米澤義道『鯨尺』を読む  ~スタンドを点ければ再び夜、ほか

米澤義道歌集『鯨尺』。

米澤義道さんは塔の方であります。昭和15年生まれ。短歌をはじめたのは大学を定年退職してからのこと。
2015年6月に出たこの歌集が第一歌集。2008年から2014年までの歌を収録。

ネットで調べてもまずこの方の情報はなかなか出てきません。
今はツイッターの検索機能を使うと数年ぶんのツイートをさかのぼって調べることができますが、いまだかつて米澤さんについてツイートしたことがあるのはオレ一人であります。そのほかのネット全体ですと、大学関係の情報のほうが多く出てくるくらいです。
歌集が出ましたので、より広くこれから読まれていくかと思います。
それより歌を見ていきます。


庭師聞くラジオの音は少しずつ庭の松の木登り行きたり/米澤義道『鯨尺』


受付嬢再び言いたりお大事に つり銭仕舞う時間長くて/米澤義道『鯨尺』

→「お大事に」を二回言われたことを歌にしています。こういうことあるなあと思います。細かい。


この人は半分コしたら大きな方必ず呉れる四〇年経つ/米澤義道『鯨尺』


効き眼とは塀に穴あれば無意識に覗く眼の方と説明したり/米澤義道『鯨尺』

→手には右利き左利きというのがありますが眼にもあるんですね。それを知る方法の説明がなんとも特殊。


「ラベンダー」がぱっと出る日と出ない日のありたり今日はぱっと出でけり/米澤義道『鯨尺』
→すぐ出る言葉と、出ない言葉と、その間の言葉があって、ラベンダーがちょうどそれなんですね。その日のなにかで左右するのでしょうか。こういうことは年を重ねると増えそうです。


キャベツ売っていたら止めてと希望出る山の温泉バス旅行の帰途/米澤義道『鯨尺』
→野菜を売っている場所がポツポツとあるような道なんですね。
これも細かい歌。誰かが何か言ったところを切り取った歌がいくつかあります。


AからZ皆ありそうな枝ぶりの胡桃の向こう春の夕焼け/米澤義道『鯨尺』


白々と夜が明けてもスタンドを点ければ再び夜になるしばし/米澤義道『鯨尺』

→スタンドの灯りが夜を感じさせるということがあります。外は夜が明けていても、スタンドの灯りがあると夜のような感じがする。しかしあんまり朝が明るくなるとスタンドをつけてもあまり夜じゃなくなってくる。


デジカメの不慣れな自動設定を皆で待ち居りポーズしたまま/米澤義道『鯨尺』


パソコンの近くに置きし耳かきをどこかに持って行ったのは誰/米澤義道『鯨尺』

→という歌が、オレが初めてツイートした米澤さんの歌です。ちょうど歌集の中ほどにありました。

耳かきを他の誰かに使われて、なくてちょっと困っている。
さっきから、大きい出来事がなにも起こっていなくて平穏そのものの歌が続いています。帯には葬儀の歌が引いてありますがそれも尾を引くことはなく、全体的に何事もない平穏な歌集です。


雨予報の後で口調を変えて言うオオムラサキの羽化始まれりと/米澤義道『鯨尺』


茶の数滴拭うためには惜しいかなティッシュ一枚箱より抜いて/米澤義道『鯨尺』

→意識したことはありませんが、そういう感覚はあるように思います。ティッシュ一枚にふさわしい汚れの量があってそれより少ないともったいないというのは。


別人に見ゆ月曜日に会うはずの同僚本屋の立ち読みの顔/米澤義道『鯨尺』


はくしょんはしたくなくてもしなければその直前に覚悟を決める/米澤義道『鯨尺』


人懐こいトンボが去らぬ棒の上おかげでずっと写真撮っている/米澤義道『鯨尺』

→そんなにたくさん撮るものではないような……。たのしい場面です。


勝ち負けを知らず戦う選手等を録画にて観る神の如くに/米澤義道『鯨尺』
→勝敗を知っていて見るスポーツって味気ないものです。神もそんな気分で人類を見ているのでしょうか?


やっとこさ思い出しし事しばらくは直ぐ出る所に引っかかり居り/米澤義道『鯨尺』
→まさか「ラベンダー」?
これは身に覚えがあります。でもその「しばらく」のあいだには使うことがなかったりするんです。


歌を詠む気持ちにさせる歌の在り読みてしばらく鉛筆を持つ/米澤義道『鯨尺』
→これはオレが塔の選歌欄評を担当しているときに取り上げた歌だからよく覚えています。
「詠んだか詠まないかまでは言わず、鉛筆を持つところまででとどめているところに余韻があります」とか書きました。



と、そんなところでチェックしていた歌はおわりです。
なかなか面白い歌集でありました。
内容のわりには歌が多いのが気になるところでした。250ページもあるような歌集はひさびさでした。

みじかい連作だけでできています。月詠を集めたのでしょう。やや単調です。大きな連作や、変化のある一連があるといいと思います。

震災や原発も出てくるんですが、かなりあっさりしてます。「メルトダウン」という一連があるから見てみますと、メルトダウンの歌は一首だけです。そのように、ひとつのことに深入りしていくことのない歌集です。
こまかな観察の歌もいいんですが、何かにぐっと踏み込んだところも見てみたいなあという欲求を感じた一冊でした。



んじゃまた。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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