前田夕暮『水源地帯』を読む  ~俺はここにゐるここに飢ゑてゐる、ほか

筑摩現代文学大系68「現代歌集」の五回目。

前田夕暮『水源地帯』

昭和7年に出た歌集で、昭和4年以降の歌を収録している。


最初に「空より展望する」という連作がある。有名な

自然がずんずん体(からだ)のなかを通過する──山、山、山

が含まれる。


自由律で口語で句読点と感嘆符が多い。そのうえ飛行詠がある。



十四インチ望遠鏡のレンズいつぱいに這入つて来た巨大な月!/前田夕暮『水源地帯』
→「三鷹天文台」という一連から。
飛行詠があると書いたけど、望遠鏡で月を見る歌もある。
月の巨大さに驚いているが、月は十四インチにおさまっている。


赤く湿疹した都会の皮膚にゐて、ひたすら繁殖しやうとするもの/前田夕暮『水源地帯』
→人間のことだろう。「湿疹」「皮膚」により、微生物のようにとらえられる。都会の人を見ていても「ひたすら繁殖」しようとしているようには見えないが、顕微鏡で微生物を見ればそのように見える。
巨大な顕微鏡を通せば、あるいは……?



陸地が、海へなだれ込んで来そうな気配だ、私の船もまた傾(かし)いでゐる/前田夕暮『水源地帯』

私のからだから流れ出す明るい旅愁!ひたり、ひたりと波が揺すつてゐる/前田夕暮『水源地帯』

→船の上からの歌二首。これらも「山、山、山」と同じように乗り物に乗っているときの尋常でない感覚の歌。


七月の靄が光る遠方の空の色から、青林檎の味覚が来る/前田夕暮『水源地帯』


俺はここにゐるここに飢ゑてゐると、ポケツトの中で凍てついた手がいふ/前田夕暮『水源地帯』

→「自分の手」という一連。
手は寒さ冷たさを感じやすい体の箇所だ。「ここにゐる」「ここに飢ゑてゐる」の畳み掛けが存在感を強くする。手に「俺」という一人称がある。


白い巨大な煙突が窓外に立ちはだかつて、何か不安な日の暮/前田夕暮『水源地帯』


隣の雑居室の大時計が、一時をうつたきり、いつまでたつても二時をうたぬ (夜) /前田夕暮『水源地帯』

→歌の前に詞書のついている歌もあるが、このように歌の後にカッコで補足してある歌もある。
眼科で手術した歌があるので、病院での一夜と思われる。夜の長さ。



厚い暗い壁の向うで、夜どほしぶつぶつと泡のやうに独りごとをいふ老婆!

寝台の下から青白い紐が這出していつたといふのだ、此老婆は/前田夕暮『水源地帯』

→まだ病院の歌。ほかの病人も登場してくる。
寝台の下から青白い紐、こわいな。この老婆も気味の悪いところがあるけれども。


ひとりぼろタクシーのなかで、へし折れたやうな街の後ずさるのを感じた/前田夕暮『水源地帯』
→これも乗り物+特殊感覚の歌。昭和7年のタクシー。
引かなかったが昭和6年にグライダーの歌もあった。けっこうこの頃にはすでに色々乗り物があるんだね。


いきなり、ピストルからとび出した弾丸(たま)が、自分の体(からだ)を突きぬけたといふ感じ/前田夕暮『水源地帯』



印つけた歌は以上。
おもしろいし読みやすいんだけど、57577が恋しくなってしまった。
『水源地帯』をおわります。
んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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