土屋文明『山谷集』を読む  ~いづへの海に行きて眠らむ、ほか

筑摩書房の現代文学大系68「現代歌集」の第4回目をやります。
土屋文明『山谷集』。昭和5年から10年までの歌を収録。



知ってる歌としては

小工場に酸素熔接のひらめき立ち砂町四十町夜ならむとす

吾が見るは鶴見埋立地の一隅ながらほしいままなり機械力専制は


などありました。



新しき地図を買ひ来て夜ごと読むいづへの海に行きて眠らむ/土屋文明『山谷集』
→迷った時に地図を「見る」くらいはオレでもありますが、地図を「読む」、それも読書のように夜ごとに読むのを新鮮と思いました。
文章には段落や章がありますが、地図では海がそれにあたるんでしょうか。想像の海。


物の香のこもれる中に子供等は寝並び居りぬその母親も/土屋文明『山谷集』


平凡に吾はあり来し吾よりも出来よき友も多く平凡に過ぎぬ/土屋文明『山谷集』


屋根の下に静なる窓の灯を見れば世のおほかたの安らかに見ゆ/土屋文明『山谷集』

→言われてみれば、という歌。安らかそうな灯りの下で人間のいざこざがあるわけですね。


暖かき真鶴村にトマト植ゑてのどかなる父子(おやこ)富めりとも見えず/土屋文明『山谷集』
→調べてみたら真鶴(まなづる)という地名は神奈川にありました。
トマトを植えるのを見て、のどかなのを見て、そして金を持っていそうなのかを見ています。


石の上にすてし食物に寄りて来る生物(いきもの)は思ひかけぬ所より/土屋文明『山谷集』
→オレもそういうことに驚いたことがありまして、思い出して「ウッ」てなります。意外な近い所にいたりするんです。


さめざめと男に倚れる女子(をみなご)の見すぼらしけれ渚くもりて/土屋文明『山谷集』



「横須賀」という一連に注目しました。軍艦などを見ながら戦争のことを思っています。二首引きます。

国を守りの戦ながらひたすらに生命(いのち)いきほふはそれのみによし/土屋文明『山谷集』

此所に戦死の人のあと見れば生き死の吾が観念の変るかと思ふ/土屋文明『山谷集』




蘭の香のかそけき部屋にわが居るをいたく不調和に妻は感ずらし/土屋文明『山谷集』


答案のこの一綴り読みはたさば蕗の煮加減見て来るべし/土屋文明『山谷集』

→仕事しながら頭のなかで考えるようなことを、そのまま歌にしています。


山門の前にさやけき瀬の音のわが記憶よりいたく清けし/土屋文明『山谷集』




ひさびさに銀座あるけばわが日頃時代にうとく生くるをぞ思ふ/土屋文明『山谷集』

にぎはへる銀座ゆきつつおのづから吾が感情は戦争を肯定す/(同)

→「銀座」という一連五首の一首目と二首目。「戦争を肯定す」におどろきます。三首目には帰宅していますのでそれ以上にはわかりませんが、街が戦争のムードだったのでしょうか。想像しがたい「感情」でした。


健やかに老いて物慾の皺たてる面よ蘭のまへに照り映ゆ/土屋文明『山谷集』
→「蘭展覧会」より。さっきも蘭の歌がありました。
老人の皺に物欲を見ています。蘭のそばにあって、さらにイメージの強くなる物欲の皺です。


青きボート岸につなげる池ありて立つ朝霧の水の上に見ゆ/土屋文明『山谷集』
→ちょっとずつカメラが引いていくようです。最初にイメージした青いボートは、読みおわるころには霧のなかにあります。


けふのひと日月の光にしづまりていよよ聞くべし谷ゆく水音/土屋文明『山谷集』
→何度も言いますけど、オレはしずかな歌が好きです。音がないしずけさじゃなくて、すこし音がするやつが特にいいです。
「月の光にしづまりて」がまたいいのです。月が静寂をもたらすようです。



以上です。
次回この本『筑摩書房 現代文学大系62 現代歌集』のつづきをやるとすれば、前田夕暮の『水源地帯』になりそうなんですが、まだ当分読めそうにありません。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR