太田水穂『冬菜』を読む  はたはたとモーターボートの音ひゞく、ほか

筑摩書房の現代文学大系68 現代歌集の第七回目になります。


太田水穂『冬菜』
大正十年から十五年の歌を収録。

さくほどの蕾をもちてむらがれるさくらなやまし春日のなかに/太田水穂『冬菜』
→「なやまし」が人の心理をあらわすような表現です。咲こうとしているたくさんの桜が春のもどかしい心を思わせます。


はたはたとモーターボートの音ひゞく湖(うみ)の向うの低山のそら/太田水穂『冬菜』
→大正十年のモーターボートです。カタカナが少なく自然の歌の多い歌集なので、たまにこういう言葉があると目立ちます。
「はたはた」が控えめで、山の低さもまた控えめです。音が響いてはいるんですが、むしろ静けさを感じます。


大漁(たいれう)の鯖のはなしに賑はへる汽車の外面(とのも)の若葉のくもり/太田水穂『冬菜』
→これもです。汽車の中は賑わっているんですが、窓の外にズームしていってしまうので、賑わいが遠のいていきます。
鯖が出てくるから取り上げたわけではないです。


ひらひらと草の藪より舞ひいでて蝶一羽ゆく浪打際を/太田水穂『冬菜』


走りゆく人力車(くるま)小さし夏きたる光りのなかの麦のひろ道/太田水穂『冬菜』

→大分麦焼酎二階堂のCMみたいな光景です。
小さい動くものに対して、大きなどっしりしたものを置くと効果がでますね。


ふけゆけば山は音なし夜(よる)の気(き)の障子をおして来るけはひなり/太田水穂『冬菜』
→音もない夜にやってくる、なにかの気配を感じとっています。障子をおしているということは、部屋のすぐ外にそれはあるのです。


鳴きもせず夕日の垣に鶯の思ひほけたる貌(かほ)を見にけり/太田水穂『冬菜』



宵口の村家の小路(こうじ)田もどりの人声すぎてまた音もなし/太田水穂『冬菜』

壁冷えて今宵は虫も鳴かぬなり米とぐ音はとなりなるらし/太田水穂『冬菜』

→オレの好みとして、静けさのある歌が好きなんですが、この『冬菜』に関してはそれが特に強く出たように思います。
人の声や米をとぐ音など、少しの音を出すことで、より静けさが引き立つのです。
最初のほうに引いたモーターボートや汽車の歌は、にぎやかさのなかに静けさのある歌でした。



摘むとせし小指にふるゝ物の芽のやはらかなるに思ふことあり/太田水穂『冬菜』



船つくる工場の槌を山彦に日和さだまる島々の冬/太田水穂『冬菜』



暮れてゆく大嶺を横に村々は蒼き灯(ともし)をともしそめたり/太田水穂『冬菜』

→こういう大小のコントラストの歌にもいくつか丸をつけました。さっきの人力車の歌もそうでした。
山の大きさ、これからくる夜の大きさ。人のともす明かりの小ささ。


持たせたる毬をおもちやに半日は独り遊びをする仔犬なり/太田水穂『冬菜』
→小さな犬の、無邪気さと同時にさびしさも感じます。
オレも小さい頃はおもちゃでひとり遊びをしましたが、こんなふうに見る大人もいたのかなあと、そんなことも思います。


音ふかく障子をおして来る冷えの大雪つもる夜のけはひなり/太田水穂『冬菜』
→また障子をおして来る気配の歌ですが、今度は雪だと察知しています。障子越しですが、冷えと音の深さで大雪を感じています。
これも、わずかな音のする静けさの歌ですね。



この歌集からは以上です。
長くて自然の歌ばかりで、なかなか手強かったです。苦手でしたが、こうして良かった歌ばかりを振り返ってみると、良かった気がしてきました。
オレの「良さを感じとる力」に偏りがあって、似たような良さの歌が並びました。



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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