「なんたる星」2015年7月号を読む  ~違うこれでもない、これでもない、違う、ほか

「なんたる星」2015年7月号。


いつもその月のうちにやってたんですが、今回はなんだかんだで月をまたぎました。


生きるとは? そんな映画のタイトルがならぶ人のくしゃくしゃだ千円/はだし「田中くんのこと」
→人生の意味を問うようなタイトルの映画が映画館で上映されていて、そこで支払われる千円札のシワに注目しています。そのお札の「くしゃくしゃ」に「生きるとは?」の答えがひそんでいるのかもしれません。
語順か助詞かに乱れがあって、「ならぶ」が「映画のタイトル」にも「人」にもかかるように見えます。
「くしゃくしゃだ」の「だ」もなにかありそうです。「な」や「の」でもおさまるところに「だ」があります。強調される感じでしょうか。


きょうは駅で輪ゴムを拾ってそれを腕に巻いたり家でなくしたりした/はだし「田中くんのこと」
→ひとつの輪ゴムが一日の出来事となっています。輪ゴムとありますが、まるで動物でも拾ってきて仲良くなってそれから死なせたみたいにも見えて、なんだかせつなくなりました。


真剣に生きたらどう? って聞かれたら うん って答えるしかない雨だ/米田一央「夜寝しそこねる」
→雨がその場に真面目な空気をつくっていて、真面目な答えをするしかなかったのだと読みました。
「うん」の前後のスペースが「うん」を重くしています。
「聞かれたら」はこれでいいのか気になるところでした。ほんの例ですが「訊かれたら」という表記もあります。


さっきのはだしさんの歌もそうですが、「?」のあとはスペース空けています。そういうところも気にして見ています。空けない人もいます。
オレは「塔」の歌稿で、空けたのに空けてない状態で載ったことがあります。


外側のかぎりなさには気付いてるけれどもドッジボールの外野/迂回「散歩ごはん」
→内野は限られたスペースですが、たしかに外野は限りがありません。ですがドッジボールの外野は内野を攻撃するための場所で、さらに外側に向かうことがありません。
無限であることに価値がない、そういうところを言ってるんだと思います。
全部は言いきらず、しかし読み取れるような収め方。


おしぼりでつくった門をゆっくりと指のあなたがくぐってくれた/伊舎堂仁「女だ」
→オレはこういう経験がないし、想像しているものにもこれだという自信はないのです。
でもカップルにこういうことってあるなあと思います。例えばオレと彼女は喫茶店にいくと、ストローの袋を使って綱引きのようなことをして遊ぶのです。
二人だけの幼い遊びがあり、それにより愛を確認している。
でももしかしたらもっと、エロい意味が含まれているのかもしれません。おしぼりって湿ってますね。


フェデラーのバックハンドの勢いで手を振り払う 肩脱臼す/ナイス害「助けて山下達郎」
→すごく強い拒絶ですね。
常識的な結句のようですが、フェデラーなら同じ状況でも脱臼せずに振り払うだろうかと思いました。


違うこれでもない、これでもない、違う、と言いながらティッシュを出し続ける/ナイス害「助けて山下達郎」
→ティッシュはいくら出しても同じものしか出てきません。ですから、このひとは探し求めているものにたどり着くことはできそうにありません。そこに絶望があります。
ティッシュにティッシュ以外を求めるあぶなさにくわえ、「違う」と「これでもない」を反復するところにもあぶなさがあります。
その人にしかわからない「ティッシュのなかにあるであろうティッシュ以外の何か」があるわけで、こちらとは別の世界があるようです。
それとも、ある特定のペーパーにだけ「しるし」のようなものがあるのでしょうか。謎です。


ワケモナクタダウナダレル症候群夕立ちならばいま降るべきだ/スコヲプ「夏の」
→米田さんの歌でもそうでしたが、雨は精神的に重いものをつれてくるようですね。
読んですぐわかるような名前の症候群です。わかりやすい名前の薬もありますね。これに対処する薬があるとしたら「マエムキニナール」とかそんな感じでしょう。

雨と「べきだ」の組み合わせは次のような歌を思い出させます。

今夜どしゃぶりは屋根など突きぬけて俺の背中ではじけるべきだ/枡野浩一



冷蔵庫あけたらすっごい金色でふりかえったらすっごい後光/加賀田優子「みどり」
→いやそんなに強い光でしょうか、でもそういう冷蔵庫もあるかもしれません。
開けた時は開けた人の目線のようなんですが、後光は開けた本人にはわからないでしょう。視点の移動があります。
冷蔵庫を開けて振り向いただけでまるで聖なる存在みたいにみえるのが面白いです。
「っ」の多さからか、テンション高めに見えますね。冷蔵庫を開けただけでこのテンションというのはなかなかです。




以上です。
んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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