「なんたる星」2015年8月号を読む【前編】  ~「手」と名乗る女、ほか

なんたる星 2015年8月号。
なんたる星大賞があって増刊号が出ていますが、それ以外の通常の作品を今夜はやります。
新人賞がでているせいでそれ以外が読まれないのは総合誌あるあるですが、そういう時も同じように読んでいくのがオレのスタイルです。

なんたる星8月号はこちらから。ネットからダウンロードして読む作品集です。
http://p.booklog.jp/book/100187/read



なんと俺、短い名前がだいすきで「手」と名乗る女の胸を揉む/ナイス害「怪談短歌」(鉄拳5搭載ドローンとの死闘編)
→「女の胸を揉む」が流れてしまっていて惜しいんですが、「なんと俺」と「手」がいいから丸にしました。
短い名前フェチもやばいけど「手」がやばいです。何を思って付けた名前か見当もつかない。手がどうしたっていうんでしょう。不安になります。

「なんと俺」は、変わった性癖であるのを自覚していて、だけどドン引きされないようにとあらかじめ「これから驚くようなことを言いますよー」と予防線を張っている表現です。例えば「実は俺、」だと深刻になります。「なんと俺、」だと軽さがでます。こうして次に出てくるもののやばさを緩和しようとしているのですが、緩和しきれないヤバさが「手」にはあります。



砂浜を駆け抜けてった影のない黒ギャル達がワニを連れ去る

「遺影~~~買います~~~」の軽トラが影のない黒ギャルを連れ去る
/ナイス害「怪談短歌(鉄拳5搭載ドローンとの死闘編)」

→離れて置かれている二首をわざと並べてみました。「砂浜を駆け抜けてった」で健康的なイメージだった黒ギャル。影がないのは真昼だからそのように見えるのかと読みました。
でもその後の歌になると、イメージが変わります。
遺影を買い取る軽トラの間延びした声は竿竹屋を思わせます。ちり紙交換車なども思い出しますが、ありえないことで、ダークです。
それに連れ去られるということは、この黒ギャルは遺影かその類であるわけです。黒は日に焼けた肌の色から死者の色へとかわり、影がないのはこの世にいないから、と読めます。


長い連作タイトルですが、これはスベッているかなと。「ドローン」は今みんながとびつく言葉です。「鉄拳」は芸人の方とまぎらわしいですね。格ゲーのほうでしょうね。



自販機へのぼる誰もがつま先をお釣りの穴にいったんいれて/伊舎堂仁「銀色床(ぎんいろどこ)へ」
→誰もが自販機をのぼるというのが変な状況ですが、そうなればたしかにそこにつま先を入れるでしょうね。納得。

自販機を登らなきゃいけないのはどういう状況だろうと考えます。例えば震災の時に建物に船がのっかった映像を見ました。いろんなものがごちゃ混ぜになったらそうなるかもわかりません。
でもまあそこまで重く考えずに、ある物を別角度からあざやかにとらえた歌、という感じで楽しんだらいいのかなと思います。



火曜日の23時のバラエティのエンディング曲のPVの足/迂回「非公開リスト」
→あの時間のバラエティのエンディングってなんなんでしょうね。オレも気になるところです。番組内容と無関係な映像がほんの少し。テロップも速いし、丁寧じゃない感じがあります。
ほんのわずかなところをとらえています。



二段目の右目をがっしりつかんだらトーテムポールに登れるらしい/米田一央「避雷針」
→また登る歌です。いいですよね登るのは。子供の頃はなんでもつかんで登ろうとしますが、大人になるとなかなかやらなくなります。
さっきの自販機とはだいぶ違いますね。誰もが登るのと、伝聞では。お釣りの穴と同じように、今度は右目という細部がでてきます。


指をさせ ここで育った少年にあなたを見せろ ご迷惑をおかけして/恋をしている「海までの」
→命令、命令、ときて最後はどうやら謝っています。
二つの命令は、そこで育った人がよそ者に指をさしたりなにか要求しているようです。
「ご迷惑をおかけして」からは、少年が悪いことをして保護者が謝らせようとしている場面のようにも見えます。

「あなた」は丁寧で「見せろ」は命令だったりと言葉がいり乱れていますが、なにかいざこざがあるようです。どちらに向いているのかよくわからない嘲りや不信が、読むオレを不安にさせます。
(「不安になる」はオレとしては褒めている言葉です。短歌によって未知の世界や通常は見えないはずのものがひらけてきたということです。)



自転車でトマト畑を突っ切ればワープして佐賀城壁で死ぬ/はだし
→近道して畑を突っ切るというのはありそうなことですね。それがエスカレートして空間をワープしています。ワープするといきなり壁がでてきてぶつかるという想像はオレもします。トマトは血のようでもあります。
腐れていない赤茄子からの幾ほどもある歩みです。
佐賀はなんでしょう。遠そうな感じはします。




というわけで8月号の通常のほうは終わりです。
次回は「塔」8月号をやる予定です。なんたる星大賞はそのあとにやります。

んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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