谷知子編『ヒギナーズ・クラシック 日本の古典 百人一首』【5】49-60

百人一首。ここでは49-60番の歌をあつかう。三首ずつ。




49
御垣守衛士のたく火の夜はもえ 昼は消えつつものをこそ思へ/大中臣能宣朝臣

50
君がため惜しからざりし命さへ ながくもがなと思ひけるかな/藤原義孝

51
かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを/藤原実方朝臣


49
御垣守衛士は宮中の門番の兵士。火が恋心にかかる。
夜しか逢えない恋人たち。


50
長くもがな=長くありたい

男が恋しい女と初めて結ばれて、翌朝帰るときに詠んだとされる。

この歌とうらはらに、21歳で作者は亡くなった。


51
技巧が凝らされ、賛否両論の歌。
「いぶき」=伊吹山、言ふ
さしも草=お灸とするよもぎ、さしも
思ひの「ひ」は火でもある。

「このようにあなたに恋しているとさえ、言うことができません。だから、あなたは、伊吹山のさしも草が燃える火のように、これほどにも燃える思いであることを、ご存じないでしょうね。」




52
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしきあさぼらけかな/藤原道信朝臣

53
歎きつつひとりぬる夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る/右大将道綱母

54
忘れじの行末までは難ければ 今日をかぎりの命ともがな/儀同三司母



52
しののめのほがらほがらに明けゆけばおのがきぬぎぬなるぞ悲しき/作者未詳
(明け方の空が晴れ晴れと明けてゆくと、各々が別の衣を着て、わかれてゆくのが悲しい)

という歌も。


53
男の心変わりを知って送られた歌。
「あくる」には門が開くの意味も。「昨夜、門が開くまでの時間は長かったでしょう。これであなたも、待つ私の気持ちがおわかりになったのでは?」という皮肉。


54
男の心変わりが日常茶飯事で、女性は恨みながらもそれを受け入れるしかなかった。永遠の愛など信じられぬ女性は、「そう言ってくださる今日、命が終わればいいのに」と願った。

作者の夫の愛は変わらなかったが、夫の死後は不幸な晩年だったという。




55
滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞えけれ/大納言公任

56
あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな/和泉式部

57
巡りあひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かな/紫式部



55
藤原の道長にささげられた。大覚寺(いまの京都)の散策からつくられた。
昔の滝の音はもう聞こえないがら名声だけは今も伝わっている。


56
病床にあり死期の近いことを予感した和泉式部が、死ぬ前にあなたに一目逢いたいと贈った歌。

世の中に恋てふ色はなけれども深く身にしむ物にぞありける/和泉式部
世の中に恋という色はないけれども、布地に染まる色のように、恋は深く身にしみるものだったよ。


57
女の友情を詠んだ。
「めぐり逢いて」「雲隠れにし」はともに月と友達の両方が主語となる。愛するものがふと見えたかと思うとまたすぐに姿を消してしまうもどかしさ、切なさを月になぞらえた。




58
有馬山猪名のささ原風吹けば いでそよ人を忘れやはする/大弐三位

59
やすらはで寝なましものを小夜更けて 傾くまでの月を見しかな/赤染衛門

60
大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立/小式部内侍



58
詞書「かれがれにたなる男の、おぼつかなく、など言ひたるによめる」
(訪れが絶え間がちになった男性が自分のことを棚にあげて「私のことを忘れたのではと気がかりです」などと言ってきたので言い返した歌)

笹が風にそよぐ「そよそよ」から「そう、そのことですよ」につなげられる。
「忘れやはする」は強い反語。忘れなどするでしょうか、忘れはしません。


59
「やすらはで」は躊躇するという意味の「やすらふ」から。
「寝なましものを」は「寝てしまえばよかったのに」。事実と逆のことを仮に想定する言い回し。


60

「いく野」はいまの京都の「生野」と「行く」をかける。
「ふみ」は手紙の「文」と「踏み」をかける。
母を思う歌。藤原定頼に母に代作してもらっているなどとからかわれて、歌でやり返した。



つづく。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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