上野誠『はじめて楽しむ万葉集』 第七章、第八章

第七章




この花の 一(ひと)よの内に 百種(ももくさ)の 言(こと)ぞ隠(こも)れる 凡(おほ)ろかにすな/藤原広嗣(ひろつぐ)


一よ(ひとよ)=花びらの古語という説がある
百種の=たくさんの
凡らかにすな=粗末に扱ってくださいますな





忘るやと 物語して 心遣り 過ぐせど過ぎず なほ恋ひにけり/作者未詳

忘れることもあろうかと人と世間話などをして、気を紛らわせて、物思いを消し去ってしまおうとしましたが、一層恋心は募るばかりだった。





降る雪の 空に消(け)ぬべく 恋ふれども 逢ふよしなしに 月ぞ経にける/作者未詳

降る雪 空中で消えていってしまうような雪、そのように恋いしたうのだが会う方法もなく数ヵ月を経てしまった





大口の 真神の原に 降る雪は いたくな降りそ 家もあらなくに /舎人娘子(とねりのをとめ)

「大口の」は真神にかかる枕詞。
真神=オオカミ
真神の原は明日香の一帯を指す原っぱ。
たいそういたく降らないでくれ、家もないのだから。





我が里に 大雪降れり 大原の 古りにし里に 降らまくは後/天武天皇
夫人とのかけあいの歌。近くに住んでいるのに相手の住むところを悪く言って挑発している。





かにかくに 物は思はじ 朝露の 我が身一つは 君がまにまに/作者未詳

ああだこうだともう物思いはしますまい。朝露のようにはかないわたしの命は、あなた任せでございます。



第八章



高松の この峰も狭(せ)に 笠立てて 満ち盛りたる 秋の香の良さ/作者未詳

笠立てて=キノコの笠が開いているようす。松茸と考えられる。





春は萌え 夏は緑に 紅の 斑に見ゆる 秋の山かも/作者未詳





秋の田の穂田の刈りばか か寄り合はば そこもか人の 我(わ)を言なさむ/草嬢(くさのをとめ)

草嬢には諸説ある。田舎の娘、という説。
刈りばか=刈りのノルマ
「はかどる」と関係ある。「はか」はひとつの区切られた場所をさす。

か寄り合はば=お互いに近寄ったら
そこもか=そんなことぐらいで

秋の田圃の穂田の刈り分担。お互いに近寄っていったらそんなことぐらいで他の人は、わたしたちのことを噂するでしょうね。





秋風は 涼しくなりぬ 馬並めて いざ野に行かな 萩の花見に/作者未詳

秋の花見として、萩を見にいくことがあった。





独り寝と 薦朽ちめやも 綾席(あやむしろ) 緒になるまでに君をし待たむ/作者未詳

綾席=花ござ。
緒=紐

一人で寝ているだけでは、床の敷物も傷むことはありますまい! その綾席を敷いて、紐になるまでらあなたをお待ち申し上げましょう。




これやこの=話を聞いて知っていたものを実際に見た感動をあらわす表現。
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プロフィール

工藤吉生(くどうよしお)

Author:工藤吉生(くどうよしお)
仙台市在住。2011年に枡野浩一さんの「ドラえもん短歌」の影響で短歌を始めました。

▽短歌雑誌「短歌研究」「角川短歌」などの読者投稿欄、
▽新聞歌壇「毎日新聞」「日本経済新聞」「読売新聞」「河北新報」
▽テレビ「NHK短歌」
などで作品を発表してきました。

短歌結社「塔短歌会」に2012年から3年間所属していましたが退会し、現在は「未来短歌会」彗星集に所属しています。

▽角川短歌ライブラリ刊行記念「わたしの一首」コンテスト大賞受賞。
▽第57回短歌研究新人賞候補。
▽Eテレ「NHK短歌」年間大賞(2016年3月、佐佐木幸綱選)。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。

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