいつの間にやら裸になっていた/伊勢崎おかめ



この学校の先生たちは優しいと言ふ生徒ひとり水際にゐる/野田オリカ

→印象的な一連だった。生徒と教師の関係のむずかしさを言っているんだと読んだ。



箸で寿司を食べるのですなひとつずつあなたを知っていってしまうよ/山 修平「平泉旅行」
→「ですな」が面白くて丸つけたけど、この「ですな」は相手に入り込めなくて外側から眺めるようなニュアンスがあるのかな。
「知っていってしまうよ」。知りたくないことも親しくなれば見えてくる。



着信履歴を見てたら電話がくるような、こないようなの夜を過ごした/安良田梨湖



のページから。

「すなぬねはほまみむよる」と書き出して○(まる)があるから好きと言ふなり/桑田靖之
→好きなものをみんな一ヶ所に集める。あいうえお順になっている。意味は二の次。子供のやることっぽくていいな。

チョークもて路面に描いたオムレツを食はされてをり柴犬のりん/桑田靖之
という歌もおもしろい。犬の種類とか名前とか、路面のオムレツと直接は無関係な情報が生きている。
好きなものばかり描く子のようだから、オムレツも好きなものなんだろう。








オレ工藤吉生の「未来」の歌はこちらにまとめてあります。
http://matome.naver.jp/m/odai/2145087691179204501



ほかにこういうのもつくりました。
#2015下半期短歌大賞50首+-+Togetterまとめ
https://t.co/gRlMg5Z92G



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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