角川「短歌」2015年8月号を読む  ~まひまひの国の音、ほか

角川「短歌」2015年8月号。


トンネルを走行中のごとき音ひまはり咲けば蕊よりきこゆ/渡辺松男「まぶたと息と桑の実のジャム」
→以前、短歌を穴埋め問題にした本がありましたが、「ひまはり咲けば蕊」のところを伏せて穴埋め問題にしたら、かなりの難問になるでしょうね。
オレなんかにはとても聞こえそうにはないものを聞いています。


旅僧にわれはあらねどまひまひの国の音するあぢさゐのはな/渡辺松男「まぶたと息と桑の実のジャム」
→これも植物から音がする歌。偶然丸をつけたけど、やっぱりオレは音のする歌が好きみたいです。
トンネルを走行中のごとき音なら想像できますが、「まひまひの国の音」となるとそれも難しくなります。ずるずる引きずるような音?
旅僧とは? 「まひまひの国」をこの僧は旅してるのでしょうか。
僧と音といえば、お経の長く引き伸ばされる声を思います。それがかたつむりのノソノソとしたイメージに重なってくるのかなあ。



特集は「河野裕子の魅力」

紙袋に手をさし入れて感じをりもやもやとせる袋の睡気(ねむけ)/河野裕子『家』



「私はここよ吊り橋ぢやない」の歌は知ってたけど、詞書は知らなかった。短いし何気ないけど、あるとないとではちがう。
アンソロジーに入るときや一首単位で引かれるときは詞書きはよく省かれるが、あったほうがいい。



光源はどこなのだらう壁づたひに踏み外さぬやうに歩いてゐるが/河野裕子『庭』
→野外にしろ室内にしろ、光源がわからないことってあるだろうか。そんなにないように思う。なんだか夢のなかみたいだ。
踏み外さぬように歩くのもそうだ。踏み外すと落っこちてしまいそうなあやうさがある。



いつのまにか、ですます体じゃなくなっちゃったけど、オレの書くものはネットではいつもこんな感じ。おそるおそる丁寧語で書きはじめて、ほぐれるとこれになる。紙媒体の場合は一方にそろえるけれども。



ゆつくりと空を渡りてゆく月に月の匂いあり向き合うて吸ふ/河野裕子『母系』
→さっきは植物から音がする歌を引いたけど、こちらは月に匂いがしている。そういう、普通じゃない感覚がおもしろいと思う。言われてみると、花に音があり月に匂いもあるような気がしてくる。
「向き合うて」のような月との位置関係にも特徴がある。






さういへばゆふべの夢の亡き夫はきのふ会ひし息子のシャツ着てをりし/藤井幸子「梔子の頃」
作品12首から。「梔子」はくちなしと読む。そういうの読めないんだよねえ。
記憶が毎日書き換えられていってしまうような、おかしみのようなさみしさ。



特別企画「戦争の肉声」。岩田正さんが軍隊の嘘についてくりかえし語っておられるのが印象的だった。







夕闇に手を振りていし吾のこと手帳に書きぬ或る日の母は/大島史洋『ふくろう』

自分史を書くとパソコン始めたる夫の少年期こそ待ち遠し/木村博子『宇宙の粒子』

書評から2首。
複数の時間が一首のなかに流れている。
手を振ったり振られたりしている時間・それを手帳に書く時間・それを知って思い返す時間。
パソコンを始めた時間・いつか少年期を書き上げる時間・少年でいた時間。



みづからを売るにあらずや静かなる婦人座しをり教会バザーに/たなかみち『具体』


「言わなくちゃ伝わらないよ」を繰り返し繰り返し決して生まれぬ言葉/山口文子『その言葉は減価償却されました』


教育とは教はりしことおしなべて忘れし後に残るものをいふ/清水芳洞『六花』


警官に土下座しながら泣くぼくの顔に押し潰されるタンポポ/加部洋祐『亞天使』







最後に公募短歌館から。

火曜日の暦千切れば森歯科とおほきくおほきく記してをりぬ/今野浮儚
→最近投稿欄でよく名前を見る方だ。浮いて、儚い。特徴あるお名前だ。
「森歯科」。どんだけ大きく書いてあるんだろう。書いたときと現在の意識の違いが感じられる。


薬局でビタミン剤を見比べて箱のきれいな物を選んだ/小橋辰矢
→この方もよく見かける方。
相談して買ったほうがいいんだけど、なんとなくしないで買うこともある。成分を見てもよくわからないからデザインで買ってしまう。しずかに危ない歌だ。




オレも投稿したけど今回はだめだった。トリプル特選+佳作のあとのボツなので、ちょっとがっかりした。でも出した歌を読み直すと仕方ないと思える。



以上です。んじゃまた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

最新記事
リンク
月別アーカイブ
フリーエリア
カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR